魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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総長との距離②

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「気分は?」
「だ、大丈夫です。ディートハンス様は?」

 私に害意はないけれど、魔力が反発することもあると聞いている。
 それをどのように感じているのかはわからないし不快に思うと反発すると言っていたので、その不快のレベルも全く想像つかないので手探り状態だ。
 私は何も感じていないけれど、総長だけが感じるなんて事態があった場合、私はどうしていいかわからない。

「こちらも問題ない」

 ディートハンス様が淡々と告げると、そこでフェリクス様が綺麗な笑顔を保ったままやけに楽しそうな声を上げた。

「ミザリアはやっぱりすごいね」

 その言葉に小さく頷いたディートハンス様は静かに私を見た。
 全ての動きに余裕があって、一つひとつの動作がゆったりとして見える。

「息苦しいとかもないか?」
「はい」
「魔力が多い私が怖ければ、フェリクスの言う通り他の職場を紹介することも可能だ」

 この場にいるのはフェリクス様と出会えたことによる成り行きである。
 そのこともあって、事情のある特殊な騎士団寮でこのままやっていく覚悟があるかと聞いているのだろう。

 私はフェリクス様、そして騎士四人と、それからディートハンス様を見た。
 皆、私よりも大きく体格がいい。そして美形揃いというのもあって妙に煌びやかだ。

 そのことに気後れするけれど、怖いのは理不尽に暴力を振われること。
 力は総長、そしてここにいる騎士たちのほうが圧倒的に強い。だけど、彼らは守るために力を使う人だ。
 伯爵家での出来事と混同しては失礼にあたる。
 
 私が寮で働くことを認めてくれているようだけれど、新参者を見極めるような厳しさは当然まだある。
 仕方がなくというわけではないけれど、ここで働ける者は限られているから。私がたまたまそれに当てはまっただけ。

 だけど、負の感情に敏感な私に向けられているものの中には配慮が必ずあって、そして期待のような明るい光が含まれていた。
 それらは胸の奥をそわそわとくすぐられるような感覚に陥り、直視できないものだった。

 ――あっ……。

 ぶわりと熱いものがこみ上げてきて泣きそうになった。
 これが騎士特有なのか彼ら特有なのかはわからない威圧感はあるものの、彼らの纏う空気は伯爵家にいた時よりも温かい。
 凍てつくような空気に肌がぴりぴりして神経がすり減らされるような毎日に比べると、比べるまでもなくここでの生活は日々穏やかだった。

 そういったものに慣れていない。出会ってまだ一か月の人たちに向けられる優しさはどうやって処理していいのかわからない。
 熱くなる瞼からつぅっと涙がこぼれ落ちる。慌てて拭くけれど抑えきれない。

「……やはりしんどいのか?」
「いえ。違います」

 自分でもどうしてこのタイミングで涙が出てしまったのかわからない。
 誤解してほしくなくてふるふると首を振ると、戸惑ったような気配が目の前の人物、そして周囲の騎士たちから感じる。

「そうか。……これで拭くといい」

 ディートハンス様がごそっとポケットから取り出すとハンカチを差し出した。
 見るからに高級そうな金の刺繍が施されたハンカチは、手触りもよくて汚してしまうのが躊躇われる。

 受け取っていいのか迷っていると、早く受け取れと手を動かされた。
 私は慌てて礼とともに受け取ろうと手を伸ばすと、ディートハンス様は私の手に触れるのを避けるように私の手の上にハンカチを落とすとさっと差し出していた手を引いた。

「……っ」

 総長を不快にさせるような粗相をしたのかと不安になり固まっていると、ぽつりと言葉が落ちてくる。

「すまない。触れて魔力がどう影響するかわからないからな」

 少し落ち込んだような声に私は目を瞬いた。
 表情や態度からわかりにくいけれど、思いやりは伝わってくる。私を心配しての行動で、今日はここまでだと決めているようだ。

 まさにユージーン様が慎重だと本人に言ってしまうのがわかる態度だった。確かに総長は慎重である。
 私としては触れるところまでするのだと思っていたし、そうしてくれても構わないくらいなのに、ディートハンス様は段階を踏むつもりでいたようだ。

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