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後日談 縁談騒動①(モブシリーズ二作書籍化決定記念)
「俺を見捨てないで」
ルーシーは突如実家にやってきたラシェルに請うように抱きつかれ困っていた。
いろいろあった学園で紆余曲折を経て付き合うようになり、互いに微妙な気遣いがあったのち、ようやく身体も結ばれ、それからは定期的に恋人らしく逢瀬を重ねていた。
その間、王太子殿下からの要請で変装して一緒に出歩くなど貴重な体験ができたのもラシェルとの繋がりがあったからであるし、自分のメイク技術に自信を持っていたので、必要とされたこと、役に立てたことはとても嬉しかった。
ラシェルとは具体的に先の話はしていないけれど、私たちは私たちのペースでゆっくりと進んでいくのだろうと、ルーシーは思っていた矢先だった。
「えっと、何があったの?」
「ルーが好きなんだ」
「あ、うん」
唐突な告白に、ろくな反応ができなかった。
過去のトラウマからラシェルは遊んでいた時期もあったけれど、今は自分だけだというのは知っている。
連絡もなく押しかけぴっとりとくっついて離れない切羽詰まった様子のラシェルを目にした両親は、呆れたように苦笑し部屋にこもることを許してくれた。
自室に入るとお腹に顔を埋めるようにして離れないラシェルに、ルーシーは学生の時より短くなった青髪を撫でる。すると、左右若干色の違う金茶の瞳が、ルーシーのことをうかがうようにして上目がちに捉えてくる。
垂れ目なので、先ほどの言葉通りの『捨てないで』感がものすごい。理由はわからないけれど安心させなければならない使命感に捕われて、ルーシーはわしゃわしゃとその髪を撫でた。
すると、ほっと吐き出したラシェルの息がお腹にかかり、泣きそうな声で同じ言葉を繰り返す。
「ルー。好き」
「うん。それよりもこれじゃまともに話ができないし、ラシェルを抱きしめることもできないよ」
そう告げると、ラシェルは機敏に立ち上がり、がばりとルーシーを抱きしめてくる。
「ルー。好きだ」
「私も好きだよ」
その勢いに笑いながら、ルーシーもラシェルの背中に腕を回した。
「俺にはルーだけ。どこにも行かないで」
「行かないよ」
自分にだけ弱みもすべて見せて甘えてくるラシェルが愛おしくて仕方がない。自分だけが特別なのだと行動で示されるたびに、ルーシーの胸は甘く疼く。
妙齢の女性は人として尊敬できない相手以外、今でもとことん苦手であるラシェルは、文字通りルーシーだけに心も体も反応するようだった。
好きな相手にそうだと伝えられて、どうして離れようと思えるのか。
「ルー」
名前を呼びじっと観察してくる相手に、ルーシーは首を傾げる。
「本当にどうしたの?」
「……縁談の話があるって」
「ああー」
なるほど。聞き上手な王太子殿下にぽろっと話したことがラシェルに伝わったのだろう。
爽やかな王子様は側近のことも、そして彼らが大事にしている相手も尊重してくれている。
なので、安易に人の恋路に首は突っ込まないだろうけれど、ラシェルを見て話す必要があると判断してのことか。もしくは、ルーシーの悩みをわかっていてのフォローか。
「ルーは俺と付き合っているよね?」
「そうだね」
「ならなんで縁談が来るの?」
「年頃だから?」
お付き合いイコール婚約ではないけれど、互いにほかにはいないというのならば、貴族同士なら婚約という形を取ってもいい関係ではある。
だけど、ラシェルの過去を思うと、結婚を匂わせるのは負担になるとルーシーは思っていた。だから、縁談の話があることも話していない。
「俺、聞いてないけど?」
「言ってないから」
咎めるような声に罪悪感がもたげるが、自分の考えは変わらない。
苦笑しながら告げた言葉に、ラシェルは眉を跳ね上げる。
「なんで、そんな大事なこと言わないの?」
「受けるつもりはないものだし、言う必要ないかなって」
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