魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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総長との距離④

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「身内は例外ですよ。彼女たちもミザリアの存在を知れば喜ぶでしょう」
「それはそうだろうが……。まず、魔力については様子はみたい。彼女が特別だということはわかったが、万が一ということもある。ミザリアも違和感を覚えるなら必ず言いなさい」
「はい」

 じっとウルフアイの瞳で見つめられ、今も観察するような視線に私はこくりと頷いた。
 表情は変わらず抑揚もなく淡々と話すけれど、一見冷たくて綺麗で畏怖を覚える双眸には心配の色が乗っている。

「やはり総長は慎重だな」
「まあ、仕方がない。今までが今までだったし、急に近づきすぎてミザリアが不調で倒れるのも困る。でもやはり嬉しいことだよな。ミザリアはすごいな」
「ああ。すごい」
「すごい。すごい」
「祝いには酒だ」

 ディートハンス様が女性とこの距離でずっといることは余程珍しく、快挙だとまるで私は英雄のようにすごいすごいと祭り上げられた。
 それと同時に、総長が一目置かれながらも好かれているのがわかるやり取りだ。
 最後の一言はレイカディオン副団長。どうやらお酒が好きなようである。

 その晩、任務を終えた騎士たちはキッチンに常備されている酒とともに各々部屋にあった酒も持参し、次々と空にしていく。
 騒がしいわけではないけれど、話題はつきない。

 私の予想通り酒好きだったレイカディオン様が、幻の酒を上納されて面接を許した女性が寮へ入ることもなく倒れてしまったが酒は美味しくいただいたという話から始まり、前回の遠征で魔物の分布が変わりだしているのではなど、障りがない範囲で自分たちの日常や業務をわかりやすいように話してくれる。
 会話に私が置いてけぼりにならないように、初めて出る名前の人は説明もしてくれて、失敗談も交えたりで知らないことは多けれど想像しやすくて聞いていて楽しい。

 私はちまちまとジュースを飲みながら、頷いたり驚いたり笑ったりした。
 リアクションを取るたびに優しげに目を細められるので、不意打ちを食らうと恥ずかしくてどうするのが正解かわからず目線を伏せる。すると、なぜか今度は騎士たちに代わる代わる頭を撫でられた。
 そうされるたびに、くすぐったくてふわふわと夢のなかにいるような気分になった。

 伯爵家で息を殺すように生きてきたのに、今はたくさんの騎士に囲まれて笑っている。
 楽しそうに話している輪の中に自分も入っている。質問されなければ自ら話すことはないけれど、決してひとりぼっちだとは思えない。

 ディートハンス様は私の目の前にいて、彼らの話にときおり相槌を打つ程度であった。だけど、その距離が今までより近いことはくすぐったい気持ちになる。
 決して大声で笑ったりしないけれど、楽しくなさそうということもない。

 不思議な空気をまとう総長を見ながら、次第に周囲の音が夢の中のようにぼやけて聞こえてくる。
 魔力の影響を調べる以外は変わったことはなかったのに、妙に疲れていた。

 だけど、その疲れは達成感もあるというか満足感のあるもので心が満たされている。
 さらに親しく感じるような距離感で騎士たちと一緒に食事をしていること事態夢かなと思ってぼんやりと彼らを見ていると、フェリクス様と話していたディートハンス様がついっと私に視線を向け軽く目を見張った。

「ミザリアは疲れているようだ。そろそろ彼女を解放しようか」
「わ、眠そうだね」

 そこで横に座っていたフェリクス様が、ひょいっと私の顔を覗き込んでくすりと笑う。
 ディートハンス様は他の騎士のように会話が多いわけではないけれど、存在感を放ちながらも決して居心地が悪くならないのは、周囲が慕っているのが伝わってくるからだろう。

 私もこの数時間で、時には恐れをいだくほどの雲の上のような存在であった人に親しみを抱いている。
 魔力で苦労する者同士。ずっと気遣われていたことも含めて、逃げ出すほどの魔力というのを感じなかったのも大きな要因だろう。

 しかも、自分のことはあまり悟らせないのに、人のことは結構見ている。今も私の状態に気づいてくれた。
 それも、彼の中で気遣う一人として勘定にいれてもらえているようで嬉しかった。

 ディートハンス総長に奇跡的に受け入れてもらえ、以前よりも信頼してくれているとわかる態度に、少しでも彼らが寛げるように頑張りたいと私は新たに誓った。


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