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6 永遠の夢見る少年錬金術師・レネ様
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どうやらファナは、彼らの宝石と引き替えに獣人の国にお嫁に行くらしい。
「えぇっと……」
なぜかレネが気まずそうに頬を掻いた。
「ゆ、結納金みたいな物だからな……!」
金で買うような言動で、ファナが不愉快な思いをしたのではないかと気遣ってくれたようだ。
「大丈夫です、分かっています」
ちょっと前までは銀ひとつかみで、顔も見たこともないおじさんの所へ売られるはずだったのだ。
それに比べれば天国のような話である。
笑顔を作ったつもりだったが、引きつっていなかっただろうか。
何せ、妹以外の他人と会話することすら久しぶりなのだ。
「お気遣いありがとうございます、レネさま……?」
『レネ』というのは愛称かもしれない。
失礼にならないと良いのだが。
そう思って小首を傾げたファナに、黒髪の少年は腰に手を当て頷いた。
「うんうん。素直な子は大好きだよ。
俺のことは『深奥な知識を持つ偉大なる魔導士・レネ様』と呼ぶと良いよ。
もしくは『永遠の夢見る少年錬金術師・レネ様』とか」
「えいえんの……ゆめみる……しょうねん……」
「……若作りのクソジジイってことだよ、ファナちゃん!」
小声でヴォルフが耳打ちしてくるので、ファナは思わず吹き出すところだった。
「おい、今なんつった、図体ばっかりでかいクソガキ……!」
「ひぇ……!」
ギロッと緑の目で睨まれて、ヴォルフは素早くファナの背中に身を潜めた。
……もっともレネの言う通り、体が大きいので全然隠れられていなかったが。
「ごほんっ!
とにかく、お前のつがいも準備があるだろう?
俺達は部屋を用意して貰ったからそっちに行くぞ」
促されて、ヴォルフは実に残念そうにファナの袖をぎゅっと掴む。
すでに隠れた耳が、しょんぼりぺったりと垂れる幻覚が見えた気がした。
「早くしなさい」
それを見て、レネが母親のようなことを言う。
「ああ、それとファナティアス」
ずいぶん久しぶりに愛称ではなく本名で呼ばれて、ファナは背筋を伸ばした。
「は、はい!」
「勝手だがこちらで従者を一人用意した。君付きのメイドだ。
入りなさい」
レネが扉の方に顔を向けると、城のメイドや衛兵をかき分けて、一人の少女が進み出て来る。
歳はファナと同じくらい。緩くウェーブのかかったグレーの髪に、青白い肌とそばかす。そして、はっとするような真っ赤な唇と瞳をもった、綺麗な少女だった。
少女は身につけていた黒いスカートの裾をつまんで、恭しく一礼すると言った。
「カミル・ローデン・カミーラと申します」
「え、あの……」
ファナは自分の手とカミルと名乗った少女とを交互に見比べた。
『吸魔』の力のせいで彼女が不愉快な思いをするかもしれない。
カミルはその事を知っているのだろうか。
レネはそんなファナに頷いてみせる。
「大丈夫、彼女も獣人だからね」
「はい。わたくし達は魔力ではなく精霊力を使用いたしますので、ファナティアス様がご心配になるようなことは、何もございません」
顔を上げて、カミルがにっこりと綺麗な笑みを貼り付けて見せた。
それを聞いてファナはぱっと顔を輝かせる。
使用人が欲しかったわけではない。
側で会話が出来る人が欲しかったのだ。
それがヴォルフ以外にもいることが分かって。
これからも一緒に居ると言ってくれて。
さらにカミルの言葉が本当なら、獣人の国に行けば、もっと沢山の人と知り合いになれるかもしれない。
(夢にまで見た『お友達』が出来るかも知れないわ!)
高鳴る鼓動を押さえるように、ファナは胸の前でぎゅっと両手を握った。
「えぇっと……」
なぜかレネが気まずそうに頬を掻いた。
「ゆ、結納金みたいな物だからな……!」
金で買うような言動で、ファナが不愉快な思いをしたのではないかと気遣ってくれたようだ。
「大丈夫です、分かっています」
ちょっと前までは銀ひとつかみで、顔も見たこともないおじさんの所へ売られるはずだったのだ。
それに比べれば天国のような話である。
笑顔を作ったつもりだったが、引きつっていなかっただろうか。
何せ、妹以外の他人と会話することすら久しぶりなのだ。
「お気遣いありがとうございます、レネさま……?」
『レネ』というのは愛称かもしれない。
失礼にならないと良いのだが。
そう思って小首を傾げたファナに、黒髪の少年は腰に手を当て頷いた。
「うんうん。素直な子は大好きだよ。
俺のことは『深奥な知識を持つ偉大なる魔導士・レネ様』と呼ぶと良いよ。
もしくは『永遠の夢見る少年錬金術師・レネ様』とか」
「えいえんの……ゆめみる……しょうねん……」
「……若作りのクソジジイってことだよ、ファナちゃん!」
小声でヴォルフが耳打ちしてくるので、ファナは思わず吹き出すところだった。
「おい、今なんつった、図体ばっかりでかいクソガキ……!」
「ひぇ……!」
ギロッと緑の目で睨まれて、ヴォルフは素早くファナの背中に身を潜めた。
……もっともレネの言う通り、体が大きいので全然隠れられていなかったが。
「ごほんっ!
とにかく、お前のつがいも準備があるだろう?
俺達は部屋を用意して貰ったからそっちに行くぞ」
促されて、ヴォルフは実に残念そうにファナの袖をぎゅっと掴む。
すでに隠れた耳が、しょんぼりぺったりと垂れる幻覚が見えた気がした。
「早くしなさい」
それを見て、レネが母親のようなことを言う。
「ああ、それとファナティアス」
ずいぶん久しぶりに愛称ではなく本名で呼ばれて、ファナは背筋を伸ばした。
「は、はい!」
「勝手だがこちらで従者を一人用意した。君付きのメイドだ。
入りなさい」
レネが扉の方に顔を向けると、城のメイドや衛兵をかき分けて、一人の少女が進み出て来る。
歳はファナと同じくらい。緩くウェーブのかかったグレーの髪に、青白い肌とそばかす。そして、はっとするような真っ赤な唇と瞳をもった、綺麗な少女だった。
少女は身につけていた黒いスカートの裾をつまんで、恭しく一礼すると言った。
「カミル・ローデン・カミーラと申します」
「え、あの……」
ファナは自分の手とカミルと名乗った少女とを交互に見比べた。
『吸魔』の力のせいで彼女が不愉快な思いをするかもしれない。
カミルはその事を知っているのだろうか。
レネはそんなファナに頷いてみせる。
「大丈夫、彼女も獣人だからね」
「はい。わたくし達は魔力ではなく精霊力を使用いたしますので、ファナティアス様がご心配になるようなことは、何もございません」
顔を上げて、カミルがにっこりと綺麗な笑みを貼り付けて見せた。
それを聞いてファナはぱっと顔を輝かせる。
使用人が欲しかったわけではない。
側で会話が出来る人が欲しかったのだ。
それがヴォルフ以外にもいることが分かって。
これからも一緒に居ると言ってくれて。
さらにカミルの言葉が本当なら、獣人の国に行けば、もっと沢山の人と知り合いになれるかもしれない。
(夢にまで見た『お友達』が出来るかも知れないわ!)
高鳴る鼓動を押さえるように、ファナは胸の前でぎゅっと両手を握った。
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