おばあちゃんなんて大嫌い

散乱坊

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おばあちゃんはすぐ泣く

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集団就職で北海道から名古屋に出てきた母は毎年夏休みには家族を引き連れて北海道に帰省する。
約一週間の滞在で苫小牧、室蘭、岩見沢と親戚を渡り歩く。
北海道と言っても普通の何処にでもある街並みなので子供には全く楽しめない。
唯一の楽しみは飛行機内で貰うおもちゃとジュースのみで後は退屈な日々だ。
それでも親戚の家はまだマシで、テレビでも観てれば暇は潰せる。
それすらも許されない苦痛でたまらない大イベントがこの帰省には付いてくる。
ものの数時間ではあるが私にとっては何日にも思えた。

それは老人ホームに住むおばあちゃん訪問。
まず、顔を出すといきなり泣く。
いつまでもいつまでも泣き続ける。
たまに喋っても方言なのか、歯が無いせいなのか何を言っているのか全くわからない。
「おばあちゃん・・・」
と話しかけると更に泣く。
コミュニケーションが取れない。
堪らなくなりその場から逃げ出す。
私はおばあちゃんという存在がとても苦手になった。

おばあちゃんは右足が無い。
少女の頃、家の塀から落ちて足を治療して貰えず切断を余儀なくされたそうだ。
家は大層な資産家だったらしいが継母が酷い人だったらしい。
遂にはおじいちゃんと駆け落ちをした。
苦労はしたそうだが元来のお嬢様でお金には無頓着。
おばあちゃんの父から後に届けられた葛籠箱には沢山の貨幣があったそうだが全て子供達のオハジキと化した。
駆け落ちしたおじいちゃんは母が10歳の時に亡くなり女手一つで7人の子供を育てなければならなくなった。
女学校で取得した資格で着物の先生をしていたがそれもボランティアに近く、とにかくお金儲けが下手だった。
苦労しながらも子育てを終えたおばあちゃんは気が付けば実家を引き払って行方不明。
ようやく老人ホームにいたおばあちゃんを探し出した。
「一人で生きていけるから自分達の家族を大事にしなさい。」
と言ってのけた気丈さは真似出来ない強さだ。

ただそれから数年後には様子が一変した。
家族が訪問する度に泣き続けている。
痴呆が進行している。
これが本来のおばあちゃんなのだと、隠し続けた弱さなのだと子供の私には判るはずもなく。  

今なら少しは理解出来る。
あなたの強さ、優しさ、隠していた弱さ。

その小さな体で守り続けた家族への愛情。

おばあちゃん。
私は今でもあなたが苦手で、大嫌いです。
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