83 / 217
4.元聖女を追い出した元王子が謝罪に来ました。
第82話(キアーラ王国に向かう街道で)
しおりを挟む
マルコフ王国西端の街の関所を出たミハイル大司教の馬車は、キアーラへの帰路を走っていた。
馬車の中でミハイルは大きく深いため息をついた。
「全く、王子に謝罪までさせて迎えに行ってやったというのに、あの我儘娘め――」
ミハイルにとっては、レイラが強く「戻らない」と自分で主張したのは意外だった。彼の記憶の限りでは、レイラが今まで自分の言ったことに逆らったことは、一度もなかった。だから一時的な気まぐれで出て行ったとしても、迎えに行って押し切れば、戻ってくるだろうと本気で思っていたのだった。
「――っ、――!!!」
ミハイルの横には、手を縛られ口輪をされたエイダンがわめいていた。
彼が言葉にならない声で叫んでいたのは、『無駄足だったじゃないか、馬鹿野郎! それに、あいつが魔族だというのはどういうことだ!』だった。
(どこから魔族をもらってきた? そんな話は王族には全く伝わってきていない。神殿め、勝手に怪しげなことをしやがって!)
エイダンは叫ぶことに疲れるとぐったりし、揺れる馬車に身をゆだねながら心の中で悪態をついた。
(それに、マルコフまで行ったのも無駄足じゃないか、馬鹿め!)
牢に入れられ、「ハンナ共々国外追放になりたくなければ、レイラに謝罪に行け」と言われたのを承諾したのは、父親である国王が自分の話を聞く気が全くなく、ミハイルの側についたことを悟り――であるならば、キアーラに発生した魔物の問題を収めるには、ひとまずミハイルの話を聞き入れ、レイラに戻ってもらうのが一番早いと判断したからだった。
(この移動の間に、どれだけ地方の農民が犠牲になってると思ってるんだ)
あの骨になった農夫の姿が頭をよぎり、エイダンはぎりっと口輪を噛んだ。
彼の横でハンナは終始怯えたように前で縛られた手を見つめている。
そんなふうに街道を走り続けて夜になりかけたころ、ミハイルの指示で神官が走らせる馬車は道の途中で向きを変え、街道横の道のない草むらの方へと進んだ。がたがたと馬車の揺れが激しくなった。しばらくそのまま進むと、ミハイルは馬車を止めさせた。
馬車の扉が開けられ、神官たちがエイダンたちを馬車の外に引きずり出す。
「――ッ、――!」
「ど、どこへ連れて行くのですか!」
困惑する二人を街道から離れた周囲に森が広がる草原に投げ捨てると、ミハイルは言った。
「お前たち二人は――、聖女を追い出し、キアーラを危機的状況にした罪で、国外追放だ」
「――ッ!」
「お話が違うではありませんか、大司教様……。エイダン様と私はレイラに謝罪に行きました!!」
喋れないエイダンの代わりにハンナは涙声でミハイルの足元にすがった。それをミハイルは足で払いのけると、2人に告げる。
「レイラは『戻りたくない』と戻ってこなかったのだから、当然だろう。私は『あの子が戻ってくるのなら』国外追放まではしないと言ったのだ。お前たちの謝罪が足りなかったのだから、自業自得だろう」
ミハイルは土まみれになった二人を一瞥して笑うと、馬車に乗り込んだ。
「お待ちください、大司教様!」
ハンナは馬車に縋りついた。カシャン、と窓を開けてミハイルは顔を出すと、思い出したようにエイダンに告げる。
「――エイダン、キアーラについては安心して私に任せてくれ。私とて――あまり魔物に国土を荒らされても困るのでな、対応はするよ」
そして、口元に笛のようなものを当てて、それを吹いた。
――ピィィィィィ
高温の笛の音が周囲に響き渡る。
「――それでは」
馬車の窓は閉じられ――馬車は街道の方へと戻って行った。
手を縛られたまま置き去りにされたハンナは呆然と馬車を見送る。
一方、エイダンはじっと森を見据えていた。夜の闇の中、街道から離れた暗い木々の中からは狼の遠吠えのような声が聞こえた。――暗闇に響いたミハイルの笛の音は、暗闇に潜む彼らの注意を集めるのに十分だった。
馬車の中でミハイルは大きく深いため息をついた。
「全く、王子に謝罪までさせて迎えに行ってやったというのに、あの我儘娘め――」
ミハイルにとっては、レイラが強く「戻らない」と自分で主張したのは意外だった。彼の記憶の限りでは、レイラが今まで自分の言ったことに逆らったことは、一度もなかった。だから一時的な気まぐれで出て行ったとしても、迎えに行って押し切れば、戻ってくるだろうと本気で思っていたのだった。
「――っ、――!!!」
ミハイルの横には、手を縛られ口輪をされたエイダンがわめいていた。
彼が言葉にならない声で叫んでいたのは、『無駄足だったじゃないか、馬鹿野郎! それに、あいつが魔族だというのはどういうことだ!』だった。
(どこから魔族をもらってきた? そんな話は王族には全く伝わってきていない。神殿め、勝手に怪しげなことをしやがって!)
エイダンは叫ぶことに疲れるとぐったりし、揺れる馬車に身をゆだねながら心の中で悪態をついた。
(それに、マルコフまで行ったのも無駄足じゃないか、馬鹿め!)
牢に入れられ、「ハンナ共々国外追放になりたくなければ、レイラに謝罪に行け」と言われたのを承諾したのは、父親である国王が自分の話を聞く気が全くなく、ミハイルの側についたことを悟り――であるならば、キアーラに発生した魔物の問題を収めるには、ひとまずミハイルの話を聞き入れ、レイラに戻ってもらうのが一番早いと判断したからだった。
(この移動の間に、どれだけ地方の農民が犠牲になってると思ってるんだ)
あの骨になった農夫の姿が頭をよぎり、エイダンはぎりっと口輪を噛んだ。
彼の横でハンナは終始怯えたように前で縛られた手を見つめている。
そんなふうに街道を走り続けて夜になりかけたころ、ミハイルの指示で神官が走らせる馬車は道の途中で向きを変え、街道横の道のない草むらの方へと進んだ。がたがたと馬車の揺れが激しくなった。しばらくそのまま進むと、ミハイルは馬車を止めさせた。
馬車の扉が開けられ、神官たちがエイダンたちを馬車の外に引きずり出す。
「――ッ、――!」
「ど、どこへ連れて行くのですか!」
困惑する二人を街道から離れた周囲に森が広がる草原に投げ捨てると、ミハイルは言った。
「お前たち二人は――、聖女を追い出し、キアーラを危機的状況にした罪で、国外追放だ」
「――ッ!」
「お話が違うではありませんか、大司教様……。エイダン様と私はレイラに謝罪に行きました!!」
喋れないエイダンの代わりにハンナは涙声でミハイルの足元にすがった。それをミハイルは足で払いのけると、2人に告げる。
「レイラは『戻りたくない』と戻ってこなかったのだから、当然だろう。私は『あの子が戻ってくるのなら』国外追放まではしないと言ったのだ。お前たちの謝罪が足りなかったのだから、自業自得だろう」
ミハイルは土まみれになった二人を一瞥して笑うと、馬車に乗り込んだ。
「お待ちください、大司教様!」
ハンナは馬車に縋りついた。カシャン、と窓を開けてミハイルは顔を出すと、思い出したようにエイダンに告げる。
「――エイダン、キアーラについては安心して私に任せてくれ。私とて――あまり魔物に国土を荒らされても困るのでな、対応はするよ」
そして、口元に笛のようなものを当てて、それを吹いた。
――ピィィィィィ
高温の笛の音が周囲に響き渡る。
「――それでは」
馬車の窓は閉じられ――馬車は街道の方へと戻って行った。
手を縛られたまま置き去りにされたハンナは呆然と馬車を見送る。
一方、エイダンはじっと森を見据えていた。夜の闇の中、街道から離れた暗い木々の中からは狼の遠吠えのような声が聞こえた。――暗闇に響いたミハイルの笛の音は、暗闇に潜む彼らの注意を集めるのに十分だった。
149
あなたにおすすめの小説
転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。
桜城恋詠
ファンタジー
聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。
異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。
彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。
迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。
「絶対、誰にも渡さない」
「君を深く愛している」
「あなたは私の、最愛の娘よ」
公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。
そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?
命乞いをしたって、もう遅い。
あなたたちは絶対に、許さないんだから!
☆ ☆ ☆
★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。
こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。
※9/28 誤字修正
二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?
小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」
勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。
ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。
そんなある日のこと。
何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。
『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』
どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。
……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?
私がその可能性に思い至った頃。
勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。
そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……
追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】
小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。
魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。
『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる