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5 オオカミの王子
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跪いてこちらに手を伸ばす赤毛の青年に、ファナは一歩後退った。
「え……ヴォ、ルフ……?」
「そうだよ?」
こちらがなぜ戸惑っているのかが分からない、と小首を傾げる青年。
その声は、可愛らしい子供の物ではなく、すでに大人の男性のもので――……、
(あ……!)
ファナははっとした。
どこかで聞いたことがあると思ったが、あの満月の夜森の中で出会った大きな青い竜。
あのドラゴンの声に似ているのだ。
「で、でも……ヴォルフは子犬で……」
「子犬じゃないよっ、子オオカミ! あと、もう十四歳で去年元服したからもう大人ですぅ!」
青年は不服そうにちょっと唇を尖らせた。
その様子を見て、自分より三つも年下なのかとファナは何だか納得した。
姿は立派な紳士だが、言動はまだまだ子供っぽい。
と、その後ろがにわかに騒がしくなった。
今まで遠巻きに事の成り行きを見ていたメイドの後ろから、城の衛兵達がやって来たらしかった。
(ま、まずいわ……!)
未だ跪いたままのヴォルフを立たせようと、その手を取る。
彼がどうやってここまで来たのか分からないが、見つかったらまた捕らえられてしまうだろう。
だが、ヴォルフは彼女の白い手を握り返すと嬉しそうに笑った。
「お嫁さんになってくれるの? 『一生のつがい』?」
「な、なりますなりますっ、お嫁さんでもつがいでも、何でもなりますから、いいから立って……っ!」
「やったあぁーっ!」
叫んで立ち上がると、その勢いのままヴォルフはファナを抱きしめた。
(へ……)
突然のことに頭が真っ白になる。
体を硬直させた彼女を、ヴォルフは慌てて離した。
「あ……っ、ごめんね、嬉しくてつい……!」
顔を赤らめる彼を見上げると、頭の上からぴょこっとオオカミの耳が飛び出していた。
それを、ヴォルフは手で押さえる。
「ど、動揺して耳が出ちゃった……!」
へへへ……とごまかすように笑う彼。
抱きしめられたその体から、ふんわりとお日様と草原の匂いがして、ファナは、
(ああ、本当にあの日の子犬が戻って来てくれたんだわ……)
と思った。
「はいはいはいはーい! 通して下さいねー!」
目を白黒させてこちらの様子をうかがう衛兵とメイドの人垣をかき分けて、小柄な少年がこちらに近づいてきた。
長い黒髪を黄色いリボンで一つにまとめた、十代前半くらいの男の子だ。
「そちら、獣人の国の第二王子ですからねー。ちょっとでも傷つけたりしたら国際問題ですよー。あなたとあなたの家族の明日はありませんよー」
無表情・抑揚のない声で、恐ろしいことを言いながら部屋の前に立つ。
「……え? だいにおうじ……?」
少年の言う『そちら』は明らかにヴォルフの事を指していた。
見上げると、ヴォルフは「言ってなかったっけ?」と、小首を傾げる。
少年は不敬にもぴっと人差し指でヴォルフを指さして、
「それ『ニコ・ヴォルフガング・フリンツ・ティーヴァル』」
第二王子を『それ』扱いした。
「で、ニコ、」
「ニコはやめて! ヴォルフガング!」
「お前のつがいは見つかったのかよ?」
「ふふん!」
ヴォルフはファナの後ろに回ると、彼女の肩に手を置いて自慢げに胸を張った。
「ファナちゃんだよ! 良いでしょー! 可愛いでしょー! レネおじさん!」
「おじさんはヤメロっつってんだろ!」
そのやりとりに、ファナは覚えがあった。
あの満月の夜。竜の内の一匹が、確か似たようなことを言っていたのだ。
「おー、確かにお前のたてがみだし、俺がやったリボンだわ」
そうだ。
鳥のような羽毛の生えたドラゴンに、ヴォルフはリボンをねだったのだった。
「それで、レネおじさん。お城の人はなんて? ファナちゃん獣人の国につれて行って良いって?」
「あー……。なんか話し通じなかったから、積んできた宝石一箱やって黙らせて来た」
どうやらファナは、彼らの宝石と引き替えに獣人の国にお嫁に行くらしい。
「え……ヴォ、ルフ……?」
「そうだよ?」
こちらがなぜ戸惑っているのかが分からない、と小首を傾げる青年。
その声は、可愛らしい子供の物ではなく、すでに大人の男性のもので――……、
(あ……!)
ファナははっとした。
どこかで聞いたことがあると思ったが、あの満月の夜森の中で出会った大きな青い竜。
あのドラゴンの声に似ているのだ。
「で、でも……ヴォルフは子犬で……」
「子犬じゃないよっ、子オオカミ! あと、もう十四歳で去年元服したからもう大人ですぅ!」
青年は不服そうにちょっと唇を尖らせた。
その様子を見て、自分より三つも年下なのかとファナは何だか納得した。
姿は立派な紳士だが、言動はまだまだ子供っぽい。
と、その後ろがにわかに騒がしくなった。
今まで遠巻きに事の成り行きを見ていたメイドの後ろから、城の衛兵達がやって来たらしかった。
(ま、まずいわ……!)
未だ跪いたままのヴォルフを立たせようと、その手を取る。
彼がどうやってここまで来たのか分からないが、見つかったらまた捕らえられてしまうだろう。
だが、ヴォルフは彼女の白い手を握り返すと嬉しそうに笑った。
「お嫁さんになってくれるの? 『一生のつがい』?」
「な、なりますなりますっ、お嫁さんでもつがいでも、何でもなりますから、いいから立って……っ!」
「やったあぁーっ!」
叫んで立ち上がると、その勢いのままヴォルフはファナを抱きしめた。
(へ……)
突然のことに頭が真っ白になる。
体を硬直させた彼女を、ヴォルフは慌てて離した。
「あ……っ、ごめんね、嬉しくてつい……!」
顔を赤らめる彼を見上げると、頭の上からぴょこっとオオカミの耳が飛び出していた。
それを、ヴォルフは手で押さえる。
「ど、動揺して耳が出ちゃった……!」
へへへ……とごまかすように笑う彼。
抱きしめられたその体から、ふんわりとお日様と草原の匂いがして、ファナは、
(ああ、本当にあの日の子犬が戻って来てくれたんだわ……)
と思った。
「はいはいはいはーい! 通して下さいねー!」
目を白黒させてこちらの様子をうかがう衛兵とメイドの人垣をかき分けて、小柄な少年がこちらに近づいてきた。
長い黒髪を黄色いリボンで一つにまとめた、十代前半くらいの男の子だ。
「そちら、獣人の国の第二王子ですからねー。ちょっとでも傷つけたりしたら国際問題ですよー。あなたとあなたの家族の明日はありませんよー」
無表情・抑揚のない声で、恐ろしいことを言いながら部屋の前に立つ。
「……え? だいにおうじ……?」
少年の言う『そちら』は明らかにヴォルフの事を指していた。
見上げると、ヴォルフは「言ってなかったっけ?」と、小首を傾げる。
少年は不敬にもぴっと人差し指でヴォルフを指さして、
「それ『ニコ・ヴォルフガング・フリンツ・ティーヴァル』」
第二王子を『それ』扱いした。
「で、ニコ、」
「ニコはやめて! ヴォルフガング!」
「お前のつがいは見つかったのかよ?」
「ふふん!」
ヴォルフはファナの後ろに回ると、彼女の肩に手を置いて自慢げに胸を張った。
「ファナちゃんだよ! 良いでしょー! 可愛いでしょー! レネおじさん!」
「おじさんはヤメロっつってんだろ!」
そのやりとりに、ファナは覚えがあった。
あの満月の夜。竜の内の一匹が、確か似たようなことを言っていたのだ。
「おー、確かにお前のたてがみだし、俺がやったリボンだわ」
そうだ。
鳥のような羽毛の生えたドラゴンに、ヴォルフはリボンをねだったのだった。
「それで、レネおじさん。お城の人はなんて? ファナちゃん獣人の国につれて行って良いって?」
「あー……。なんか話し通じなかったから、積んできた宝石一箱やって黙らせて来た」
どうやらファナは、彼らの宝石と引き替えに獣人の国にお嫁に行くらしい。
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