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厄介な総長②
しおりを挟む――うっ。ストレートすぎて頬が熱くなる。
普段、言葉数が少なく余計なことを言わない人だから、その言葉の重みがド直球に胸に響く。
それに、さっき顔綻ばせなかった? 自室だからなのか、少しずつ見せてくれる初めての姿にドキドキする。
時間が経てば経つほどじわじわ染み渡る言葉の威力に、顔が熱くなるのをやめられない。
誤魔化すように慌てて食器を片付けて、ディートハンス様に言われて二人分の食後のお茶を出し私はディートハンス様の前に座った。
先程まで陰っていたが雲が流れたのかやわらいだ日差しが届き、ディートハンス様の顔を明るく照らす。
二人きりでさて何を話そうかと考えるようにカップに口をつけ、改めてディートハンス様を観察する。
その美しい相貌は体調を崩しているせいでいつもよりさらに白く、私はその翳りに眉をひそめた。
普通に話はしているけれど、ディートハンス様は病人である。
やはり長引く体調不良の原因が何なのか気になるなと、私は話すのを嫌がられたらすぐに話題を変えようと問いかけた。
「今回、体調を崩された原因の心当たりはおありなのでしょうか? 遠征で力を使いすぎたとか」
「数は多かったが、特別に無理をしたつもりはない」
だったら、この状態は何なのだろうか。
私が特定できるとは思ってはいない。だけど、名だたる専門の人でもわからない何かの糸口を見つけることはできるかもしれない。
あと、じっと見つめられると頬が火照りそうで、会話していないと落ち着かないのもあった。
普通の風邪の類いだったなら医師や治癒士の方が気づき治療しているだろうし、動けているからといって治ったわけではないので原因がわからないのは気にかかる。
今もわずかだけど吐く息も荒く、顔が赤いように思える。いつもというほど総長の普段を知っているわけではないけれど、違和感を覚えて私はじっと見つめた。
「ディートハンス様、やはり体調が悪いですよね。熱があるように見えますので寝てください」
「問題ない」
ソーサーにカップを置くと淡々と告げられる。ぶっきらぼうであるけれど、怒っているわけでもなく本当にそう思っているのだろう。
初対面ならまだしも、ディートハンス様の人となりに多少なりとも近くで触れさせてもらえた私にはわかる。
――結構、厄介なのかも。
本気で問題ないと思っているところが問題である。ずっと体調が悪くても毅然としてきたから、無理をしているのが通常というか。
強靱な身体と精神があったから耐えられているのだろうけれど、一般の人だったらもしかしたら倒れるほどのものの可能性だってある。
「どうしても私には大丈夫には見えません。仕事はしなくてもいいと伺っていますので休んでください」
私の任務はディートハンス様を少しでも休ませることだ。
しんどいならば尚更である。
「…………」
「…………」
無言の攻防のすえ、今度はディートハンス様が意見を呑み込むようにゆっくりと瞼を伏せるとぼそぼそっと呟いた。
「……、だったら、……させて……ないか?」
「はい? なんておっしゃいました?」
「頭を撫でさせてくれたら休む」
「…………」
私は無言で見返した。
――聞き間違い?
じっと見つめていると、ディートハンス様の耳が赤くなる。
その様子を眺めながら、遅れて疑問の声が漏れた。
「えっ?」
「ミザリアの頭を撫でさせてほしい。触っていると落ち着くんだ。だから、休む前に撫でられたらよく眠れる気がする」
「……そ、そうですか」
顔が熱い。
一瞬、照れているのかと思った耳元の赤さは引いていて、ものすごく真面目な顔でそんなことを語られて、私は反応に困ってしまった。
よく撫でられると思っていたけれど、そんなふうに思ってくれていたことにも驚きだし、それと同時になんだか嬉しかった。
でも、はわぁとなるというか。
よくもまあ、そんな臆面もなくストレートに告げられるというか。
やっぱり顔が熱い。
「ダメか?」
ちょっと残念そうに眉を下げ小さく首を傾げられ、私は慌てて頭を突き出した。
「こんな頭でもいいならたくさん撫でてください」
「ミザリアの頭がいいんだ」
うぐっ。この人、どうしてこんなに直球なのか。
顔を上げるのが怖い。どんな顔してみているのだろうか? 真顔? きっと真顔だろう。だけど、どんな笑顔よりも真顔で言われているほうが恥ずかしい気がした。
それからしばらく私の頭を撫でたディートハンス様は、ふっと息をつき乱れた髪を整えると手を離した。
「ありがとう。しばらく休む。また頼む」
「はい。ゆっくりしてください」
私はディートハンス様のその言葉にぱぁっと笑みを浮かべた。それから、あれっと首を傾げる。
――ん? また頼む?
何を? とは思ったけれど、ディートハンス様はベッドに横になったので、本当に休むつもりでいてくれることに安堵のほうが勝る。
なにせ、目を離すと仕事すると言っていたので。任務達成に妙な満足感もあった。
横になったのを確認すると、私は食器を引いて部屋を後にした。
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