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◇守りたい sideディートハンス②
しおりを挟む当然のように守るのではなく、そうしたいと思ったのは彼女が初めて。同じ守るでも似ているようで違う。
ディートハンスは長い睫毛を下ろし、唇の端で小さく微笑んだ。無意識だった。
ユージーンがそれを何とも言えない顔で見ていたが、次第に楽しげな口調で質問を重ねてきた
「なぜ、頭を?」
「そこにあったから」
まるで撫でてくれとばかりに目の前に差し出され、そこ以外の選択肢はなかった。
そう答えると、ふはっとユージーンは笑った。
「そうきますか」
「あと」
柔らかそうなピンクベージュの髪に触れてみたくなった。
「まだ何か?」
「皆が撫でるのが羨ましかった」
ミザリアの直向きさに表情を緩め、アーノルドたちは何も考えずに手を伸ばしていた。フェリクスは最初に彼女を助けたからかもっと距離が近い。
それらを、ずっと離れたところから見ていた。
己の体質を考えてその時は触れたいなどと考えたことはなかったけれど、可能性を示唆されてきて、検証を重ねて大丈夫であろうと思う相手に触れてもいいと言われれば、実はそうしたかっただろう気持ちが膨れ上がって止められなかった。
理性よりも欲望があの瞬間凌駕した。
結果、今に至るまで問題はなく、ディートハンスはあの柔らかな感触を楽しめている。踏み出してくれたミザリアには感謝である。
現状に満足して頷くと、ユージーンが思いっきり顔をしかめた。
「ちょっ! 質問したのは俺ですがそんなにまっすぐに返されても困るんですが」
「なぜ? 腹の探り合いのような面倒なのは嫌いだろう」
嬉々として聞いておいてと呆れると、はあっとユージーンは溜め息をついた。
「これを探り合いのうちに入れないでください。なんていうか、この手の話をするのにストレートすぎるんです」
「口に出して初めて知る気持ちもあるのだな」
「っ……、そういうとこですよ。ああ、もう! こういうのはフェリクスの役じゃない?」
「ユージーンが質問してきたのに? あとフェリクスでは気を回しすぎるから、話そうと思ったのはユージーンだからだろう」
フェリクスと、そしてアーノルドは特にディートハンスに関して慎重だ。そして何より第一に動こうとする。
そんな相手に言葉にして伝えるのは、時期尚早のような気がした。自分の発した何気ない一言でも受け取った相手は意図していないことまで汲もうとしてしまう。
その点、ユージーンはそういう人間関係が面倒で動く気はない。そうなのだと受け止めるだけだ。
そう告げると、ユージーンは両手に頭をやりしばらく唸っていたが大きな溜め息をついた。
「本来の話に戻します」
「ああ」
こういう切り替えの仕方もユージーンらしい。脱線してもすぐに戻る。
「あなたが危惧するようなことは起きない。少なくとも今はですが。ミザリアの器は人よりも大きく魔力は少ないけれど、満遍なく穴もなく魔力が器に薄く張り付いている。これは発見ですね。通常、魔力を使う際はコップの水が減るように上部から減っていくと考えられています。人によりラインは違いますが一定ラインを超えると魔力枯渇状態を起こす。だけど、彼女の魔力はぐるりと張り巡らされているため、中が空洞でも枯渇状態が起こっていないのだと思われます」
「そうか」
その状態が続く限り枯渇状態には陥らないが、中が空洞というのはやはり無視できない問題だ。
ディートハンスが考え込んでいる間も、ユージーンの報告は続く。
「そして、空洞の周囲を巡らせる魔力はそのままで余分となる魔力を日常として使っている。その余分が少なかったため、五歳の時の魔力検査では反応しなかったのでしょう。現にここで十分に魔道具を使いこなせている。この件に関しては定期的に見ていくほうがいいかと」
「わかった。何か異変があれば必ず対処し報告するように」
「わかりました」
厳命するとユージーンは頷き、せっせと自身で噴き出し凍ったジュースを片付けると踵を返して部屋を出て行く。
再びひとりになったディートハンスは座ったまま手のひらを見つめていたが、月の位置が目に見えて変わったとわかるくらいになってゆっくりと握り込んだ。
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