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切り離したはずのもの②
しおりを挟む「それでだ。総長を襲ったその魔物は他とは明らかにレベルが違った」
「初めから私を狙ってきていたな。普通、魔物は本能的に強者は避け自分より弱い者を狙うのだが、あの個体だけは違った」
「狙って……」
そんなに危険だったのかとディートハンス様を見たが、いつものように何を考えているのかわからない美貌があるだけだった。
本人はそれに対してどう感じているかわからない。だからさらにディートハンス様に危害を加えた人物に憤りを覚える。
「その魔物だけ一体につきひとつしかない魔石がふたつ出てきたことからも、手を加えられた魔物の可能性があると判断した」
「……特定の人物を狙って魔物を使って呪うというのは難しいように思えるのですが」
討伐には多くの騎士たちが駆り出されていた。
常に同じ場所にいるわけでもないし、行動する場所も違う。そのため騎士団総長であるディートハンス様がいる場所を把握し見分けることは魔物には難しいはずだ。
――裏で誰かが手引きしていないと……。
そうか。そこも、なのかもしれない。
「そこまではわからない。ただ、ディートハンス様ではなければすぐに死に至っていた可能性もある。とにかく、総長含め王国騎士に悪意をもってこのたびのことを起こしたことは間違いない。相手はそれ相応の技術があり確実な悪意があって動いている」
もう一度、ディートハンス様を見た。
私に気づくと返してくれる視線からはやはり何を考えているのかわからない。人の心配はするのに、自分のことになると隠すことが上手な人だ。
私は改めてここに至るまでの会話や現在の状況を考える。
機密を私に話す理由。ただ、信頼しているから、守るからで話すにしてはかなり重大な情報だ。
つまり、これらも私にまったく関係がないわけではない?
それは聖力が関わっているのか、また別の何かがあるのか。
――まさか伯爵が?
突拍子もない考えに至り、それこそまさかだと首を振る。破門されたとはいえ、現段階で血縁者に話すにはリスクがありすぎる。
考えに没頭していると、ディートハンス様が察して声をかけてくれた。
「この話をミザリアに下手に隠すよりも、全て話すことについてはすでに国王陛下にも許しを得ている。情報に関して秘密さえ守れば不安に思うことはない。ミザリアと関係がまったくないわけではないから。」
「国王陛下!?」
それだけこのたびのことは重大な案件ということだ。
下手すればディートハンス様の命が危うかったことを考えると、国防の危機だったわけなので案件的には国のトップに話が通っていても不思議ではないのだが、言葉にされるとさらに重みが増す。
自分の存在が国王に認知されていることに焦る思いもあった。
軽い気持ちで話に参加しているわけではないが、この件から抜け出せない事実を突きつけられた気分になって、関係があることを示唆されたことを思い出し考えを改める。
認知されていようといまいと、私はディートハンス様を脅かした呪いに関することを知らないままではいたくないし、対抗できる聖力を持っているのならなおさら知っておきたいと思ったはずだ。
だったら、知るべき立場に引き入れてくれたことに感謝しなければならない。
差し出され手を今みたいに掴んでいたいのなら、それが自分にとっていいことばかりではなくても受け止めて進んでいきたい。
「先ほど特定の人物を狙う方法はわからないとは言ったが、騎士団を、例えば、特定の誰かは考えにくいが強い魔力を襲うようにすることは可能だろう。魔物が暴れれば騎士団は赴く。その上で、一番魔力が多い者となればディートハンス様だ。このたびのことは騎士団、もしくは騎士団総長クラスを狙ったものだと考えている」
「そんな」
「そして、その黒幕はランドマーク公爵だと我々は考えている」
フェリクス様が笑みを浮かべながらも苛立ちを滲ませた。
地図と歴史書を思い浮かべる。
前回遠征に出た場所の山脈を挟んだ領地を治めている筆頭公爵家だ。
彼らがそれを口にするということは、確固とした証拠はなくともそれなりの理由があるのだろう。
「そうですか……」
「それでだ。魔石を何らかの方法で人為的に埋め込み呪いをかけたと思われるランドマーク公爵と、魔石の取引をしているのが君の父親、ブレイクリー伯爵だ」
思わず身体が反応した。
だが、すぐさまきゅっと力を込めたディートハンス様の手の温もりに深く息を吸った。
落ちそうになるたびに、ディートハンス様の温もりに助けられる。
「確かに魔石採掘量は北部で一番だと聞いてましたが」
採掘場では噂話が尽きなかった。
大口の取引があるから働き詰めになるのだとか、夫人が新たな宝石商を呼んで伯爵家は羽振りがいいだとか、大した情報はなかったけれど多少は伯爵家の動向を知ることはできた。
魔石と魔物。ブレイクリー伯爵とランドリー公爵。
そして遠征先は北部であったこと。
繋がっていくものに、そしてここに来て忘れたはずの、忘れようとしたはずの元家族の存在が心をむしばんでいく。
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