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同じ場所に③
しおりを挟む「返事をする前に聞きたいことが……。十一年前、王都の魔物の森で助けてくれたのはディートハンス様ですよね?」
「……ああ。確かに出会って魔物の森から出したが助けられたのは私のほうだ」
過去に関わりがあったなど気づかせるような素振りはなかった。
だけど、そういうのを気取らせないことは無表情が常であるディートハンス様からしたら簡単なことだろう。
最近、笑顔を見せてもらったり今も感情豊かな双眸を前にしていて忘れがちになってしまうが、本来感情を抑制することに長けた人だ。
「ディートハンス様は、私のこと気づいていたんですね」
「魔力暴走時は顔をあまり認識できず魔力で判断することも多かったから、それまでもしかしたらと思うこともあったが確信したのはミザリアが呪いを解いて魔力を取り戻してからだ」
「あの時に……」
さらっと語られた魔力過多の弊害に胸が痛む。あの時の掻きむしった苦しそうな痕は今でも鮮明に思い出される。
どれだけ当時しんどかったことだろう。
それと同時に、記憶が曖昧であることを打ち明けたから、ディートハンス様自身も話すタイミングを見ていたのかもしれない。
記憶を思い出してから、なぜそのことを言ってくれなかったのか、それとも気づいていないのか気にかかっていた。
私自身が忘れていたとはいえ、彼は私のヒーローだった。
そんな相手に忘れられ、思い出すほどのことでもないものとして処理されていたらやっぱり寂しいし悲しい。
「確信してから命の恩人であるミザリアのことをさらに大事に思うようにはなった。だけど、恩人だからミザリアが好きなのではない。ここに来てからのミザリアに惹かれ、あの時のまままっすぐな優しさを持っていることを知り、さらに愛おしくなって守りたくなって触れたくなった」
「……」
自分で聞いておいてなんだが、相変わらずのストレートさに顔を熱くする。
そして、昔のことを記憶していて大事に思ってくれていてなお、今の私を知り好きになってくれたと教えられ、最後のつっかえが取れる。
「言っただろう。私にはミザリアしかいない。今も昔も。命の恩人であるとともに、ミザリアといるととても幸せな気分になるんだ。だから、私もミザリアを幸せにしたい」
「離れていた間、ここのことが恋しくて、何よりディートハンス様に会いたかったです」
あの状況をどうやって打開しようかと様々なことを考え、そして必ずディートハンス様を思い出していた。
寮に戻ったらどう返事しようとか、何を話そうとか、自分がどうしたいか、どう思っているか、ずっと考えていた。
その時間はくすぐったくてちょっと切なくて、そして心がほわっとした。
まっすぐに伝えてくれる想いに、私も偽りなく答えたい。
「フェリクス様たちにも感謝と好意を抱いていますが、そばにいてそわそわしたり、ドキドキしたりするのはディートハンス様だけです。これが恋かと言われればまだよくわかりませんが、ずっと一緒にいたいと思うのが答えなのかなと思います。私もディートハンス様が好きです」
偏った環境にいたことで自分の気持ちや感情に名前をつけるほどの自信はないけれど、ディートハンス様の気持ちに応えたい、もう二度と離れることなくずっと一緒にいたいと思うのはそういうことなのだ。
そう告げると、愛おしげに顔を寄せ鼻を擦り付けられる。
唇が触れそうになる手前で、ディートハンス様はぐっと眉間にしわを寄せそこで止まった。
「騒動が落ち着いたら話したいことがあると言っていたと思うが、今、聞いてくれるか?」
以前、その後に返事が欲しいと言っていた。
雰囲気的にキスされても私は拒まなかった。それがわかっていても、有耶無耶にせずきっちりと筋を通してからにしようというディートハンス様のまっすぐさに笑みが漏れる。
どんなことを聞いても、私はもうディートハンス様と離れたくない。
口に出して、相手に聞いてもらって好きなんだとさらに自覚した。
「はい。教えてください」
むしろ、それらを一緒に背負っていけることに喜びを感じて、私はこつりとディートハンス様と額を触れ合わせた。
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