36 / 63
とくべつ1
しおりを挟む階段落下事件のあと、アリスは学園を去った。
その騒動でものすごく怒っていたラシェルは、アリスを警戒し反省室から絶対出さないようにとアンドリュー王子や学園に訴えたようだ。
そのため、アリスはそれっきり教室にも来ずあれ以降会ってはいない。
去り際のことや情報を持つラシェルの反応を見るからに、反省はあまりしていなさそうなので、ルーシーも気にするのをやめた。
新聞ではアリスの養子先であるディストラー男爵家の不正摘発事件で賑わっていたので、そのようなことも含め退学となったのだろう。
後ろ盾もなく学園では恋愛にかまけて光魔法での成果を出せなかったアリスは、学園での騒ぎで不適合者として退学を余技なくされた。
ただ、属性も属性なので下手に放り出すわけにもいかず、今は魅了魔法に興味を持った魔法のスペシャリストが、彼女を監視しながら研究していると聞く。
逃げては連れ戻され、また逃げては実験に付き合わされと、文句と泣きの日々を送っているらしい。
文句を言えるのも、逃げる余力があるのも、さすがアリスというところだろうか。
逆にあのアリスを泣かせられる魔法のスペシャリストとはどんな人なのだろう。まさか、ラシェルが話していたサイコやろうとやらと同じ人だったり?
うーん。知るのはなにやら怖いので、それ以上の詮索はしないでおこうと思う。
ラシェルとの付き合いは順調に続いていた。
学園にいる間は清く正しくデートを繰り返し、触れ合いもせいぜいキスで終わる。
付き合ってすぐにキスしたこと、思った以上に濃厚であったことと、気持ち良いことが好きだと聞いていたので警戒していたが、拍子抜けするほど健全であった。
学生時代、王都でよく利用したレストランに到着し、指定された個室へと足を踏み入れると、先に来ていたラシェルが席を立って出迎えてくれた。
今日から一週間ほど、仕事の兼ね合いもあってルーシーは王都に滞在する予定である。
「ルー。久しぶり。とても会いたかった」
「お久ぶりです。私もお会いできて嬉しいです」
満面の笑みを浮かべるラシェルの前髪は、今はすっきりとし右目も良く見える。
卒業と同時に切ってくれと言われて、ルーシーがハサミを入れてから伸ばすことをやめたままのようだ。全体的に学生時代よりは髪が短くなっている。
学園卒業後、子爵領に戻ったルーシーはラシェルと会うのは初めてだ。
アンドリュー王子が北部の食料事情を危惧し本格的に政策に乗り出したため、穀物庫としての役割を担う侯爵家であり、王子の側近であるラシェルは忙しい。
ルーシーのほうは実家の手伝いをしつつ、メイクの技術をいかした仕事を請け負ったりしていた。
「元気にしていた?」
「ええ。とても元気です。ラシェルはまた身長が伸びましたね」
会えない間は通信魔道具で連絡を定期的に取っていたし、もう少し砕けた口調で話をしていたはずだけど、久しぶりすぎて言葉が改まってしまう。
三ヶ月ぶりに目にしたラシェルの姿は精悍さが増したようで、ルーシーは眩しげに目を細めた。
「そうかな。王都に滞在中はできるだけルーに合わせるからたくさん会おうね」
「はい。無理なさらない範囲でよろしくお願いします」
自然に笑ったつもりなのだけど、少しばかり頬が強ばる。ラシェルに伝えたように会えて嬉しいのに、態度はぎこちなくなった。
「もしかして緊張してる? いつものように普通に話してほしいな」
「久しぶりすぎて。ちょっと」
「そう。俺も。でも会える喜びのほうが強いけどね。さ、座って」
ラシェルに手を取られ、にこりと微笑まれるとぶわりと体温が上がる。
その手も記憶にある手より大きく感じるし、そこから見える腕も自分のものより太く、男の人でこの人が自分の恋人なのだと思うと、そわっと身体が震えた。
120
あなたにおすすめの小説
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる