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16.(ネイサン視点)
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心を操る魔法の指輪――、そんなものがあるのだろうか。
でも、自分の心の変化を振り返ると、その『魔法』のせいでああなっていたとしか考えられなかった。
魔法のせいで、あんな態度をとったんだ、ルイーズ。
そう言ったら、彼女は許してくれるだろうか?
いや、とにかく。
明確な事実は、モニカがルイーズがドレスを破ったという事件をでっち上げていたこと。
そのことをまずは訂正しなければならない。
「モニカ、嘘をついたことをルイーズの前で認めて、謝罪をしてくれ」
そう言うと、モニカはぶんぶんと首を振ったまま、部屋の隅へと後ずさった。
「嫌、嫌よ、そんなことをしたら、もうお終いだもの……。今までの事、全部……」
「モニカ!」
モニカの父親が娘に飛び掛かる勢いで名前を叫んだ。
僕はそれを手で止めて、モニカを見つめた。
「もう、終わってるんだ、モニカ。僕は君のことを、今は、ただ軽蔑した気持ちでしか見られない……。どうして、君のことを熱に浮かれたように思っていたのか、今じゃわからないんだ。でも、僕の事を好きだというのなら、事実を認めて、謝ってくれ。僕ではなく、まず、ルイーズに」
モニカはその場に泣き崩れると、こくりと一回、人形のように頷いた。
***
僕はモニカとモニカの父親を連れて、ルイーズの屋敷を訪れた。
「ネイサン様……それに……商人の……アスタルト殿? どういったご用件で?」
玄関で出迎えてくれたルイーズの父親……アルフォンソ侯爵は苦虫を嚙みつぶしたような表情で僕を見つめた。
――娘に婚約破棄を突き付けた相手に対しては、当たり前の対応だろう。
「お願いがあります。ルイーズに会わせて頂けないでしょうか」
僕が頭を深く下げると、侯爵は驚いたような表情に顔色を変化させ、「いや」「しかし」と呟いた。
「僕がルイーズにしてしまったことを謝罪させていただきたいんです。……彼女が、モニカのドレスを破ったと、学園のホールで問い詰めた事を。――それは、モニカがルイーズを貶めようとついた嘘で……、それを信じてしまったのは、僕が馬鹿だったからだと」
「うちの娘がそんなことをするはずないことはわかりきっている。それを勝手に責めたて……勝手に謝罪をと言われても困ります!」
顔を上げると、侯爵は鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
「……申し訳ない」
僕は再度頭を下げた。
ルイーズに直接会わせてもらえるまで、続けるしかない。
その時……、
「ネイサン様?」
玄関ホールの向こうから、ルイーズの声がした。
「ルイ―ズ!」
ずいぶん久しぶりに彼女の声を聞いた気がした。
風の音のような、耳に心地の良い声。
僕は顔を上げて、そのまま表情を凍らせた。
彼女の傍らには、黒髪の隣国の王子――リアムいた。
そうだ、僕は彼女を階段で押してしまって……、それを助けてくれたのは彼だった……。
「ネイサン様! お引き取り下さい! ルイーズに謝罪したければ、まず国王陛下を通して、然るべき方法でしていただきたい!」
侯爵は僕たちを玄関の外へ押し出すと、扉を閉めてしまった。
***
「ルイーズのことは、でっちあげだったと、そういうことか」
父上は拳をわなわなと震わせて、振りかぶった。
僕は目を閉じると、それが自分に振り下ろされるのを待った。
しかし、いつまで経っても痛みはなく、目を開けると、父はだらりと拳をぶら下げるように立ち尽くしていた。そして、ただ一言。
「情けない……」
と呟いた。
――殴りつけられた方がどれだけ良かったか。
「――――どうして、そんな妄言を信じたんだ、お前は」
諦めきったような言葉でそう問われて、僕は、モニカの言っていたことを話した。
「魔法のようなもので――モニカに魅了されていたとしか、考えられません。モニカは街の夜市で、占い師から人を魅了する魔法が使える指輪をもらった、と」
「魔法の指輪だと?」
父上は眉根を寄せた。
「そんなものがあるわけが――、たんに、お前は婚約者をないがしろにし、別の娘に熱を上げていただけではないのか? 婚約者が決まったからには、何より婚約者を優先し、遊びは控えろとあれだけ言っていたというのに――」
ぎりりと唇を噛む。確かに僕は、ルイーズが婚約者に決まる前は、色々な子に声をかけたり、出かけたりしていた。
だけど、ルイーズとの婚約が決まってからは――、
「僕はルイーズをないがしろにするような気は全くありませんでした。僕は彼女のことが、好きだったんです」
そう血がにじむような声で言う。
父上はじっと無言で僕を見つめて、低い声で言った。
「ルイーズについては、正式に謝罪の場を設ける。嘘をついたモニカの処分はこちらで決める。――お前には、偽りの言葉を信じた罰として、謹慎を命じる」
「――はい」
僕は深く頷いた。とにかくルイーズに謝罪をする場面を設定してもらえるだけでも、今は嬉しい。
「その指輪とやらについては、調査をする」
父上はそう付け加えて、僕に下がれと命じた。
でも、自分の心の変化を振り返ると、その『魔法』のせいでああなっていたとしか考えられなかった。
魔法のせいで、あんな態度をとったんだ、ルイーズ。
そう言ったら、彼女は許してくれるだろうか?
いや、とにかく。
明確な事実は、モニカがルイーズがドレスを破ったという事件をでっち上げていたこと。
そのことをまずは訂正しなければならない。
「モニカ、嘘をついたことをルイーズの前で認めて、謝罪をしてくれ」
そう言うと、モニカはぶんぶんと首を振ったまま、部屋の隅へと後ずさった。
「嫌、嫌よ、そんなことをしたら、もうお終いだもの……。今までの事、全部……」
「モニカ!」
モニカの父親が娘に飛び掛かる勢いで名前を叫んだ。
僕はそれを手で止めて、モニカを見つめた。
「もう、終わってるんだ、モニカ。僕は君のことを、今は、ただ軽蔑した気持ちでしか見られない……。どうして、君のことを熱に浮かれたように思っていたのか、今じゃわからないんだ。でも、僕の事を好きだというのなら、事実を認めて、謝ってくれ。僕ではなく、まず、ルイーズに」
モニカはその場に泣き崩れると、こくりと一回、人形のように頷いた。
***
僕はモニカとモニカの父親を連れて、ルイーズの屋敷を訪れた。
「ネイサン様……それに……商人の……アスタルト殿? どういったご用件で?」
玄関で出迎えてくれたルイーズの父親……アルフォンソ侯爵は苦虫を嚙みつぶしたような表情で僕を見つめた。
――娘に婚約破棄を突き付けた相手に対しては、当たり前の対応だろう。
「お願いがあります。ルイーズに会わせて頂けないでしょうか」
僕が頭を深く下げると、侯爵は驚いたような表情に顔色を変化させ、「いや」「しかし」と呟いた。
「僕がルイーズにしてしまったことを謝罪させていただきたいんです。……彼女が、モニカのドレスを破ったと、学園のホールで問い詰めた事を。――それは、モニカがルイーズを貶めようとついた嘘で……、それを信じてしまったのは、僕が馬鹿だったからだと」
「うちの娘がそんなことをするはずないことはわかりきっている。それを勝手に責めたて……勝手に謝罪をと言われても困ります!」
顔を上げると、侯爵は鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
「……申し訳ない」
僕は再度頭を下げた。
ルイーズに直接会わせてもらえるまで、続けるしかない。
その時……、
「ネイサン様?」
玄関ホールの向こうから、ルイーズの声がした。
「ルイ―ズ!」
ずいぶん久しぶりに彼女の声を聞いた気がした。
風の音のような、耳に心地の良い声。
僕は顔を上げて、そのまま表情を凍らせた。
彼女の傍らには、黒髪の隣国の王子――リアムいた。
そうだ、僕は彼女を階段で押してしまって……、それを助けてくれたのは彼だった……。
「ネイサン様! お引き取り下さい! ルイーズに謝罪したければ、まず国王陛下を通して、然るべき方法でしていただきたい!」
侯爵は僕たちを玄関の外へ押し出すと、扉を閉めてしまった。
***
「ルイーズのことは、でっちあげだったと、そういうことか」
父上は拳をわなわなと震わせて、振りかぶった。
僕は目を閉じると、それが自分に振り下ろされるのを待った。
しかし、いつまで経っても痛みはなく、目を開けると、父はだらりと拳をぶら下げるように立ち尽くしていた。そして、ただ一言。
「情けない……」
と呟いた。
――殴りつけられた方がどれだけ良かったか。
「――――どうして、そんな妄言を信じたんだ、お前は」
諦めきったような言葉でそう問われて、僕は、モニカの言っていたことを話した。
「魔法のようなもので――モニカに魅了されていたとしか、考えられません。モニカは街の夜市で、占い師から人を魅了する魔法が使える指輪をもらった、と」
「魔法の指輪だと?」
父上は眉根を寄せた。
「そんなものがあるわけが――、たんに、お前は婚約者をないがしろにし、別の娘に熱を上げていただけではないのか? 婚約者が決まったからには、何より婚約者を優先し、遊びは控えろとあれだけ言っていたというのに――」
ぎりりと唇を噛む。確かに僕は、ルイーズが婚約者に決まる前は、色々な子に声をかけたり、出かけたりしていた。
だけど、ルイーズとの婚約が決まってからは――、
「僕はルイーズをないがしろにするような気は全くありませんでした。僕は彼女のことが、好きだったんです」
そう血がにじむような声で言う。
父上はじっと無言で僕を見つめて、低い声で言った。
「ルイーズについては、正式に謝罪の場を設ける。嘘をついたモニカの処分はこちらで決める。――お前には、偽りの言葉を信じた罰として、謹慎を命じる」
「――はい」
僕は深く頷いた。とにかくルイーズに謝罪をする場面を設定してもらえるだけでも、今は嬉しい。
「その指輪とやらについては、調査をする」
父上はそう付け加えて、僕に下がれと命じた。
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