魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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同じ場所に②

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 謝られる覚えはない。私も自ら進んで浚われたわけではないので謝らない。
 謝ればきっともっとディートハンス様は自責の念に駆られてしまうと思うから。

「いえ。約束通り全力で守っていただきました。ディートハンス様との約束があったから、信じて最後まで頑張れたんです。だから、謝らないでください。来てくれて本当に嬉しかったです」

 母が亡くなって、ずっとひとりだった伯爵領での生活。いつか出て行くのだという目標はあったけれど、とにかく逃れたかっただけだった。
 だけど、今回は明確な希望があった。帰りたい場所があった。私のことを待ってくれている人がいることを知っていた。絶対、屈しないと強い気持ちがあった。

 フェリクス様に拾われ、騎士団寮で過ごし、ディートハンス様との関わりが増えるたびに芽生えたものは、共に過ごした思い出とともにかけがえのないものになって手放したくなくなった。
 あの地で、ディートハンス様、フェリクス様たちの姿を見て、どれだけ安心したか。自分だけではなく、彼らも私を必要としてくれているとわかる表情にどれだけ救われたか。

 渦巻くたくさんの感情とともにディートハンス様を見ていると、それが伝わったのかディートハンス様が大きく息を吐き出した。
 じっと見つめる双眸の光は強いまま、頬に添えられていた指が離れもどかしげにかき抱かれる。

「ずっと心配だった。ミザリアに何かあったらと思うと苦しくて、もう二度と離れたくない」
「私も、ずっとディートハンス様に会いたかったです」
「そうか……。本当につらいところはないか?」
「精霊のおかげで今までにないくらい体調はいいです」

 安心させるようににこっと微笑むと、ディートハンス様の瞳の奥が熱く揺らめく。
 怪しげな空気に絶えきれず寝たままではなく座って話したいと告げ身体を起こすと、ディートハンス様は私の背中にクッションを敷き詰めた。

 真面目な顔で角度を調整する姿に笑みがこぼれる。
 体勢がつらくないか心配していたが私が大丈夫だと再度告げると、今度は私の足をまたぐようにぐいっと身体を寄せ顔を近づけてくる。

「よく顔を見せてくれ」
「あっ」

 こめかみに唇が触れ、耳元でささやかれる。
 それからじっとひたすら見つめられた。

「ミザリア」
「あの……」

 両頬を掴まれて愛おしげに目を細められる。
 醸し出す雰囲気が尋常じゃないくらい甘く熱くなり、私はこくりと息を呑んだ。
 逃げようと後退さろうとするけれど、クッションという配慮に柔らかに拒まれ息がかかる近い距離でその眼差しを受け止めることになる。

「どうして逃げる?」
「えっ、と」

 ふにゅ、と柔らかい唇が私の額に押し当てられた。その優しい感触に、あと少しでも感情が揺らいだら溢れてしまいそうだったものが揺れ、こぼれ落ちる。
 とろけそうに甘く笑う姿に私は観念した。

「ディートハンス様、その近いのですが」
「問題でも?」

 それでもこの熱を孕む空気は落ち着かず少しでも余裕が欲しくて告げてはみるけれど、自分の声はすっかり甘えたようにか細い。
 好きだと言われて男性として意識するようになって、離れてもずっとディートハンス様のことが頭にあった。

「問題というか……」
「もう二度と怖い思いはさせない。私はミザリアなしではいられないんだ。どうか私の手をとって、私に守らせてくれ」

 切実な声とともに告げられ、きゅうっと胸が締まる。
 額に触れる唇は子どもをあやすような労りのあるものであったが、私を見つめる双眸に浮かぶ熱はそれとはまったく別物で。

 様々な感情のもとディートハンス様の理性でぎりぎりで踏みとどまっているとわかるそれに、つぅっと涙が出る。
 こんなにも思われて、大切にされて、そして……。

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