30 / 63
アリスの暴走2
「挙げ句にはルーシーにもう関わるなですって。何でなのよ。みんな私のことを好きになるはずなのに!」
大きな瞳でぎろりと睨まれるが、まったく可愛いと思えないし怖くもない。
――意味がわからない。それを聞いてどうしろと?
ルーシーは短い溜め息を漏らした。
魅了魔法についてアリスは自覚ないようだと王子には聞いていたが、この発言の根拠はいったいどこからくるのだろうか。
「アリスが何を焦っているのかわからないけれど、好かれたかったらそれ相応の態度は必要だと思うけど」
「お助けキャラがえらそうに何を言ってるのよ。私のことを助けていたらいいのに、本当に役立たず」
やっぱり話が通じないようだ。
アリスの言葉に今更揺さぶられない。アリスのよくわからない要望に応えたいわけではないから、別に役立たずでもいい。
なぜ、同性であるルーシーがあんなにもアリスの魅了に惑わされたのかわからないが、今は彼女の影響下にないので、自滅していくアリスが哀れにも感じる。
自分がされてきたことを思うと手を差し伸べたいとまでは思わないけれど、一年以上彼女のそばにいた。
もう関わりたくはないけれどわずかに情みたいなものはあって、完全に突き放すことはできそうになかった。声が届くのなら届いてほしい。
「もう誰もアリスを助けてくれないよ。思い込みで動くのは自分の首を絞めてると思う」
「モブなんかに意見を言われたくないわ。なによ、その視線。ラシェル様に声をかけられてるからっていい気になって。誰も彼もムカつく!」
感情を爆発させたアリスにまた『モブ』だと言われ、ドンッと思いっきり肩を押される。
「あっ!」
「えっ?」
押された拍子につるりと足を滑らせて、ルーシーの身体ががくんと傾いた。身体が放り出される感覚にとっさに掴めるところを探した手は宙をかき、そのまま落下していく。
人目に付かないように、階段の隅で話していたのが悪かったと後悔しても遅い。
――これ、やばいかも。
魔法でどうにかできるとも思わないし、そもそも身体を浮かすほどの魔力は自分にはない。
傾いていく視線の先には驚いた様子のアリスの顔があり、故意ではなかったのだとちょっとほっとした。
散々巻き込まれてきたけれど、怪我をさせたいほどの悪意を向けられていたのだとしたら悲しい。
いや、暴力は許せないし、このことを許すつもりはないけれどと、考えられたのはそこまでだった。
衝撃に備えてぎゅっと目をつぶると、階段の上で、「何しているんだ」と怒鳴るような声がして、キャーとアリスが叫ぶ声がすると同時にぐいっと力強く腰を引かれ長い腕に抱き込まれた。
そのまま相手と一緒に落ちる浮遊感のなか、ふわりと複雑な甘い匂いを感じた。決して甘すぎることはないこの匂いをルーシーは知っている。
ドンと上下に身体が揺れ地面に着地する気配がし恐る恐る瞼を開けると、顔色を青くしたラシェルの険しい顔がそこにあった。
「……心臓縮むかと思った」
言葉とともに焦った低い声が頭上から落ちてくる。
ルーシーはぱちぱちと瞬き、階上にアリスがいることを確認し、ラシェルが持ち前の身体能力と魔法駆使して助けてくれたのを知る。
抱かれたままなのでルーシーの足は浮いているが、無事、足下からの着地が成功したしたようだ。
着地前に下から浮き上がる風を感じたので、ラシェルが魔法を使って衝撃を和らげてくれたらしい。
結構な高さから落ちるところだったと、下から見ると今更ながらに心臓がどくどくと忙しなくなった。
ラシェルが助けてくれなかったら、酷い怪我をしていたかもしれない。その事実に遅ればせながら身体が震え出す。
「ルーシー。もう大丈夫だから」
「はい」
とんとんと背をなだめるように叩かれて、ルーシーは震える手で彼のジャケットを掴み顔を埋める。
彼の心臓もルーシーに負けないほどうるさく、飛び出てしまいそうなほど大きな音にびっくりして思わず見上げると、ラシェルはなぜか思いっきり眉をしかめた。
あなたにおすすめの小説
モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】
いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。
陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々
だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い
何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで
ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。
だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。
「私は観る側。恋はヒロインのもの」
そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。
筋肉とビンタと回復の日々。
それなのに――
「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」
野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。
彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。
幼馴染ヴィルの揺れる視線。
家族の温かな歓迎。
辺境伯領と学園という“日常の戦場”。
「……好き」
「これは恋だ。もう、モブではいたくない」
守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、
現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。
これは――
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。
※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。
※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。
※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!
※本編は完結しました。後日談をのんびり不定期でUPしてます。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。