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◇魔物討伐②
しおりを挟む「やっと姿を現したな」
魔物は「キェェェー」と奇声を上げると、ディートハンスに一直線に向かってきた。
ディートハンスは剣を一振りし、一度魔物の血を払い落とす。
こいつはディートハンスが崖に下り立った時から、殺気を向けていた。
「珍しいところにあるな」
額のところに魔物特有の赤黒い魔石がはめ込まれ、異質な存在感を放っていた。
人間の何倍もある魔物の巨体は熊のようにごつく、異様に長い手と長く鋭い爪でディートハンスが振り下ろした剣を止める。
カキンッと金属同士がぶつかる音に、ディートハンスは眉を跳ね上げ後ろに飛び退いた。それと同時に、長い爪の軌道が先ほど自分がいた場所に弧を描き切り裂いた。
背後にあった木がガサガサ、ザザザッと音を立てて倒れていく。
ディートハンスはふぅっと息を吐き出し、抑えていた魔力を放出した。
その瞬間、びりびりと気迫が広がり魔物の殺気と衝突した。風もないのにひらひらとペリースの裾がはためき、離れたところにアーノルドとその部下がいつでもこちらに向かえるように魔物を狩りながら様子を窺っているのが見えた。
あちこちで獣のうなり声と怒鳴るような大きな声、硬い物質が打ち合わさり魔法が放たれた衝撃音、そして血しぶきが入り乱れ一層血の匂いを濃くしていく。
次第にその獣のうなりつんざくような声は減り、騎士の声も厳しいままだが余裕のあるものへと変わってきた。あちこちで魔物を燃やす炎が上がり、こちら側の勝利は目前だ。
ゆっくりと剣を右に払い、ディートハンスは剣を構えた。
なぜかこの魔物は自分以外に興味がないようだった。ディートハンスが瞬時にこれは別格だと判断したように、この魔物も人間側の強者を嗅ぎつけたのかもしれない。
数秒、魔物を観察していたが、足に力を入れ走り込むと一気に間合いを詰めて魔物の首めがけて切り込んだ。
カキンッ、と音を立てて弾かれるが、すぐさま身体を捻り方向転換して背後から斬りかかる。
ズシャッと肉が割く音とともに血が飛び散る。切り込まれてもなお、長い腕と爪を向けてくる魔物の懐に入り込み何度も切りつけた。
あと一太刀でというところで、ガサリと音がし他の魔物とともに騎士が目の前に躍り出た。
「うわぁっ」
「なぜここに」
「すみません!」
自分が戦っている場所には隊長クラス以上の者は近づかないように徹底させているが、戦っているうちに魔物とともにこちらにやってきてしまったようだ。
剣を構える腰は引けていて、コントロールをやめたディートハンスの魔力に耐性がついていないのか当てられてもいるようで配属されて間もないのかもしれない。
ディートハンスはすかさずアーノルドたちの位置を確認し、すでにこちらの様子に気づいてかけつけてきていたが、両方自分がヤルほうが早いだろうとまず新たにやってきた魔物を切りつけた。
そのまま間を置かず最後のトドメと特殊個体に切り込もうとしたら、その魔物はディートハンスではなく新人へ腕を振り上げていた。
ぐっと魔力を込めて跳躍し、新人と魔物の間に入り込みその手を防ぐ。その際に、ニィっと魔物の口元が上がったように見えた。
新人をかばう態勢をまるで見切っていたかのように、わずかに逸らした軌道で自分の腕を狙ってくる。
「知恵があるのか?」
荒っぽくなるがこれ以上狙われないため新人を遠ざけるように蹴飛ばし、体勢を変えて刃先の方向を変えてはじき返した。
シュッと長い爪が右腕を掠めたが、そのまま指の間をくぐらせ身体を切りつける。さらに腕を振り上げてくるので、回転しその腕を切断した。
切り裂くような声を封じるように喉に蹴り入れ倒れた魔物の心臓を刺すと、そのまま魔法を放ち燃やしにかかる。
普段なら倒れているはずの魔物の生命力は侮れず、次々と手を打った。
ディートハンスは力尽き燃える魔物を確認すると、先ほど蹴飛ばした騎士のもとへと移動した。
「大丈夫か?」
「あっ、……はいっ。すみません」
がくがくと騎士は震えながらもゆっくりと頷いた。立とうとするが力が入らないのか悔しそうに唇を噛みしめて、もう一度謝罪を繰り返す。
蹴るのは手加減したので、これは自分の魔力にも当てられているからなのだろう。
「ディース様。大丈夫ですか?」
「問題ない」
駆けつけて来たアーノルドに連れら彼の所属の隊長がともに頭を下げてくる。
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