勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

文字の大きさ
99 / 115
第四章(下)

第0話

しおりを挟む
その夜は、月の出ない、とても暗い夜だった。街灯などの夜に道を照らす物は、王都の大通りにしか設置されていないため、男の住んでいる所では一歩外に出れば遠くを確認する事が難しくなるだろう。

肌や髪の色素の薄い男は、自室にて、絵の具の付いた服を着たままベッドにうずくまっている。

そしてロウソクの灯を頼りに、壁にかけられた、一枚の少女の絵を見ていた。


「お前の姉さん、遅いよなあ?何があったと思う?」

「別に、友達の家にでも泊まっているんだろ。お前と違って僕と姉さんは生まれた時から一緒にいるんだ。こんな事は今までに何度かあった」


色素の薄い男は、ぼそぼそと、まるで独り言のように言葉を連ねる。


「んんーっ... 確かに、お前から見たらそうかもしれないな。お前の記憶にもそれが刻まれている」

「... 僕の記憶も見れるんだったな」

「ああ、そうだ。だから分かるんだ、お前は俺と同じ、社会のはみ出し者であることをなあ... 夢ばっか追って、いつまでも双子の姉さんに迷惑をかけているお前の気持ちが、よおく分かるんだ」

「僕はお前とは違う」


言うと、色素の薄い男は畳んだ膝を伸ばし、ベッドに腰掛ける。そして自分の主張を行動で示すよう、テーブルの上の筆を握り、絵の具につけ、横のキャンバスに筆先を向ける。


「んんーっ!確かにそうだなあ、お前には絵があるかもしれない。だがよお、俺にはお前の気持ちも筒抜けなんだぜ」


その言葉に、筆先に力が入り、毛先が少し乱れてしまう。


「お前は今も、俺と出会った時も、確実に、そしてとても焦っているよなあ?」

「だからなんだって言うんだよ」

「んー... いい加減認めちまえよ。こんな事やってても無駄だって分かってるんだろ?俺にはお前の気持ちが分かるんだぜ、絵なんてやめて、衝動のままに暴れちまおうぜ?」

「... うるさいんだよ」


男は指先が真っ白になるほどに強く筆を握り、歯を強く噛みしめる。


「うるさいんだよ!お前に操られてそんな事をするくらいだったら、その前に僕は死んでやる。そうなったらお前も困るだろ」

「んー?馬鹿かお前。別に俺たちは赤い糸で結ばれた仲じゃないんだよなあ。俺に都合が良いから、俺が利用している立場なんだ。だからさっきのは質問じゃねえ、命令なんだよ」


深く息を吸い、吐き出すと、男は再びキャンバスに筆を向ける。


「お前に指図される言われは無い。どんな事があっても僕はお前の良いようには動かない」

「例えお前の姉さんに何かあっても?」

「なに?」

「お前の姉さんだよ。前に、お前の姉さんの行動もある程度分かるって言ったよなあ?」


男は手を止め、眉を潜めて何かを考える素振りをする。


「姉さんに... 何かあったのか?どうせ嘘でも言ってるんだろ?」

「んんーっ!俺を疑うとは失礼だな。本当に嘘だと思うんなら、お前の言う姉さんの友達の家にでも行ってみろよ。どこにもお前の姉さんの姿は無えからよ... 」


男は言葉の途中で、見切りをつけたように三度みたび筆をキャンバスに向ける。


「話を最後まで聞けよなあ。んーーまあ、そんなに焦る事は無いか。俺はただ単に、俺をお前と一緒にやつらの元まで連れて行って欲しいだけなんだからよお」

「それ以上喋るな。気が散る」


その言葉を最後に男は口をしっかりと閉じ、部屋の中、作業に集中する。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...