40 / 63
かけがえのない友人 *sideラシェル①
しおりを挟むずっと我慢しなければいけないと思っていた。
誰も助けてくれない。誰も見てくれない。
ようやくできた友人と呼べるような相手にも、話すことはできない。なにより汚くて、こんな自分を知られるのが怖いと思っていた。
月光を背に、アンドリュー殿下やオズワルドたちがやって来るまでは。
*
その日は、アンドリュー殿下たちの様子がなんだかおかしいとは思っていた。
こそこそと話し合い、帰りはやたらといつも屋敷のどの辺りで寝ているのか、何時頃に就寝するのか聞いてきた。
王子を筆頭に基本真面目な者たちばかりなのだが、やることなすこと次元が違うこともあり、凡人には驚くようなことをアンドリューたちはしてのける。
また、何か企んでいるのか、ただの世間話なのかどちらなのかはわからない。気にはなるけれど、侯爵邸に帰って最近さらに激化してきた攻防が始まるかと思うだけで、ラシェルは気分が滅入っていた。
考えるだけで明らかに気分も悪くしんどくなる。王子たちの言動を深く気にする余裕はラシェルにはまったくなかった。
義母や義姉は以前にも増してラシェルに固執してきて、それはいっそ病的だと思えるほど気味が悪かった。
ラシェルも体力や知恵もついてきたので、早々簡単に捕まるようなことはないが、母が亡くなりこの屋敷に来てからずっと休息できる家ではなかった。
日中不在であった部屋は、何を仕込まれているかわからない。
油断していたつもりはなかったが、侵入を許して二人に乗りかかれたところに、昼間こそこそしていた王子たちが窓の外から現れた。
「やあ、私の大事な側近にあなたたちは何をしているのかな?」
アンドリューの冷え冷えとした声が落ちる。
王子の短く切りそろえられたプラチナブロンドの髪が、月の光で輝きを放つ。すべてを見透かすような碧眼は、言い逃れなんて許さないと自分たちを見据えていた。
その横を守護するようにレイジェスたちが控え、その中でも蠱惑的な紫の瞳に人形のような完璧な美貌を持つオズワルドがうっすら笑みを浮かべているのがより一層現実感も乏しく、それでいて義母たちには恐怖の魔王到来とばかりに映ったようだ。
一瞬にしてその場を支配したアンドリューが友人たちに視線を投じると、オズワルドは魔法で義母たちを退け、レイジェスとロイジェス兄弟は二人を捕縛した。
本当にあっという間であった。
長年淀んでいたこの場所にあっさりと侵入してきた彼らによって、突然新たな光と空気を入れられる。
二人がかりで脱がされかけた服だとか、女性にのしかかられている決定的な場面を押えられ汚れていることを知られてしまったことにも混乱して、ラシェルはへらりと何でもないと誤魔化すように笑みを浮かべた。
「くそ。ラシェル、笑うな」
「殿下、言葉遣い」
心底悔しそうに毒づくアンドリューに、ラシェルは自分の中にあるどうしようもないぐるぐるした気持ちを持て余し、いつも通りにと軽口を叩く。
「何を笑ってるんだよ。ああー、もう腹が立つな」
「そんなぷりぷりしなくても」
「お前がそんな感じだからこっちは怒ってるんだ。触れてほしくなさそうだったから、いつか話してくれるまで待とうと思っていた自分の甘さに腹が立つ」
ぎりっと睨まれて、汚いものを見るような目をされることもなく、こんな場面なのに被害者だと哀れまれることもなく、いつもの変わらない様子にふいにじぃーんときて涙が出そうになった。
やめてくれ。
自分はこんなふうに心を砕いてもらえるような人間でもないし、ほかの側近に比べると秀でた能力もない。
アンドリューの側近に選ばれたのも、侯爵家子息、年代が同じだったからだ。
なにより愛人の子どもであり、ただ次期当主候補として生かされているにすぎない自分。
ラシェルにとって、彼らとの時間は唯一心を休める場所を提供してくれるというのが大きかった。
王子への忠義だとか彼らへの信頼は、まあ、そこそこ。その程度なのに、アンドリューたちは手を差し伸べてこようとしている。
118
あなたにおすすめの小説
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる