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◇魔物討伐③
しおりを挟む「新人がご迷惑をおかけしました」
「……二度とないように」
「はい」
ディートハンスの戦い方は特殊だ。それに連携する動きは慣れた者ではないと無理だろう。特に今回の魔物は初めて対戦するものばかりだ。
彼も一体でも多くと思い魔物を追いかけてきただけだ。それはよくわかっている。
だけど、何が生死を左右するかわからない。失敗は一度だけ。生きているからこそ噛みしめることができると、多くを語らずともわかるだろ。
それから燃え尽きた魔物のそばへとアーノルドとともに戻った。
灰になった魔物の遺体には二つ光るものが落ちている。
「魔石が二個ありますね。普通は一体につき一つ。こんなに赤黒いのは初めて見る」
「濃いほうは額にあった。そのためこの固体は特別強かった可能性もある。他の魔物にないか点検とともに触れる前にモーリスに確認を」
「はっ」
優れた魔道騎士である第二騎士団所属第一隊長のモーリスならば、この魔石がどういった類いのものか判別はできるだろう。
すぐさま茶色い髪と瞳にそばかすのモーリスが駆けつけ、特に他の魔石と変わらないという判断がされた。ただ、大きな力が抜けた後であるとのことで詳しく調べることになった。
「見たことのない魔石に魔物の大量発生に変種か」
こんなことは初めてである。
ディートハンスは山の向こうを睨みつけるように目を眇めた。
人が魔石を得るには、山などで採掘するかまれに魔石を持った魔物を狩って得るかである。
山などから採れる魔石と魔物から得る魔石は、純度の違いはあるが用途は同じである。古くに死んだ魔物の魔石が埋まっていて採れるのではと言われ、採れる魔石のほうが純度が高いものが多い。
魔物は素材が使え、強い魔物には魔石も取れそれらは資金源となる。個体により大きさはまちまちで一体に一つだけ。二つある魔物はこれまで報告されていない。
「ディース様。左腕に血が」
テントに戻ると第六騎士団のニコラスが駆けつけて来た。指摘され腕を見ると、先ほど魔物に切りつけられた場所が血で滲んでいた。
「魔物の爪が一瞬掠めた」
「深くはないようですが念のため治癒魔法をかけておきます」
「頼む」
すぐさま治癒士でもあるニコラスの治療を受け、その際に、倒した魔物の魔石の報告の確認をした。
姿を現した魔物を殲滅し事後処理として次々と運ばれてくる魔石を前に、全員が唸る。
「量が多いな」
「強かったですからね。だけど、通常のものと変わりない。やはりディース様が戦ったあの魔物だけ特別みたいですね」
「そうか」
そこでそれぞれが沈黙した。
憶測で言葉にはできない。ましてやテント内とはいえここは野外で誰が聞いているかわからない状況だ。
ここにいる者すべてが、魔石から魔物が出てきた山の向こう側を見るように視線を投じる。どうしても今回の発生場所が気にかかる。
長い沈黙の後、ディートハンスが口を開いた。
「あの山の向こう側の魔物はどうなっている? これだけ大量発生したんだ、あちらも何か変化があってもおかしくないだろう」
ランドマーク領側の山はどうなっているのかと尋ねると、エイトールがふぅっと怒りを堪えるように息を吐き出すと静かに答えた。
今回の魔物発生で自分の団員を亡くしているのだ。可能なのか不可能なのかはわからない。だけど、これがもし人為的なものだとしたら? そう考えるだけでやるせない。
場所やタイミング的にそう考えてしまうものが、ランドマーク公爵にはあるのだ。
「魔物は出てきたようですが、王国騎士団への要請もなくランドマークの騎士団で対処できる範囲でこちらほど被害はありません」
「そうか」
「これだけの魔石を所有している魔物の量を含めこれは異常です。あちらに被害が少ないことは結構。ですが、待っていたとばかりに強い武器を持った騎士団が対処したと聞いています」
北部の事情に精通しているエイトールの言葉にディートハンスが瞼を伏せた。
こちら側の被害が多いのも、ディートハンスが戦った魔物から逃げるように溢れ出てきたと普通ならば考えるところだ。
ランドマーク公爵がどれだけ怪しかったとしても、今までになかったことだからといってすぐに結びつけるのは軽率すぎる。
常にあらゆる可能性を考えなければならない。
「言いたいことはわかった。引き続き、第十三騎士団はここの守りを。そして魔石の回収を含め少しでも異変があったら知らせるように」
「はっ」
疑念を抱えながらも表沙汰にはせず、それから後は戦況が押しているところにアーノルドとともに出かけ次々と成果を上げた。
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