巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

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とくべつ1

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 階段落下事件のあと、アリスは学園を去った。
 その騒動でものすごく怒っていたラシェルは、アリスを警戒し反省室から絶対出さないようにとアンドリュー王子や学園に訴えたようだ。

 そのため、アリスはそれっきり教室にも来ずあれ以降会ってはいない。
 去り際のことや情報を持つラシェルの反応を見るからに、反省はあまりしていなさそうなので、ルーシーも気にするのをやめた。

 新聞ではアリスの養子先であるディストラー男爵家の不正摘発事件で賑わっていたので、そのようなことも含め退学となったのだろう。
 後ろ盾もなく学園では恋愛にかまけて光魔法での成果を出せなかったアリスは、学園での騒ぎで不適合者として退学を余技なくされた。

 ただ、属性も属性なので下手に放り出すわけにもいかず、今は魅了魔法に興味を持った魔法のスペシャリストが、彼女を監視しながら研究していると聞く。
 逃げては連れ戻され、また逃げては実験に付き合わされと、文句と泣きの日々を送っているらしい。
 文句を言えるのも、逃げる余力があるのも、さすがアリスというところだろうか。

 逆にあのアリスを泣かせられる魔法のスペシャリストとはどんな人なのだろう。まさか、ラシェルが話していたサイコやろうとやらと同じ人だったり?
 うーん。知るのはなにやら怖いので、それ以上の詮索はしないでおこうと思う。

 ラシェルとの付き合いは順調に続いていた。
 学園にいる間は清く正しくデートを繰り返し、触れ合いもせいぜいキスで終わる。
 付き合ってすぐにキスしたこと、思った以上に濃厚であったことと、気持ち良いことが好きだと聞いていたので警戒していたが、拍子抜けするほど健全であった。

 学生時代、王都でよく利用したレストランに到着し、指定された個室へと足を踏み入れると、先に来ていたラシェルが席を立って出迎えてくれた。
 今日から一週間ほど、仕事の兼ね合いもあってルーシーは王都に滞在する予定である。

「ルー。久しぶり。とても会いたかった」
「お久ぶりです。私もお会いできて嬉しいです」

 満面の笑みを浮かべるラシェルの前髪は、今はすっきりとし右目も良く見える。
 卒業と同時に切ってくれと言われて、ルーシーがハサミを入れてから伸ばすことをやめたままのようだ。全体的に学生時代よりは髪が短くなっている。

 学園卒業後、子爵領に戻ったルーシーはラシェルと会うのは初めてだ。
 アンドリュー王子が北部の食料事情を危惧し本格的に政策に乗り出したため、穀物庫としての役割を担う侯爵家であり、王子の側近であるラシェルは忙しい。
 ルーシーのほうは実家の手伝いをしつつ、メイクの技術をいかした仕事を請け負ったりしていた。

「元気にしていた?」
「ええ。とても元気です。ラシェルはまた身長が伸びましたね」

 会えない間は通信魔道具で連絡を定期的に取っていたし、もう少し砕けた口調で話をしていたはずだけど、久しぶりすぎて言葉が改まってしまう。
 三ヶ月ぶりに目にしたラシェルの姿は精悍さが増したようで、ルーシーは眩しげに目を細めた。

「そうかな。王都に滞在中はできるだけルーに合わせるからたくさん会おうね」
「はい。無理なさらない範囲でよろしくお願いします」

 自然に笑ったつもりなのだけど、少しばかり頬が強ばる。ラシェルに伝えたように会えて嬉しいのに、態度はぎこちなくなった。

「もしかして緊張してる? いつものように普通に話してほしいな」
「久しぶりすぎて。ちょっと」
「そう。俺も。でも会える喜びのほうが強いけどね。さ、座って」

 ラシェルに手を取られ、にこりと微笑まれるとぶわりと体温が上がる。
 その手も記憶にある手より大きく感じるし、そこから見える腕も自分のものより太く、男の人でこの人が自分の恋人なのだと思うと、そわっと身体が震えた。

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