16 / 20
16.巨大蜘蛛
しおりを挟む
俺は引き出しから見つけた水晶の片割れをローブのポケットに入れると、エドラヒルの肩をたたいた。
「君の協力のおかげで、欲しいものは見つかった。――早々に、ここを出よう」
時間が経てば経つほど、入り口が小さくなっているはずだ。
早く外に出たかった。
だんだんと閉じていく草原とこの空間をつなぐ裂け目が目に浮かび、俺は足早にその小部屋を出た――その時だった。
「オリヴァー! 上だ!」
後ろからエドラヒルの張りつめた声がした。
――上――
彼の声に上を見た俺の身体が強張った。
頭上に大きな口があった。口だけで俺の頭ほどの大きさ。そして、天井に張り付く、長い八本の脚。――巨大な、蜘蛛!
そう思った瞬間には、俺に向かって、何かが吐き出された。
身体にべたべたしたものが纏わりつく。――糸だ。
「うわぁ」
間の抜けた声を出して、俺は杖を握りしめるとそのべたべたはりついてくる糸の塊を吹き飛ばすように風を起こした。
――この空間にもともといた蜘蛛が、空間の精霊力の影響で魔物化したのか。
隠された間はずっと眠っていたのかもしれない。俺たちが来たことで目を覚まして動き出したのか。――来たときは、気配に気づかなかった。
俺は杖を振って、風の刃を放った。
――けれど。蜘蛛はそれに気づき、風の刃へ向かって糸を吐き出した。
刃は、本体に届かず、糸に阻まれて消えた。
――翼狼の首だって、切り落とせる刃なのにな!
蜘蛛は音も立てずに壁を伝って、俺たちの来た出口の方へと移動していく。
――出口に陣取られると、面倒だ。
俺は蜘蛛の移動先を見た。小部屋の扉がいくつかある。
あの扉を開けると、捕獲の罠が作動する――
「エドラヒル、手前、右側の扉を開けられるか!?」
そう叫ぶと同時、横からシュルシュルと蔦が伸びていき、巨大蜘蛛の進行方向にあるドアノブに触れた。俺は杖を構えると、その蜘蛛の前に風の壁を作った。
――一瞬でも、足止めできれば。
蜘蛛の歩みが止まる――と同時に、エドラヒルの蔦がドアノブを回した。
シュン!
罠が発動し、空間が裂け、蜘蛛は黒い裂け目に吸い込まれた。
「――よし!」
と手を握った瞬間。俺の足がぐいっと引っ張られた。
「え?」
足元を見ると、足に、蜘蛛の糸が絡んでいた。蜘蛛が消えた黒い裂け目に向かって足が引っ張られ、俺は床に転ぶ。
「うわぁ」
そう叫んだ瞬間には、俺は真っ暗な空間に一人になっていた。
音も光も、世界そのものが途絶えた。
「あああああ」
自分の声だけが暗闇に響いていることに気づき、俺は立ち上がった。
――立ち上がろうとして、頭を、柔らかいものにぶつけた。
「――なんだ、これ」
尻をついた状態のまま、身体を動かせない。
伸縮する袋をぴったりと被せられたような。シーツで全身をぐるぐると巻かれたような。
そんな感覚だった。
「……蜘蛛と一緒に、引きずりこまれた……?」
俺はつぶやき、目を閉じて気配を探った。
風の精霊は、いる。
それをぐるぐると、空間の中を旋回させる。
「蜘蛛は、いない……」
一体ずつ分離して捕獲するのか。
「古代の空間魔法の技術は、すごいな……」
そうつぶやいてから、俺は目を開けた。
――暗闇。自分以外何の気配もしない、闇だ。
何も見えない。他に何の気配もない。身体も、動かせない。
「――どうしよう、か」
呟いた。
異空間に捕獲されてしまった。迂闊だった。
そう考えて冷静になると、心臓がどくんと鳴って、背中に寒気が走った。
「俺、もしかして――ずっと、このまま?」
呼吸と心臓の音だけが、やけに大きく響く。
俺は杖を握ると、風の気配を探った。
――風の精霊は、いる。けれど、外につながるような、空間魔法の綻びは、見つけられない。
この閉じられた空間には、俺しかいない。
その事実がようやく理解として胸に落ちてきた。
冷や汗が頬をつたった。
――その時だ。
ローブのポケットに、微かな振動を感じた。
身動きの取れない空間で身体をねじり、手を突っ込み、ポケットの中のものを取り出す。
――小さな水晶玉のついた、腕飾り。
その水晶が――かすかに、だが確かに、光っていた。
「――エドラヒル!」
俺は思わず、エルフの名前を叫んだ。
この見つけた水晶と対になる、もともと俺が教授から預かってきた水晶の首飾り――それは、エドラヒルが持っていたはずだ。
あいつが、俺に呼びかけてくれているのか?
俺は水晶に魔力を流して、呼びかけた。
「エドラヒル――!」
「君の協力のおかげで、欲しいものは見つかった。――早々に、ここを出よう」
時間が経てば経つほど、入り口が小さくなっているはずだ。
早く外に出たかった。
だんだんと閉じていく草原とこの空間をつなぐ裂け目が目に浮かび、俺は足早にその小部屋を出た――その時だった。
「オリヴァー! 上だ!」
後ろからエドラヒルの張りつめた声がした。
――上――
彼の声に上を見た俺の身体が強張った。
頭上に大きな口があった。口だけで俺の頭ほどの大きさ。そして、天井に張り付く、長い八本の脚。――巨大な、蜘蛛!
