冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)

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義兄の苛立ちと急変②

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 私はふっと息をついて、もういいやと投げやりにな気分で思ったことをそのまま伝える。

「二年経てば出て行く約束でし」
「まだ二年経っていないよね? 約束の日まであと三週間はある。それに家族に無断で出て行くのは感心しない」

 言い終わる前に被せるように告げられる。

 ――それをあなたが言うのだろうか。

 本来ならしっかり話し合ってからが望ましいとは自分でもわかっている。
 だけど、少しでも早くと思わせた原因、誰よりも私に出て行ってもらいたがっていた義兄に問い詰められるのは納得いかない。

 この二年間、ずっと冷たい態度だったのに今更引き留めるようなことを言うなんて残酷だ。
 悔しいのと腹立たしいのとで唇を噛み黙り込むと、底光りする瞳が理由を告げるまで離さないとじっと見つめてくる。

 もう訳がわからなくて、手の拘束を解こうと抵抗してみるけれどびくともしなくて。
 私は、きっ、と義兄を睨み付けた。

「クリフォードお義兄様は私と顔を合わせるのも苦痛に感じるほど私のことが嫌いなのでしょう? なのに、どうしてこんなことをするのですか?」

 なぜか今までの冷徹で無関心な行動がなかったかのように干渉しようとしてくるけれど、この二年間のことは決して忘れられるものではない。
 誕生日に聞いた言葉は胸にぐさりと突き刺さったままだ。

「誰がそのようなことを?」
「クリフォードお義兄様です。一週間前にザック様とお話になっているところを偶然聞きました」

 そう告げると、クリフォードは私の手を掴んだまま考えるように視線を伏せる。
 それからはっと目を見開き睨み付ける私の表情をまじまじと見つめ、わずかに怒りを引っ込めた。

「……もしかして、ザックとの話を聞いていた?」
「はい。聞くつもりはなかったのですが、不本意ながらしっかりとこの耳に届きました」

 本人から話していたことを認められるとやっぱりへこむ。
 私はどれだけ冷たくされても、今もこのように理不尽に拘束されても義兄を嫌いになれなくて、怒りが薄らいだことにほっとしてしまっていて、いつまでもクリフォードの反応を気にすること自体嫌になる。

「あれは違うんだ」
「どう違うのですか?」

 焦ったような声に、自分でも冷ややかな声が出た。あの日のことを思い出すと、今もずきずきと胸が痛む。
 親しくなりたいと思っていた人に決定的に嫌われていたと知ったショックは、今まで培ってきたものをすべて否定されたようにも感じて気持ちがふさいだ。

 義兄を視界に映したくなくて視線を逸らすと、掴んでいた腕が緩みそのまま引っ張るように上半身を起こされる。
 クリフォードは床に膝をつくと私と視線を合わせ、そっと私の両頬を挟んできた。

 びくっと身体を揺らし今度は何をされるのかと目を瞑ったが、大きく骨張った手がわずかに震えていることに気づき私はゆっくりと目を見開いた。
 ふぅっと息を吐くとともに、伏せられた瞼がゆっくりと上がっていく。

 髪と同じく金の睫毛が縁取られた瞼の奥から現れた瞳に捕われて、息が止まる。
 計算された角度から光を取り込んだ宝石のような瞳がとろりと熱を含み私を見た。すべて開けられた瞳に私をしっかりと捉えると、愛おしげに細められる。

 時間が静止し、私も、クリフォードも全ての感覚がお互いにだけ向けられる。
 見つめ合い、互いの息遣いが耳に届くだけの静寂に包まれる。

「……俺は、フローラが好きだ」
「…………」

 全神経を傾けていたなかでの発言の内容の真意がわからず眉根を寄せると、クリフォードは悲しげに瞳を伏せた。
 信じられず首を振ると、「フローラ」と名を呼び熱い吐息とともに顔を近づけられ熱っぽく見つめられる。頬も愛しくて仕方がないとばかりに優しく撫でられ、私は嫌だとさらに首を振り拒絶した。

 悔しかった。たくさん傷ついてさよならを決めてから好きだと告げてくる勝手さの憤りもあるのに、『好き』の言葉に喜んでいることが。
 もう期待したくないのに、最後の最後で期待する。

「フローラ。好きだ」

 ぽつっと掠れた声で告げられ、どきりと胸が跳ね上がる。
 超絶美形の美声はせこい。冷たいのに気遣われていた数々にすがりつきたくなってしまう。信じてしまいたくなる。

 でも、もうこれ以上期待して傷つきたくない。
 あの日の言葉は、耳に、心にこびりついて忘れることなんてできない。

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