「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)

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義弟④

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 そういうことを何度か繰り返していたある日。
 うなされていたイーサンの手を握り彼が眠るのを見守っていたのだけど、なかなか私の手を離さないのでぐっすり寝付くのを待っている間に、自分の眠気に負けてそのまま寝落ちしてしまった。
 朝、外からの光を感じ自然と目を開けると、上半身をベッドに預けた状態で毛布をかけられ、横になりながらじっと私の顔を眺めているイーサンと間近で目が合い声を上げる。
 
「……んっ、えっ? うわっ」
「おはよう。ミラ」
「あ、うん。おはよう」

 普通に挨拶をされたので条件反射で返したけれど、イーサンから声をかけられることは初めてだった。
 驚きで琥珀色の瞳をいっぱいに開いた私の顔がイーサンの瞳に映り込む。
 しかも、まだ手は握ったままであるし、一緒に寝てしまうという失敗を犯した私は慌てて身体を起こした。

 ささっと変な寝癖がついていないか、自由の利くほうの手で肩下まである赤茶色の髪を直した。
 もともとウェーブがかかっているので多少のことは誤魔化せるとは思うのだけど、寝顔も見られていたのでこれ以上の醜態は姉として避けておきたい。

 寝落ちしてしまったこと、本人が知らない間に部屋に勝手に侵入しそれがバレたことをどう考えたらいいのか、寝起きのせいか思考がまとまらない。
 起こさずじっと私の顔を眺めていたイーサン。しかも、その表情に嫌悪はなく、なぜかひどく穏やかに見えたことも混乱に拍車をかける。
 何度か手ぐしで髪を整えたところでようやく思考が働き、手を繋いだままなのはまずいのではと気づく。

「あっ、ごめん」

 慌てて適切な距離を取ろうと手を引こうとすると、それはイーサンにぎゅっと掴み返され引き留められる。
 まだ線は細いけれど力の強さは男の子なんだなと妙な感心を覚えながら、同じように身体を起こしたイーサンを私はまじまじと見た。
 イーサンは読めない表情でじっと私を観察し、探るような口調で私に尋ねた。

「ミラがいつも手を握ってくれていた?」
「……うん。その、ごめんね」

 事実を確認されただけなのだけど、せっかく話しかけてくれているのにまともな反応ができない。
 こういう事態になることを想像していたわけではないけれど、この反応は私が思うイーサンの反応とは違って驚きを隠せない。

 とっても冷静な対応に、イーサンがどう思うかは別にして、私なりの理由はあって悪いことをしていたつもりはないのだけどこちらがあわあわしてしまう。

「ふふっ。なんで謝るの?」
「だって、イーサンは距離が近いのは苦手でしょ?」

 情報の処理についていけず瞬きの回数を多くしながら答える私に、イーサンはちょこっと口の端を上げた。

「そうだけど……。話しにくいから、ここに一緒に座ってほしい」
「あ、うん」

 私は言われたとおりにベッドに上がり、向き合うように座った。

「これでいい?」
「うん。ありがとう」

 そこでイーサンはちらりと視線を繋いだ手にやって、今度はふわりと笑う。
 私はその姿に目を奪われた。穏やかで自然な笑みに、ああ、笑った。笑ってくれたと、胸が熱くなる。

 握り返された手を見ていると、さらにイーサンがその手に力を込めてくる。私は視線をイーサンに戻し、反応をつぶさに観察するようじっと見つめた。
 互いに相手が何を考えているのかと視線が交差する。

「イーサンは私が怖くない?」
「うん。怖くないよ」

 朝の光で髪の金の部分が淡く光る。
 こくりと頷いたイーサンの髪がふわふわと揺れ、薄いブルーグレーの瞳が光りの加減で鈍くも透明感も感じられる不思議な色味を醸し出す。
 まっすぐに見つめられながらも覗うようわずかに上目遣いなのがイーサンらしくて、私はその手を握り返した。

「近くにいても大丈夫?」
「うん。むしろミラが近くにいると安心する」

 何度も私の名を口にし、にこにこと笑みを浮かべるイーサンの姿を見ていると、こみ上げるものがあった。
 実際に、私は堪えきれずに涙が滲み出る。視界が一気に悪くなった。

「そっか」
「なんで、ミラが泣くの?」
「だって、イーサンが安心するって。それってここが自分の居場所だとイーサンが認めてくれたってことだと思うから」

 よりどころがないというのは、とても不安だと思うのだ。
 せっかく家族になったのだから、私たちが家族だと思っているということをわかってほしかった。

 それが伝わった、受け入れてくれたと思える反応は、最初の頃の様子を知っているから余計に胸の奥底から熱いものこみ上げ、自分でもどうしようもないほど感情が高ぶった。
 私は眦に涙を溜めながらも笑みを浮かべることを止められない。

「ミラは僕を傷つけない。伯爵家の人たちもずっと優しかった。本当はまだちょっと怖いけど、ミラがずっと僕に話かけてくれてこうして手を握って見守ってくれていたから、ほかの人たちとは違うって信じてみようと思って」
「うん」

 『信じる』の言葉に溜まっていた涙がぽろりと流れ、それを機にまたぽろぽろと零れ落ちた。
 大したことをしてきたつもりも、できてもいない。けれど、ずっと気にかけてきた相手に気持ちが届いたこと、受け止めてくれたこと、それがとても嬉しかった。

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