魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
29 / 127

総長との距離④

しおりを挟む
 
「身内は例外ですよ。彼女たちもミザリアの存在を知れば喜ぶでしょう」
「それはそうだろうが……。まず、魔力については様子はみたい。彼女が特別だということはわかったが、万が一ということもある。ミザリアも違和感を覚えるなら必ず言いなさい」
「はい」

 じっとウルフアイの瞳で見つめられ、今も観察するような視線に私はこくりと頷いた。
 表情は変わらず抑揚もなく淡々と話すけれど、一見冷たくて綺麗で畏怖を覚える双眸には心配の色が乗っている。

「やはり総長は慎重だな」
「まあ、仕方がない。今までが今までだったし、急に近づきすぎてミザリアが不調で倒れるのも困る。でもやはり嬉しいことだよな。ミザリアはすごいな」
「ああ。すごい」
「すごい。すごい」
「祝いには酒だ」

 ディートハンス様が女性とこの距離でずっといることは余程珍しく、快挙だとまるで私は英雄のようにすごいすごいと祭り上げられた。
 それと同時に、総長が一目置かれながらも好かれているのがわかるやり取りだ。
 最後の一言はレイカディオン副団長。どうやらお酒が好きなようである。

 その晩、任務を終えた騎士たちはキッチンに常備されている酒とともに各々部屋にあった酒も持参し、次々と空にしていく。
 騒がしいわけではないけれど、話題はつきない。

 私の予想通り酒好きだったレイカディオン様が、幻の酒を上納されて面接を許した女性が寮へ入ることもなく倒れてしまったが酒は美味しくいただいたという話から始まり、前回の遠征で魔物の分布が変わりだしているのではなど、障りがない範囲で自分たちの日常や業務をわかりやすいように話してくれる。
 会話に私が置いてけぼりにならないように、初めて出る名前の人は説明もしてくれて、失敗談も交えたりで知らないことは多けれど想像しやすくて聞いていて楽しい。

 私はちまちまとジュースを飲みながら、頷いたり驚いたり笑ったりした。
 リアクションを取るたびに優しげに目を細められるので、不意打ちを食らうと恥ずかしくてどうするのが正解かわからず目線を伏せる。すると、なぜか今度は騎士たちに代わる代わる頭を撫でられた。
 そうされるたびに、くすぐったくてふわふわと夢のなかにいるような気分になった。

 伯爵家で息を殺すように生きてきたのに、今はたくさんの騎士に囲まれて笑っている。
 楽しそうに話している輪の中に自分も入っている。質問されなければ自ら話すことはないけれど、決してひとりぼっちだとは思えない。

 ディートハンス様は私の目の前にいて、彼らの話にときおり相槌を打つ程度であった。だけど、その距離が今までより近いことはくすぐったい気持ちになる。
 決して大声で笑ったりしないけれど、楽しくなさそうということもない。

 不思議な空気をまとう総長を見ながら、次第に周囲の音が夢の中のようにぼやけて聞こえてくる。
 魔力の影響を調べる以外は変わったことはなかったのに、妙に疲れていた。

 だけど、その疲れは達成感もあるというか満足感のあるもので心が満たされている。
 さらに親しく感じるような距離感で騎士たちと一緒に食事をしていること事態夢かなと思ってぼんやりと彼らを見ていると、フェリクス様と話していたディートハンス様がついっと私に視線を向け軽く目を見張った。

「ミザリアは疲れているようだ。そろそろ彼女を解放しようか」
「わ、眠そうだね」

 そこで横に座っていたフェリクス様が、ひょいっと私の顔を覗き込んでくすりと笑う。
 ディートハンス様は他の騎士のように会話が多いわけではないけれど、存在感を放ちながらも決して居心地が悪くならないのは、周囲が慕っているのが伝わってくるからだろう。

 私もこの数時間で、時には恐れをいだくほどの雲の上のような存在であった人に親しみを抱いている。
 魔力で苦労する者同士。ずっと気遣われていたことも含めて、逃げ出すほどの魔力というのを感じなかったのも大きな要因だろう。

 しかも、自分のことはあまり悟らせないのに、人のことは結構見ている。今も私の状態に気づいてくれた。
 それも、彼の中で気遣う一人として勘定にいれてもらえているようで嬉しかった。

 ディートハンス総長に奇跡的に受け入れてもらえ、以前よりも信頼してくれているとわかる態度に、少しでも彼らが寛げるように頑張りたいと私は新たに誓った。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?

金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。 余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。 しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。 かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。 偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。 笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。 だけど彼女には、もう未来がない。 「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」 静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。 余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さくら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...