魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)

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失ったものと温もり②

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 滅多に表情を崩さないディートハンス様の微笑は家族であっても貴重なようで、オリビア様は照れて頬を赤く染める。
 私はその様子を微笑ましく思った。私自身が家族との縁が薄かったから、二人の関係が眩しく映る。

 ディートハンス様の話しぶりからも家族への感謝や愛情は伝わってきていたし、昔から無邪気に懐く四つ下の妹が可愛いとも聞いていた。
 愛情ゆえの行動、ディートハンス様が大事に思っている方だと思うと、失礼だが私から見てもオリビア王女が可愛く見える。

「――もう! いいわ。私も本当はディースお兄様に大事な女性ができて、その女性がお兄様を受け入れてくれて嬉しいの。だから」

 そこでオリビア様は私のほうを見た。

「できたら仲良くなれたらと思っているのよ。お兄様の恩人でありディースお兄様が見初めた人だもの。それに、いずれ私のお義姉様になる方でしょう?」
「そうなるな。オリビアならミザリアを任せられる」

 当然のように頷くディートハンス様に、オリビア様の護衛騎士がさすがに驚いたような表情をした。
 ここの騎士たちはディートハンス様の言動に慣れており、楽しげな笑みを浮かべ肘で突き合いこそこそ言い合っている。
 アーノルド様はにやにやと笑っていることを隠さず、締まらない顔をした第一騎士団長を見たオリビア様は眉をわずかに寄せ、私を見ると複雑な表情を浮かべた。

「んんっ。リアクションを期待していたわけでもないし、そういうつもりで言ったのではないのだけど、真剣に語られれば語られるほどこっちが恥ずかしくなるのよね。それでお兄様、私に彼女を紹介してくれないのかしら?」

 それから互いに紹介され、私を紹介する際にまた平然と周囲が照れることを言うものだから、オリビア様は、きっ、とディートハンス様を睨んだ。
 頬を赤らめているのでまったく怖くなく、表情が豊かでむしろ可愛らしい。

「ディースお兄様は控えると言う言葉をご存じないのかしら?」
「時と場合は選んでいる。ここは騎士団寮だ。私の意向を知っている者ばかりで、家族にも、ミザリアにも私の気持ちを隠す必要はない」

 そう。話す必要があると思えばディートハンス様は饒舌だ。
 ディートハンス様が王族であることとともに、今の立場とそこに至る過程を包み隠さず教えてくれた。

 病弱だとされていた第二王子殿下が実は国最強の騎士団総長であった事実は確かに驚いた。
 けれど、この国の騎士団総長であること自体が決して届かぬ雲の上にいるような存在であり、そこにさらにものすごい肩書きが乗っても私の中では大して変わらなかった。

 ディートハンス様は、魔物の森に置き去りにされ逃げることもできずどうしようもなかった時に現れた私の最高のヒーローだ。
 むしろ、王族を敬う気持ちや畏怖する気持ちもあるけれど、ヒーローであることは揺るぎなく私の中心にいて、私にとって唯一の存在だ。

 ディートハンス様は王族である秘密を打ち明ければ、気後れしてしまって負担になり私が離れていくのではないかと何より心配していた。
 だけど、幼き時に助けてくれたヒーローである事実のほうが重要で、感謝の気持ちとともに好きな人がヒーローであることにさらに熱く込み上げるものがあった。

 ディートハンス様が言うように感謝する過去と異性としての好きは別のところから発生しており、だけど繋がってさらに好きだと想う気持ちは止まらない。
 自覚した途端に膨らみ続ける愛情は、身分だとかそういったもので消えそうにはなかった。
 王族であることはしがらみも増え、その恋人となれば一般的なものとは違うのだろうけれど、ディートハンス様とできる限り一緒にいたい。それは今も変わらない。

「ミザリア、私を見て」

 仕事モードがオフになると、ディートハンス様は私を口説くことに余念がない。
 本人は口説いているつもりはないみたいなのだけど、常に気持ちを伝えられ触れてくる。

 拉致されたこと、そして十一年前の出来事も含め、ディートハンス様は私の存在を確認せずにはいられなくなってしまったようで、可能な限りそばにいようとした。離れようとしない。
 さすがに二人きりではないので抱きしめてとまではいかないけれど、腰に回された手は決して離さないと告げていた。

「ミザリア。私を見れない?」
「いえ……」

 家族であるオリビア様がいる前で、ディートハンス節が炸裂するのではないかと恥ずかしさでひぃ~と涙目になった。ここで抵抗すれば、さらに甘い声と言葉をかけられる。
 おずおずとディートハンス様を見上げると、愛おしげに見つめられる。

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