高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
31 / 81
1-something quite unexpected-

31私の知らない高塚くん⑥

しおりを挟む
 
 断片的に聞こる声。

「……なに?」
『…………』
「ああー、わかった。これから用事あるから少ししたら行く」

 だるそうに話す声。声は似ているけれど、さっきの荒っぽいのもこんなトーンは聞いたことはないから、やっぱり違う人なのか。

『…………………………』
「そんなの知らないし。あんたに言われたくないんだけど」
『…………』
「興味ない」

 相手が何か言っていて、溜め息をついた後、男は返した。ぶっきらぼうだが、さっきまでの苛立ちは若干薄れているようだ。
 何度か応答を繰り返し、どうしてそんな会話になったのかわからないが男が言い切った。

『…………………………』
「好きな女なんていない」

 ドキッとした。
 ここ最近、そういうことに過敏になっているので、他人のその言葉にも敏感に反応する。もう、ヤダ。

 後ろにいる男性は、あくまでさっきの会話からの推察だが、いろんな大人の女性と関係があるような人だ。好きとか関係なくそういう行為ができるのだろう。
 それが悪いとは言わない。お互い納得しているなら、他人がとやかくいうことではない。

『…………』
「俺のことは放っておいて」
『…………』
「だとしても、関係ない」
『………』
「はぁ? 想像すんなよ。いないっっつったよな?」
『………』
「何がだよ」
『…………………』
「……ああ」

 相手にからかわれてるのか、苛立たしそうに応答している。やっぱり声が似ている。だから、声が聞こえるたびに高塚くんのことが浮かぶ。
 柱の向こう側の男のように、好きでもなくヤレる人もいるのだから、好きでもないのに構うことなんて簡単なことなのだろう。

 さっきの女性とも、気分が乗ればっていう感じだったのかな。少なくとも、押せばたまに乗ってくれると思うような行動を普段からしているのだろう。
 まるで恋愛ゲームのように。そういうことを楽しむ人もいるって聞いたことあるし。
 人によっては、スポーツと変わらないという人もいると聞いたことがあるし。

 私を探していたって高塚くんは言ったけど、それは好意ではなくて、なんとなくからかってやろうっていう可能性だってあるわけで。それにしては手間暇かけてるなとは思うけど、そう思う方が納得だ。
 いまだに、どこで出会ったかも莉乃は思い出せないから、高塚くんがたまたま見かけてただ適当に気が乗ったから絡みに来たという可能性もあるだろうし。

 そこまで考えて、気持ちが重くなった。なんだか、すごく疲れる。

 早く迎えが来ないかなっとスマホを確認した時に、ちょうど、ピロン、と着いたよとのメールが来たので、莉乃はそこを離れた。
 その際にどうしても気になって、後ろの人に気づかれないようにそっと相手を見る。

「………っ!!」

 声を聞いた時からずっと予感はあった。でも、そうじゃないといいなって思ってた。
 スマホを耳に当てて話しているのは高塚くん。

 センって呼ばれて、当然休日なのでいつもの制服ではない私服で。パンツ姿にシャツとシンプルないでたちだけど、明らかに上等だとわかるもので。
 髪を上げてセットしていて、いつもより大人っぽい姿。

 莉乃の知らない高塚くん。

 今も駅の方を見ながら話しているので、こっちに気づいていない。気づかれないように、莉乃は視線を外し足早にその場を離れた。

「りぃちゃん。こっち」

 歩道に出ると、自分を呼ぶ声。

拓真たくまくん!!」

 懐かしさが勝る彼の姿にひどくほっとする。
 高塚くんに振り回される前の自分に戻ったようで、少しでもこの場を離れたくて慌てて駆け寄る。

「本当に迎えにきてくれたんだ。車買ったの?」
「そう。就職と同時にね。俺のお姫様迎えに行くのに電車とか歩きとか格好つかないしね」
「もうっ!! 相変わらず口が上手い」
「ひどいな。本気なのに。迎えにきて正解。こんなに可愛くなってるし」

