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【interlude】メイド少女は推しを推したい 3

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 ネモフィラ公国に着いて城の中に入り、ファナの部屋の扉の前で待機するように言われた時、カミルは緊張で吐きそうだった。

 その吐き気を吹き飛ばしたのは、ファナの部屋の暗さと狭さだった。

 陽は差し込まず、メイドの詰め所より小さい。
 見る限り調度品は小さな書き物机とベッドくらいのもので、年頃の娘が暮らしているというのに、可愛い物も華やかな物も無かった。
 仮にも一国の姫が、こんなに質素な所で生活しているなんて――……。

「――入りなさい」

 レネの言葉にはっとする。

 いつの間にやら周りにたかって、部家の中を覗き込んでいたメイドや衛兵達を押しのける。

 部屋の中に入ると――――目の前に彼女がいた。

 銀の長い髪、紫水晶の美しい目。
 白い肌、ほっそりした顎、長いまつげ――……。

(え、推しがいる。あたしの推し、生きてる。存在してる――……待って待って、ほっそ! 顔小さ! 推し動いてる……!)

 想像通り、いや、想像の何倍も、彼女の推しは美しかった。

(綺麗すぎて神々しい……いや、もう神? あたしの推し神なのでは?)

 頬が引きつるのを感じる。
 上手く笑えているだろうか。

 お辞儀をし自己紹介をしたカミルに、ファナは天使のような柔らかい微笑みを向けた。

(神で天使ってもう最強では? ここを聖地とし教会を建てるべきでは?)

 心の中でそう言いつつもカミルはきわめて冷静を装う。

 レネとヴォルフがネモフィラ公国に用意させた部屋に下がる。それと同時に、扉の前にたむろしていたこの城のメイドや衛兵達を手際よく解散させた。

 彼女の第一の仕事は、ここから早急にファナを連れだし保護することだ。

 そのためにも荷造りを急がなければ。

(仮にも一国の姫君だし、荷物を運び出すだけで十日くらいかかるかも……)

 通常ならプリンセス自らがあれこれ思案せずとも、側仕えの者たちが勝手に嫁ぎ先に大量の荷物を送って寄こすのだが――……。

(この国の場合、ファナ様がいなくなったら勝手に持ち物を処分しかねないわ)

 そうならない為にも大切な物は事前に運び出さねば。

 カミルは持って来た大きな旅行鞄を指さして言った。

「ファナティアス様、獣人の国ティーヴァルにお持ちするお荷物はございますか?
 お申し付けくだされば、鞄は他にもございますので」

 パッキングします、とカミルが告げればファナはなぜか困ったように笑った。

「その……お洋服はそんなに持っていないの」

 そう言って彼女は小さなクローゼットを開いてみせる。

「夏用と冬用が二枚ずつに、パジャマが――……あ、洗濯するのにメイドさんが持って行ってるわ……」

 しょんぼりと声を落す彼女の頭に、第二王子と同じような耳が見えた気がして、カミルはにやけを押さえようと唇を噛んだ。

 ファナの背中からタンスの中を見てみる。

 確かに中はがらがらだった。
 簡素なコットンの、くたびれたワンピースが何枚かかかっているだけだ。

 メイドの自分の洋服箪笥より断然に数が少ない。
 巷の流行に乗って『必要な物しか持たない暮らし』とやらをしている友人よりも質素な生活だ。

(それを年頃の女の子に強いるなんて……! お金はたんまり持ってるでしょうに……!)

 心の中でギリギリ奥歯を噛みしめる。

 改めて見てみれば、ファナが今着ている服も似たような年季の入った白いワンピースだった。
 サイズも、彼女の体型には大きいようだ。
 王侯貴族なら、ドレスは当然フルオーダーで作るし、パジャマも採寸するパターンオーダーで作るくらいなのに。

 もうこのワードローブを見ただけで、彼女がどれだけ蔑ろにされていたかが分かる。

(ファナ様が輝きすぎているから、着ている服も輝いて見えていたわ……!)

 こちらの胸の内を知ってか知らずか、ファナは、

「あ、でもこの小箱は絶対に持って行きたいわ」
「それは、ヴォルフガング様のたてがみを入れていた箱ですね」

 カミルの言葉に彼女の推しはちょっと頬を染めた。

「そ、その……っ、ヴォ、ヴォルフのたてがみだけが入っている訳じゃないのよ……っ? お母様の形見の指輪も入っているし……! 私の宝物箱なの……」

 目を逸らし、もじもじと銀色の髪を耳に掛けてうつむく。

(はー……! かわい……! とうと……!)

「でもこれだけじゃ、その鞄は少し大きすぎるわね……」
「そんな事はございませんわ。
 獣人の国ティーバルに向かう道中、他の町や国を通りますから、そこで沢山お土産を買ってここに詰めましょう」

 カミルの言葉に、ファナはぱぁあっと顔を輝かせた。

 どうやら上手く慰められたようだ。

 と、その時。

 唐突に扉がガチャリと開いた。
 ノックも、許可も求めずに。

 驚いてカミルがそちらに顔を向けると、立っていたのはくたびれた中年の男。

 年の頃は五十ほど。
 豪奢な洋服に身を包んでいるが痩せた体躯は隠しようが無く、鼻の下に髭を生やしているが貫禄よりも貧相さが際立つ。

「ファナティアス……!」

 男は眉を下げてファナを呼んだ。

 その声にはっとファナが目を見開いた。

「お、お父様……!」
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