そう思った瞬間には、俺に向かって、何かが吐き出された。
身体にべたべたしたものが纏わりつく。――糸だ。
「うわぁ」
間の抜けた声を出して、俺は杖を握りしめるとそのべたべたはりついてくる糸の塊を吹き飛ばすように風を起こした。
――この空間にもともといた蜘蛛が、空間の精霊力の影響で魔物化したのか。
隠された間はずっと眠っていたのかもしれない。俺たちが来たことで目を覚まして動き出したのか。――来たときは、気配に気づかなかった。
俺は杖を振って、風の刃を放った。
――けれど。蜘蛛はそれに気づき、風の刃へ向かって糸を吐き出した。
刃は、本体に届かず、糸に阻まれて消えた。
――翼狼の首だって、切り落とせる刃なのにな!
蜘蛛は音も立てずに壁を伝って、俺たちの来た出口の方へと移動していく。
――出口に陣取られると、面倒だ。
俺は蜘蛛の移動先を見た。小部屋の扉がいくつかある。
あの扉を開けると、捕獲の罠が作動する――
「エドラヒル、手前、右側の扉を開けられるか!?」
そう叫ぶと同時、横からシュルシュルと蔦が伸びていき、巨大蜘蛛の進行方向にあるドアノブに触れた。俺は杖を構えると、その蜘蛛の前に風の壁を作った。
――一瞬でも、足止めできれば。
蜘蛛の歩みが止まる――と同時に、エドラヒルの蔦がドアノブを回した。
シュン!
罠が発動し、空間が裂け、蜘蛛は黒い裂け目に吸い込まれた。
「――よし!」
と手を握った瞬間。俺の足がぐいっと引っ張られた。
「え?」
足元を見ると、足に、蜘蛛の糸が絡んでいた。蜘蛛が消えた黒い裂け目に向かって足が引っ張られ、俺は床に転ぶ。
「うわぁ」
そう叫んだ瞬間には、俺は真っ暗な空間に一人になっていた。
音も光も、世界そのものが途絶えた。
「あああああ」
自分の声だけが暗闇に響いていることに気づき、俺は立ち上がった。
――立ち上がろうとして、頭を、柔らかいものにぶつけた。
「――なんだ、これ」
尻をついた状態のまま、身体を動かせない。
伸縮する袋をぴったりと被せられたような。シーツで全身をぐるぐると巻かれたような。
そんな感覚だった。
「……蜘蛛と一緒に、引きずりこまれた……?」
俺はつぶやき、目を閉じて気配を探った。
風の精霊は、いる。
それをぐるぐると、空間の中を旋回させる。
「蜘蛛は、いない……」
一体ずつ分離して捕獲するのか。
「古代の空間魔法の技術は、すごいな……」
そうつぶやいてから、俺は目を開けた。
――暗闇。自分以外何の気配もしない、闇だ。
何も見えない。他に何の気配もない。身体も、動かせない。
「――どうしよう、か」
呟いた。
異空間に捕獲されてしまった。迂闊だった。
そう考えて冷静になると、心臓がどくんと鳴って、背中に寒気が走った。
「俺、もしかして――ずっと、このまま?」
呼吸と心臓の音だけが、やけに大きく響く。
俺は杖を握ると、風の気配を探った。
――風の精霊は、いる。けれど、外につながるような、空間魔法の綻びは、見つけられない。
この閉じられた空間には、俺しかいない。
その事実がようやく理解として胸に落ちてきた。
冷や汗が頬をつたった。
――その時だ。
ローブのポケットに、微かな振動を感じた。
身動きの取れない空間で身体をねじり、手を突っ込み、ポケットの中のものを取り出す。
――小さな水晶玉のついた、腕飾り。
その水晶が――かすかに、だが確かに、光っていた。
「――エドラヒル!」
俺は思わず、エルフの名前を叫んだ。
この見つけた水晶と対になる、もともと俺が教授から預かってきた水晶の首飾り――それは、エドラヒルが持っていたはずだ。
あいつが、俺に呼びかけてくれているのか?
俺は水晶に魔力を流して、呼びかけた。
「エドラヒル――!」
0
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
ひ弱な竜人 ~周りより弱い身体に転生して、たまに面倒くさい事にも出会うけど家族・仲間・植物に囲まれて二度目の人生を楽しんでます~
白黒 キリン
ファンタジー
前世で重度の病人だった少年が、普人と変わらないくらい貧弱な身体に生まれた竜人族の少年ヤーウェルトとして転生する。ひたすらにマイペースに前世で諦めていたささやかな幸せを噛み締め、面倒くさい奴に絡まれたら鋼の精神力と図太い神経と植物の力を借りて圧倒し、面倒事に巻き込まれたら頼れる家族や仲間と植物の力を借りて撃破して、時に周囲を振り回しながら生きていく。
タイトルロゴは美風慶伍 様作で副題無し版です。
小説家になろうでも公開しています。
https://ncode.syosetu.com/n5715cb/
カクヨムでも公開してします。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887026500
●現状あれこれ
・2021/02/21 完結
・2020/12/16 累計1000000ポイント達成
・2020/12/15 300話達成
・2020/10/05 お気に入り700達成
・2020/09/02 累計ポイント900000達成
・2020/04/26 累計ポイント800000達成
・2019/11/16 累計ポイント700000達成
・2019/10/12 200話達成
・2019/08/25 お気に入り登録者数600達成
・2019/06/08 累計ポイント600000達成
・2019/04/20 累計ポイント550000達成
・2019/02/14 累計ポイント500000達成
・2019/02/04 ブックマーク500達成
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる