魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
92 / 127

変動②

しおりを挟む
 
「ミザリア。疲れたようだな。部下を助けてくれてありがとう」
「ディートハンス様」

 いつの間に部屋に入ってきたのかディートハンス様がすぐそばに立っていて、そのまま私を抱き上げた。
 その素早さにされるがままぽかんと見つめていると、ディートハンス様はじっと私を観察しそれからアミール様に視線を移す。

「アミール。ミザリアは疲れている。感謝の念はまた今度にしたらどうだ?」
「そういたします。ミザリア様、本当にありがとうございます!」
「問題ないとわかればすぐに復帰してもらうからそれまでしっかり休むように。無事でよかった」
「はい!」

 それからセルヒオ様は部屋に残り、私はディートハンス様に抱き上げられたまま、レイカディオン様とともに食堂へと向かった。
 かなり時間が経っていたのか、私が準備できる状態ではないと判断され食事はすでに用意されていた。

 先に食堂に来ていたフェリクス様たちが抱きかかえられたまま現れた私を見て慌てて駆け寄ってきたが、アミール様が治ったこと、魔法を使って疲れているだけだということを伝えると皆一様に安堵し席に戻る。
 そして、気づけば私はディートハンス様の膝の上から逃れられない状態になっていた。

「ほら、口を」
「ひとりで食べれます」
「ダメだ。ミザリアは疲れている」

 確かに疲れているけれど、スプーンは持ち上げられる。
 先ほどは使い慣れない魔法に疲れただけで、こんな大袈裟に世話を焼かれるようなものではない。

 困って眉尻を下げるけれど、こういう時は強引なディートハンス様はもう一度「あーん」と声を上げた。
 口の手前まで持ってこられ、断れない雰囲気にひとまずこのワンスプーンは処理しなければとぱくりと口に入れると、ディートハンス様が満足そうにくふっと息を漏らす。

「ミザリア、可愛い」

 思わずと言った感じで自然と呟かれ、私は一気に顔を熱くさせた。
 体勢も体勢だ。それにここは他の騎士たちもいるわけで……。
 そろりと周囲に視線を向けると、やたらと笑顔が返ってくる。

「そこは素直に甘えておいて。それにここ最近忙しくて、ディース様もミザリアを甘やかすことで疲れを癒やしているから。そして俺たちもその様子を見て癒やされる。ミザリアさえ嫌でなければそのままで」
「はあ……」

 しかもフェリクス様に至っては、ディートハンス様の行動をにこやかに肯定する始末。
 アミール様が怪我して運ばれてきたのはさっきのことで、そんな危険と隣り合わせで神経をすり減らす場所で戦っている彼らに疲れていると言われれば拒否しにくくなる。

 告白を受けてからディートハンス様が以前にも増して甘くなったと同時に、そんなディートハンス様と一緒にいると生温かい視線に晒されることが増えてきた。
 それらは非常にこそばゆいけれど、彼らの大事な総長が私に構うことを受け入れているとわかる空気はほっとする。

 答えはまだ先。
 ディートハンス様の気持ちと周囲は関係ないことだと頭ではわかっているけれど、彼らの強く結びついた関係を考えると反応はどうしても気になってしまう。

 それと同時にやはり急に甘くなりすぎないかとちらっとディートハンス様を見ると、期待のこもった眼差しでスプーンを差し出され私は返事をするとともにまた口を開いた。

「ずっと餌付けしたい」
「……ぐふぅ」

 豆が喉に詰まり変な声が出た。
 もともと物言いがストレートな人なので、ぽそっと呟く低音もその内容も平気で言う。
 苦しくて顔をしかめていると、心配そうにディートハンス様が顔を覗き込んできた。

「ミザリア。大丈夫か?」
「……う、こほっ。大丈夫です」
「そうか。よく噛んで食べるように」

 いやいや。さっきの発言はなかったことに?
 それとも無自覚?

 助けを求めるように周囲を見ると、何人か私と同じようにむせていた。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?

金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。 余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。 しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。 かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。 偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。 笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。 だけど彼女には、もう未来がない。 「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」 静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。 余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さくら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...