巻き込まれモブは静かに学園を卒業したい【後日談追加】

橋本彩里(Ayari)

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アリスの断罪 *sideラシェル③

 
「俺が間に合わなければルーシーは大怪我をしていたのに?」
「ああー、それはそうですね。ラシェル様ありがとうございます。助かりました。後でルーシーにも一応謝罪しておきます」

 はっ? 一応? この女はどんな感覚をしているのか。
 害しかないとわかっていて、ルーシーに会わせるわけがないだろう。

「ルーシーには会わせない」

 こんな害しかもたらさない意味不明な相手に会わせるわけがないと、さらにその気持ちが強くなる。
 魅了魔法にかかっていたとはいえ、今までのルーシーの献身に対して感謝もなく使い捨てとばかりの言葉に、アリスに対して底についていた評価がさらに下回る。
 しかも、さらに神経を逆なでする言葉をアリスは続ける。

「えっ? そうなんですか? それはどっちでもいいですけど。それよりもラシェル様。前にも話したことがありますが、あなたを救えるのは私だけなんですよ。ラシェル様は遊んでいても女性が嫌いなんでしょう? 大丈夫です。私わかってますし、私がいれば克服できますよ。だから、退学にならないように学園長や殿下に掛け合ってください」
「なぜ? それに俺は救いなど求めていないけど」

 どこまで無神経で自分勝手なのか。それに今の自分にはルーシーがいる。
 彼女のことを考えるだけで、美しい感情ばかりではないが満たされている。全身を包み込むような安心感や、これからの時間を思うと、救いやらとの言葉はずいぶんチープだ。

 そもそも、壊すだけのアリスに何を救えるというのだろうか。
 睨みつけると、アリスが驚愕に目を見開き、次いでものすごく嫌そうに眉を寄せた。

「やっぱりルーシーが何かしたのね。モブのくせに。ねえ、ラシェル様は目を覚ますべきです。私をちゃんと見てください。なんの取り柄もない平凡なあの子より、私のほうが断然可愛いし、能力も高いんですから」
「さすがに俺でも手が出そうだから、それ以上は黙ろうか」

 どうやってラシェルの過去を知ったのか知らないが、そんなことはもうどうでもいい。これ以上、ルーシーを下げるような言葉は聞いていたくない。
 直接手に触れたくないのでハンカチを手に、アリスの口を押さえつける。

「ん、ぐっ」
「しぃー。どういう考えでそうなったのかなんてどうでもいいけど、それ以上ルーシーを貶めるようなことを言ってみろ。光魔法だからとか関係なく、もっと待遇の悪い場所に行けるように俺が動いてやる。そう言えば、俺がサイコやろうと言った時に反応していたよね? もしかしてナサニエルのことも知っている?」

 そう尋ねると、アリスは息苦しさもあってか涙目になりながらそわっと視線を逸らせた。
 どうやってナサニエルのことを知ったのかはわからないが、、無神経なアリスにとってもナサニエルは避けたい相手であるらしい。

「そう。それは良かった。彼に会わせてあげる。しかも無期限でね。男は顔と身分がいいのが好きなアリスならとても気に入ると思う。せいぜい可愛がってもらえばいいよ。嬉しいよね?」

 そのピンクの瞳を侮蔑を込めて見下ろし、にっこり微笑んでおく。
 それから動揺に瞳を揺らしているアリスから、大きく下がって距離を取る。アリスに触れたハンカチは、その辺にあったゴミ箱に捨てる。

 ――少しでも関わるものなんて持っていたくない。

 何を言っても、何を聞いても、アリスとの会話はすっきりしない。
 これ以上関わっても仕方がないが、この先の結末がアリスにとって嫌な場所であったことを確認できたことに少しだけ溜飲を下げる。

 アリスにとっての屈辱は、気に入った男に興味がないと示されることだ。ラシェルも言いたいことを言って、反応も確認できたのでこれ以上の用はない。

「待って。ラシェル様!」

 引き留める言葉も無視し、そのまま振り返りもせずに部屋を出た。
 その直後、ガシャンと何かが割れる音がし、きぃきぃと騒ぐ声がする。

「いや、あそこだけは嫌よ。なんでよ。私、悪くないし、なんでみんな私のことが好きになるはずなのに、どうしてこうなるのよっ」

 扉を閉めても聞こえる声に、どっと疲れる。

「それを理解していないことがヤバいよな。あいつとお似合いだ」

 アリスには届かない声でラシェルぽつりと呟き、その場を後にした。



※ここでプチ情報
アリスはお察しの通り前世で乙女ゲームをしていた人物です。
ナサニエルは裏攻略対象者。特殊エンドでたどり着けるマニア向けの攻略対象者。落とし方がわからないある意味バッドエンドの相手。
顔はいいです。そこそこ地位もあります。
研究オタクで人の機微を魔法なしで読み取ろうとしないので、アリス以上に空気が読めない人です。様々な辱めに遭います。
ラシェルもルーシーのことがあり、この男にアリスを預けるのが一番だと考えているが、結構本気で一番この結末に安堵しているのがアンドリュー殿下です。
なにせ、お相手のフロンティアの魔法が魔法なので、結果的に注意を逸らせたことに喜んでます。

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