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8.元聖女はエルフの森に着きました。

204.

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 リンドールさんの話を聞いて、私は……、

「――大樹の森、というところに行きたいんですが」

 そこにお父さんがいるなら、行くしかないです。
 そうじゃないと、ここまで来た意味がないですもん。

「……そう言うだろうと思った」

 リンドールさんは深いため息を吐いて、私たちを見回した。

「大樹の森に案内しよう」

 私は思わず彼の手を取って、ぶんぶん振った。
 会った時は嫌な人かと思いましたけど……、親切にしてくれるじゃないですか……。
 内心、金髪のエルフなんて呼び捨てにしててごめんなさい。

「ありがとうございます!」

 弾んだ私の声と反対に、後ろからステファンが静かな声で聞いた。

「族長殿の意思に反して、いいのですか? もちろん、案内して頂けるのは有難いのですが、その大樹の森に足を踏み入れて、問題は? ……先ほどのように、攻撃してくるような」

 ……そうでした。さっき、族長さんと話をさせてもらった時は、尖った葉っぱが飛んできたりとか、こちらを傷つける気満々でしたもんね。
 森に入って、あんなのを四方八方からやられたらきついです……。

「大樹の森の木々は、族長のいる悠久の大樹とつながっている。私たちが森に入れば、森は怒りを示すだろう」

 エドラさんも重ねるように聞きます。

「――その通りだ。だから、我々がアイグノール様をしばらくの間、封じさせてもらう。その間にマイグリンを見つけて欲しい」

「封じる……? 族長に反するということか」

 エドラさんが驚いたように、声を大きくした。
 今までの話だと、エルフは族長さんの意思が全体の意思って言ってましたもんね。
 そんなことをして大丈夫なんでしょうか。

 また、深いため息を吐いて、リンドールさんはうつむき加減に言った。

「マイグリンが戻って来てから……アイグノール様は心を乱されてしまった。実の息子と同じように育てた子どもが、魔族の側について自分を裏切ったことに冷静な心を失くしてしまったのだと思う。――しかも、実のご子息は死んでしまったことは、確実な事実だと知って」

 話の途中で、部屋の上の方から声がした。

「リンド……、アイグノール様を封じるって……」

 顔を上げると、金髪の髪を綺麗に編み込んだエルフの女の人が階段の上から私たちを覗いていた。手に小さい子どもを抱いている。

 女のエルフの人を見るの初めてですね……。
 華奢で透き通るような雰囲気で、綺麗な人です。こうやって見てみると、やっぱり男のエルフの人とは違いますね。

「エゼル、その通りだ。皆を集めてもらえるか」

 その女の人にそう声をかけてから、リンドールさんは私たちを見回して、「妻のエゼルミアと娘だ」と二人を紹介して話を続けた。

「アイグノール様はそれ以来、また魔族の討伐部隊を――相手を攻撃し、制圧する魔法を訓練させた精鋭を用意するように命じられた。私たちは本来、森に宿る生命いのちを守り育むために精霊の力を使い、こちらから命を奪うために力を使わない……だから」

 リンドールさんは奥さんと子どもを見上げた。

「エゼルとの間にようやくできたあの子に、そんな訓練をさせたくはない」

「リンド、わかったわ。皆に声をかけます」

 エゼルミアさんが頷くと、リンドールさんは私たちに向かって初めて表情を崩して言った。

「準備ができたら声をかける。それまで、しばらく私の家の周辺にいてくれ。――人間の食べるようなものはこの里にはないが、私たちの食べ物で良ければ出そう」

「――適当に、何か捕まえて食うから、気にしないでくれ」

 ライガがそう手を挙げて言うと、リンドールさんはきっと視線を鋭くした。

「里では肉食は禁止だ。臭いで気持ちが悪くなる者が出る。ただでさえ、お前たちは臭う」

「そんなこと、エドラさんも言っていましたね……」

 思い出して、ちょっと悲しくなった。
 ――臭うって言われると、傷つきますよね……。
 
 リンドールさんはふと、急に表情を崩した。

悪食あくじきをエドラと呼ぶんだな。私たちは、家族の間でしか名前を省略しない」

初耳です。そういえば、リンドールさんたち夫婦も「リンド」「エゼル」って呼び合ってましたね。

「肉が食いたいと里を出て行ったはみ出し者の青二才が異種族をぞろぞろ引き連れて戻ってくるとは感慨深い」

 リンドールさんの言葉に、ライガがエドラさんを小突いた。

「エドラ……すごい言われようだな」
 二百歳でも青二才って言われちゃうんですね。

「エドラさん、エドラヒルさんって呼んだ方が良いですか?」
 
 名前が長いから短くした方が呼びやすいからそうしてただですけど……。
 一応確認すると、エドラさんは「そのままで構わん」とぶんぶん首を振った。
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