 そういって、ぽんぽんと莉乃の頭を撫でると、そっと前髪を整えるように触ってくる。
 四年前は莉乃は中学生だ。そのころでも十分大人だと思っていたけれど、今も拓真くんは莉乃にとって大人だ。
 兄と同じ年なのに、会わない時間があった分、一気に距離が開いたような気もする。

「髪、短くしたんだね。似合ってる」
「ありがとう。拓真くんは格好よくなったね。ぐうたら兄に見習ってほしいくらい」
「あいつは家では甘えてるんだろ? りぃちゃん家は居心地いいからな。ほら、乗ってください。お姫様」

 助手席を開け、左手を差し伸べられる。軽くウインクしながらのそれは、ちょっとした戯言だ。

「ありがとう」

 右手を乗せると、笑いながらゆっくりと車の中へ促される。

 久しぶりだから距離を感じさせないようにとの気遣いに、乗りが良くて優しい兄の親友に女性扱いされて、くすぐったくておかしくて莉乃は笑う。
 一気に時間が巻き戻ったようだ。
 なんだか本当にほっとして自然と笑みが溢れたのを見た拓真くんが、よしよしとばかりにぽんぽんと莉乃の頭を優しく叩いた。

「りぃちゃん、ほんとあいつの妹とか信じられないくらい可愛いな。ちなみにこの車に助手席人が乗るの初めてだから心から堪能するように」
「うわっ。そんな貴重な。でももう座ったしお言葉に甘えて堪能させていただきます」
「では、行こうか」

 扉をバタンと閉めると、運転席に回った拓真くんが慣れたハンドルさばきで車を走らせた。
 エンジン音とともに視界が動く。
 駅から離れられることに、高塚くんから今離れられることに、ほっとする。今は何も考えたくなかった。

 莉乃の後ろ姿を、二人のやりとりを、莉乃が乗り去っていくその車を、高塚くんが凍ったような目でじっと見ていたことを莉乃は知らなかった。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

セーブポイントに設定された幸薄令嬢は、英雄騎士様にいつの間にか執着されています。

待鳥園子
恋愛
オブライエン侯爵令嬢レティシアは城中にある洋服箪笥の中で、悲しみに暮れて隠れるように泣いていた。 箪笥の扉をいきなり開けたのは、冒険者のパーティの三人。彼らはレティシアが自分たちの『セーブポイント』に設定されているため、自分たちがSSランクへ昇級するまでは夜に一度会いに行きたいと頼む。 落ち込むしかない状況の気晴らしにと、戸惑いながらも彼らの要望を受け入れることにしたレティシアは、やがて三人の中の一人で心優しい聖騎士イーサンに惹かれるようになる。 侯爵家の血を繋ぐためには冒険者の彼とは結婚出来ないために遠ざけて諦めようとすると、イーサンはレティシアへの執着心を剥き出しにするようになって!? 幼い頃から幸が薄い人生を歩んできた貴族令嬢が、スパダリ過ぎる聖騎士に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~

浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

元大魔導師、前世の教え子と歳の差婚をする 〜歳上になった元教え子が私への初恋を拗らせていた〜

岡崎マサムネ
恋愛
アイシャがかつて赤の大魔導師と呼ばれていた前世を思い出したのは、結婚式の当日だった。 まだ6歳ながら、神託に従い結婚することになったアイシャ。その結婚相手は、当代の大魔導師でありながら禁術に手を出して謹慎中の男、ノア。 彼は前世のアイシャの教え子でもあったのだが、どうやら初恋を拗らせまくって禁忌の蘇生術にまで手を出したようで…? え? 生き返らせようとしたのは前世の私? これは前世がバレたら、マズいことになるのでは……? 元教え子を更生させようと奮闘するちょっぴりズレた少女アイシャと、初恋相手をもはや神格化し始めた執着男ノアとの、歳の差あり、ほのぼのありのファンタジーラブコメ! ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

処理中です...