勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第二章(下)

第5話

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前回のあらすじ、広場で合流したい。


女神の像が飾られているその噴水の周りには、談笑する老人達、お昼を食べる職人、ボール遊びをする子供達などがいる。

三人の少女は、街の住人の憩いの場として知られるその広場のベンチに座っていた。


「なあああメイいい... 腹減ったよおお、リリー達遅刻だってえ」

「タイランお嬢様、まだ待ち合わせ時間十五分前です。もう少しお待ちください」


目の隠れた幼女は、足をブラブラさせながら辺りを見渡していて、落ち着きがないようにも見えるが、大剣持ちの少女はそれ以上に足をバタバタさせ、駄々をこねている。


「じゃあ喉!喉が渇いたんだ!熱中症になっちまうよおお、何か飲み物買って来ようぜ!」


メイド服の少女が目を細めて自分の主人を見ると、目を瞑り、ため息をついて立ち上がる。


「分かりました、本当は宿で何か飲むつもりでしたし、良いですよ。アン様も、何がよろしいですか?」

「やあありいいい!俺はレモンの入った甘いやつがいいな!」

「私は炭酸の物を飲んでみたい」

「かしこまりました。では私が行きますので、タイランお嬢様、荷物をお願いできますか?」


大剣持ちの少女の立てた親指を確認すると、メイド服の少女は浅くお辞儀をして噴水の方向へと歩いていく。


「メイ、良いやつだろ。ちょっとガミガミうるさいけど、俺にはもったいないくらいの従者だぜ」


少し照れ臭そうに話すが、間違いなくそこには喜びや誇らしさの感情が見える。

目の隠れた幼女が微笑むと、少し大剣持ちの少女に近づく。


「お姉ちゃん達は、皆良い人だよ。へっぽこのお兄ちゃんはちょっと頼りなさそうだけど... でも、面白い人」


ガハハと笑いながら、強く幼女の背中を叩き、自分の方に体を抱き寄せる。


「へっぽこはな、見た目どおり弱えし、知識もねえけど、いじりがいのあるやつなんだ。それに、生命力に溢れてる。なんというか... あいつだけは、殺しても死ななそうな感じがする」

「ふふふ、私も死んでるけど死なないしね。へっぽこにも強い未練があるのかも」


水のカーテン越しに目に映る女神像を、大剣持ちの少女は見つめ、次の言葉を紡ぐ。


「うーん、なんだろうな。あいつもあいつで、他にやりたい事があるみたいなんだし、それに対しての執着心が強いんだろうな」


なんだか話が逸れたような気がし、眉を八の字にすると、何も言わない目の隠れた幼女を伺う。


「最初に会ったときも...ッ」


恐らくはそれは反射神経による動きだったのだろう。

素早く幼女の首根っこを掴み、大剣を抜き、ベンチから離れる。

そして地面にその大剣を勢いよく突き刺すと、その質量と速度からは納得の、爆発的な音が周囲に鳴り響く。

その音に反応し、逃げる周囲の住人を確認すると、ベンチの向こう側にいる人物に大剣を構えた。


「物体には... 一つ一つ、その物特有の固有振動数が存在する... 」


その老人は、なにやらぶつぶつ言うと、腰に回していた両手のうちの、片手の人差し指でベンチに触れる。

すると、目に見えるほどわかりやすくそのベンチは揺れ、みきみきと音を立てながら、そのベンチは粉々に崩れ落ちる。


「その固有振動数と同じ周期で外から力を加えてやれば、その物体は共振を起こす」


同じ人差し指で大剣持ちの少女を指すと、声を少し荒げ、つぎの言葉を発する。


「無論、それは人間の頸椎も同じ。共振を起こし、頸椎を粉々に破壊してやり、神経をズタズタにすれば... その者は全身麻痺に陥り呼吸が停止し、数分後には死に至る!」

「アンッ!アンッッ!」


言葉の途中で、すぐに目の隠れた幼女をうつ伏せに寝かせ、呼びかけるが、返事はない。

少し微笑んだ口から、言葉が紡がれることはなかった。


「杖持ちの女は始末したぞ... ああっ!女神様!魔王様!このわしが!パルスが、治療役を始末しましたあっ!」

「てめえ... 四天王だな!」


老人は空を見上げ、まるで酔っぱらっているかのようなセリフを吐く。

大剣持ちの少女はくちびるをきつく締める。そして立ち上がり、少し濡れた目を気にせずに老人に向かって大剣を構えた。


「女神だとか治療役だとか、訳の分からないことをごちゃごちゃとやかましいぜ... とっとと決着つけて、スズさえ連れて来ればみんな嬉しいハッピーエンドなんだよ!」


老人は少女の目をじっくりと見つめると、右手も腰の後ろに回し、ベンチの残骸をまたいでゆっくりと歩いてくる。


「すでに棺桶で半身浴しているようなジジイがっ!へっぽこよりもトロい動きじゃねえか!」


老人に駆け寄りながら、下から一振り、そのまま振り下ろしもう一振り、大剣を浴びせたと思った。老人は魔物や魔獣なんかよりもよっぽど遅く、地面に固定された的を切りつけるほど簡単な事のはずだった。

だが少女の目の前から老人は消えており、大剣のどの部分にも血はついていないし、老人の叫びも聞こえない。

夢でも見ているかのような、不思議な感覚。だが幸いにも音は届いてくる。噴水の水しぶきの音に混じって聞こえてくる、老人の足音が。


「ジジイは... 後ろにいた!!」


少女が音の方を振り返ると、横たわった幼女に向かっている老人が見える。まるで自身と老人の体が入れ替わったような、はたまた大剣や自身を老人の体がすり抜けたようだった。

そんな奇妙な状況とは反対に、まるで散歩をしているかのような、軽やかな老人の足取りが気持ち悪さに拍車をかける。


「どんな小細工を使ったって、結局トロいもんはトロいんだよ!!」


今度は大きく横なぎに大剣を振るが... 手応えはない。一度ならず二度までも大剣が空を切る様子に、少女は大きく目を見開く。

次に老人を目に捉えたとき、老人は横たわる幼女の横の地面に手を当てていた。すると、なんの前触れもなく地面は大きな音をたて、ひと一人分は入れそうな穴が空く。

そして老人は幼女の肩の辺りに手を伸ばすが...


「アンに触るんじゃねええっ!!」


大剣の間合いから離れてはいるが、構わずもう一度大きく横なぎに振る。距離が足りないのだから、当然当たりはしないと思われるが、大剣は円盤のように回りながら老人の頭を目掛けて飛んでいき、老人を捉えようとする。

少女は大剣から手を離し、足りないリーチを補ったようだった。

そこで初めて、老人は人間らしい動きを見せる。飛んでくる大剣に眉をひそめ、大きく後ろに受け身も取らずに倒れた。

標的が軌道から外れた大剣は、そのまま老人の上を通り、噴水の中の女神像に刺さる。

投げた反動で出だしが少し遅れるが、大剣を追うように少女は駆け出そうとする。


「その痩せこけた手で触ろうと... 」

「この小娘がああああああ!埋葬の邪魔をするんじゃない!!挙句の果てには女神様の像まで傷つける冒涜っ!」


先ほどまでの余裕はどこへやら、ツバを飛ばして息を荒げる老人。指を反らすほど張り詰め、少女を睨みつけ指さす。

老人の勢いのせいで先ほどまでの気迫はどこへやら、少女はポカンと口を開けて立ち尽くす。


「... なんだこいつ?」



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