魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
93 / 127

変動③

しおりを挟む
 
 その様子に、ディートハンス様のこの物言いに驚くのは普通のことなのだとちょっぴり安堵する。
 あまりにも気にしていない様子のディートハンス様を見ていると、自分がおかしいのではないかと錯覚に危うく陥りかけるとこであった。

「やっぱり自分で」

 いつまたどんな発言で驚くことになるかわからないので危険は減らしたくて申し出ると、ふるふると首を振られ拒否された。

「私の楽しみを取らないでほしい」
「楽しみですか」
「ああ。ミザリアに構うのは楽しい。過ごせる時間はずっとくっついていたい」

 燃えるような熱い双眸でじっと見つめられながらにこっと破壊力の笑顔を前に、私は突っ伏した。

 ああああああぁぁぁぁぁ、ディートハンス様が甘い。
 そして、私を好きなことを周囲にも隠さないし、返事はまだのはずなのに好きがことがるごとに伝わってきて、顔を赤らめることを止められない。

「やっぱり可愛いな」

 あふあふしていると、ディートハンス様は私の頬をつつきにこにこと笑顔を浮かべ、きゅっと抱きしめてくる。
 ベッドでは手を繋ぐだけだったのに、人がいるところでは自制を利かすことができるからとスキンシップが露骨なのもここ最近の変化である。

「ミザリア、好きだ」
「うっ、はい。ありがとうございます」

 そして事あるごとに、好きを伝えられる。
 このままでは何もできなくなってしまいそうだ。
 とろとろに甘やかされて仕事までできなくなりそうな甘やかしに、絶対に仕事は手を抜かないぞと誓うのだった。

 すべてを解決するまでの、それはつかの間で優しさに包まれ甘やかされるだけの時間――。


  * * *


 北風がさらに厳しく感じるころ、その知らせは瞬く間に王国全土に広がった。

『魔物の大群が各地で大暴れしている。しかも徒党を組みだし知恵まであるらしい』

 それらの情報は国民に不安を与え犠牲者が増えるたびに恐怖が伝播し、陰鬱な空気になっていった。
 ただちにそれぞれの家門は魔物退治に乗り出した。王国騎士たちも王都の要だけを残し救援に向かう。その中には総長のディートハンスも含まれていた。

 動ける魔物は気温など関係なく活動し相手は手当たり次第生物を捕食するのに対し、こちらは寒さで動きが鈍くなり冬は食料が少なく道は凍り時に塞ぐこともあるので補給は滞りがちになる。
 長期決戦になればなるほど、こちらが不利になる。勝機を掴むためには、最初から力をぶつけ少しでも数を減らすしかなかった。

 全滅させない限り魔物は人が多く集まる場所へと移動し、各地で逃れた魔物が王都へと移動していると情報が集まると戦々恐々となった。
 各地で戦いはまだ繰り広げられる最中、王都が狙われもし甚大な被害が出ると復興が長引くことになる。
 地方を守ることもだが、王都の守りはさらに大事であった。

 さらにちらちらと王都にも雪が降り始めさらに本格的な冬が到来するころ、ぞろぞろと北部からランドマークの家門を掲げた旗とともに王都へと向かっていることがわかった。
 最初のころは王都に集まる魔物討伐のため、国への忠誠を示すためかと多くの国民が思ったそれらは、徐々に南下していくたびに疑念に変わる。

 なぜか公爵たちは魔物に襲われることなく、むしろ魔物を従えて移動しているらしいという衝撃の事実が発覚した。
 まるで王都が手薄になることがわかっていたかのように、公爵は王都に着くと宣戦布告した。

「国を統べる正当な王はフォルジュではなくランドマークであるべきだ。偽りの王よ、その座を返還してもらう時が来た。全軍、かかれ」

 号令とともに公爵の部隊が城に突入にし、各地で公爵の同盟軍が狼煙を上げた。
 そして国が混乱しそれぞれ対応に追われている最中、ミザリアが騎士団寮から忽然と姿を消した。



✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.

ここで第四章終わりです。
予定より長くなっておりますがようやく終わりが見えてきました。次か、収まらなければその次の章で終わる予定です。ここまでお付き合いいただき本当に感謝です。

途中、ハートの実装もされこんなに反応していただけるなんてと喜び、一手間かかるエールも変わらずいただきと毎日励みをいただいております。
あともう少し見守っていただけたら幸いです。

いつもありがとうございます(✿´꒳`)ノ°+.*


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?

金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。 余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。 しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。 かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。 偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。 笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。 だけど彼女には、もう未来がない。 「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」 静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。 余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さくら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...