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第一部 第一章 ここから始まる物語
ここから始まる物語
しおりを挟むそれは第二の試練。魔の十六歳の壁を越えて安堵したかと思えば例の平民出身のソフィアのご登場から始まった。
これまた姉のマリアの時と同じく試行錯誤と何度かの転生を繰り返し今生に至り、今までずっと十七歳の誕生日を迎えることができないでいた。
ちなみに最後は医療を学び怪我や病気で困っている人の役に立とうと思った矢先、人様の薬が爆発してゴンと頭に瓶が当たったのが最後だった。
ありえない。毎度毎度、記憶の最後も、そして転生して記憶を思い出す時も頭をぶつけている。本当に大丈夫だろうか、私の頭。
それほどまでに、いろいろなものがぶつかってくるのでこれは何かの呪いかと思われた。
私の願いはただひとつ。
今度こそ十七歳を無事迎え、そのまま生を全うしたい。記憶を持っていたい。こんな試行錯誤の人生はこれで終わりにしたい。無駄に長いのだ。
そして、回避のための時間つぶしをやりつくした感があった。
転生するたびに様々なことに手を出した私は、いつの間にか知識も豊富になり貴族の小娘にしてはそれなりにこなせるようになっていた。
可もなく不可もなくなのがいけなかった。努力して時間があれば、それなりのものが身につくのは当たり前。
時は金なり。しっかりと身についてしまった。
それに気づいた時にはもう手遅れで、とにかく実力をひた隠しにすることに、平凡を演じることに力を注いだ。
幸い、容姿は並であるので周囲に溶け込むことは容易かった。美貌の姉がいるのは目立つこともあるが、また隠れ蓑にもなった。
なので、非常にバランス力を問われる努力をしている。能力を隠すための努力。なんて本末転倒なのか。
だけど、目立つことは絶対駄目だ。良くないことくらいわかっている。その能力を発揮する時は万が一家を追い出された時だと決めている。
「一番の幸せはひっそりなのよ、ひっそり」
そう一日三度は口にして、幾星霜。
まず、なぜその能力で人生を謳歌せず苦労をする道を選ぶのか、この世界の説明をしておこう。
この世界には魔法がある。使える者は階級が高い者が多く、十歳の頃から魔力が安定してくる。
一定の基準に満たされた、十四歳、つまり十五歳になる年から王立学園に入ることができる。魔力が開花するのは大体遅くとも十八歳までで、能力の差も個人差がある。
入学するタイミングが違うので、クラスメイトが皆同じ年だとは限らない。
一定の能力以上開花しない者は、十八歳までは一生懸命魔力を高め魔法を磨くことを諦めない。それだけ王立学園に入学することは誇らしいことと認識されている。
なぜ、階級が高い者に魔力保持者が多いかと言えば、ランカスター王家を筆頭にテレゼア家含む今ある貴族の先祖がこの国を作ったからである。
そのため、必然的に能力や性質を引き継いだ子孫が魔法を使えることが多い。
平民からもごくたまに高い能力を持つ者は出るが、やはりたまにであった。そして、一定の魔力を持った者は必ず王立学園に入学しなければならない。
この国は、王家と貴族の魔法によって周辺諸国から守られている。だから、早めに高い能力者は管理され、国の為に尽くすノウハウを学ぶ。
魔法が使えることがこの国では絶対的なステータスであり、ほとんどの高い魔力保持者は王立学園出身者である。
そして、ここからが重要。
この国の女性たち誰もが目をハートにさせる容姿と身分に能力と三拍子揃った者たちがいる。ちなみに私は性格や容姿などの詳しい情報は知らない。
現王の子 第一王子 魔法属性水
シモン・ランカスター
現王弟の子 第二王子 魔法属性火
サミュエル・ランカスター
現王兄の子 第三王子 魔法属性風
ルイ・ランカスター
現王の子 第四王子(双子兄)魔法属性土
ジャック・ランカスター
現王の子 第五王子(双子弟)魔法属性緑
エドガー・ランカスター
この国は特殊で、国王は必ずしも王の長子がなるのではなく、王家の血筋で一番相応しい者がなる。王国ならではの王選定方法に従い、現王兄弟の子も含め年齢順に成人すれば相続権がある。
その選定法は公にされてはいないが、開国から少なくとも民を巻き込む争いなどなくスムーズに決まっている。現王は三兄弟の真ん中がなっている。
王を出したその兄弟の子らも平等に次期国王となる権利が与えられる。生まれの早い順から第一、第二、第三王子は同じ年であり、私とも同じ年である。
これは私にとって残念な情報だ。そして、第四、第五の双子王子は四歳下。
なので、必然と彼らと歳が近いご令嬢は躍起になって玉の輿を狙いにいくことになる。
そして、公表されている彼らの魔法属性。王族だけで見事に主な属性をそれぞれ所持していた。ただ、何も魔法の属性は一人ひとつとは限らないので、ほかにも持っている可能性もある。
ちなみに私も風と水、少しだけ緑を使いこなすことはできる。これは転生を繰り返し努力した産物である。
緑とは、昔は木と言われていたようだけれど、いつの間にか癒やしの力という意味で緑となったようだ。
魔法は変化していく。現在では派生して氷だとかもあるし、父親のテレゼア公爵は水属性の氷使いであった。ほかにも、たまに雷などのまれな属性が生まれてくるらしい。
そして、噂の範囲であるが王族の中の一人が珍しい光の属性を持っていると言われている。これはキーポイントと言えよう。
見事に王家だけで強力な様々な魔法の力を所持し、国家設立してから最大の力と言われる現王国ランカスター。
当然、光があれば闇もある。巨大な力を持てばそれに惹かれる者と潰そうという者が現れる。
ここがゲーム内の世界であれば、そういった展開も予想されてますます彼らに関わるのはごめんこうむりたい。
そういう訳で、王立学園に入らないためにも魔力がそこそこあることを隠し、目立たず十七歳を迎えることが必要条件なのだ。
一応、私は公爵令家の者なので魔力がないとするのも不自然で、今生では魔力をコントロールして基準を超えない手前を維持していた。
今までの生では王子たちに関わるまでに、シスコンのマリアと平民のソフィアの彼女を回避努力中の先で、十七歳になるまでに生は終わっていた。
その人生の中で彼らと関わったことはない。不思議とういか、関わらないことに注意を払い、マリアたちのことに集中していたこともあって、王子たちを遠目にでも見たことがない。
やっぱり私はモブだ。
そう確信していたのでこの先も関わらないはずで、王立学園で出会うソフィアさえ回避できれば良いはずだった。そして、私自身が学園にさえ行かなければ彼女と関わることもない。
今まではコントロールがうまくいかず魔力が露見して入学することになってしまっていたけれど、現在はもうすぐ十四歳を迎える十三歳。今のところ、平凡だと周囲に認識されている。
本当に頑張ってるよ~。自画自賛である。今までで一番平穏だ。
ふはふはしそうであるが、まだまだ予断は許されない。そう引き締めていたのに。
──なのに、物語はここからだなんて。
意識を取り戻した私はあまりのことに腕を曲げて視界を遮るように顔を覆い、現実放棄を試みた。
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