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試みと自覚
恋人としての自覚①
「どうされたのですか?」
王都にいるはずのアンドリューの姿に驚き疑問をそのまま口にすると、王子は端整な顔にさらに笑みを刻んだ。
「第一声がそれか」
「あっ、お久しぶりです」
「やり直し」
会って早々ダメ出しをくらってしまった。
「えっ? あ~とすみません。まずは、こんにちはですね。こんにちは!」
「却下」
にこりと笑顔で基本の挨拶とばかりに言い直したのに、速攻却下された。
ええーっ!?
正解を出すまで譲らないよと口の端をさらに上げたアンドリューに、私は眉尻を下げる。
「はるばるお越しいただきありがとうございます」
「……はぁ~」
「ダメでした?」
「ああ」
アンドリューはいったい何を求めているのか?
ぺこりと頭を下げて相手の目を見て、正解だろうと思ったのに溜め息をつかれた。
挨拶も駄目、労いも駄目となれば、何を言っていいのかわからない。
うむむっと口を引き結び考えている横で、隊長は肩を竦めるような仕草をした。
なぬ? 隊長のほうがわかっていると?
えっ? それはちょっと悔しいというか情けないというか。アンドリューと隊長を交互に視線をやり考えてみるけれどわからない。
ギブですと首を傾げると、王子も肩を竦めた。
隊長も、やれやれとふっと息を吐き出す仕草をする始末。
ええぇー! ちょっと呆れられたような態度にショックを受ける。
王子と隊長は視線(?)を合わせ、また同時に肩を竦めた。隊長にいたっては肩なんてないのになんでそう見えるのか。
手かな? 手の動きが細やかだからかな。本当、表現が豊かすぎやしないだろうか。
今みたいにときおり王子と隊長は気が合うような仕草を見せることがあって、そういうときは大抵私に関わることなので複雑極まりない。
実際に彼らのやり取りはいつもテンポが良いので、相性はいいのだろう。
聡いもの同士というか。……なんだろう、そうすると自分は違うと言われているようでやっぱり悔しい。
密かにもんもんとしていると、私の扱いに慣れたアンドリューが妥協案を提示してくる。
「そうだな。ヒントをあげよう。俺とティアの関係は?」
「婚約者です」
「そうだ。それがわかっているのにこの態度。いいか、ティア。俺たちは婚約者であり恋人だ。だったら、久しぶりに会った恋人に言うことがあるだろう?」
恋人と二回言葉にされ、さすがにアンドリューの言わんとすることを理解した。
これはあれですね。恋人としての態度を見せろということだ。
だけど、わかったところで難問。甘えるような言葉とか、改めて言うのは恥ずかしすぎる。
しかし言わないと始まらず、私は頬を熱くさせながら、ぽそぽそと早口で告げた。
「……会いたかったです?」
「まあ、いいだろう」
なんとか絞りだした言葉は照れくさくもあって疑問系になってしまったけれど、王子の来訪に驚きつつも顔を見るとやっぱり嬉しいので嘘ではない。
それが伝わったのか、ギリギリ承諾をもらえほっとする。仕方なしの合格といった感じではあるが、何度も言い直させられるよりはいい。
そこで、流れを変えるように最初の質問に戻る。
会えたのはいいのだけど、そもそも王子が伯爵領にいること自体おかしい。
「それで、急にどうされたのですか?」
「帰省するのはいいが、ティアはどれだけ伯爵領にこもるつもりなんだ?」
にこっと優雅な微笑を振りまかれ、こきゅんと喉が鳴った。
爽やかであればあるほど、きらきらであればあるほど、その腹の内は? と気になってくる完璧な笑顔である。
碧色の瞳を細め、出会い当初より伸びたプラチナブロンドの髪が頬にさらりとかかる。
久しぶりに見るアンドリューはやはり格好良かった。その王子がさらに目を細め、何か思うことはないのかと問うてきた。
「あっ」
思わず声が漏れてしまったので慌てて口を閉じ、えへっと笑って誤魔化す。
伯爵領に帰省してから始めは羞恥のため、敢えて考えることを避けていたけれど、その後は試作品作りに熱中していたため、学園には連絡を入れたけれどアンドリューに連絡するのを忘れていた。
報告は入っているだろうけれど、さすがに恋人兼婚約者としてはまずいのではないだろうかと今更ながら思う。
「気づいたようだな。報告に上がっているとしても、直接連絡してくれてもいいはずだ。無事であること、楽しくやっていることはわかっていても、ぜひともティアの口から教えてほしかった」
「すみません」
言外に待っていたと言われ、しゅんと項垂れる。
帰省するにあたり便宜を図ってくれていたにもかかわらず、自分の行いは不義理であった。
あんな別れ方をしたとしても、一言お礼の連絡くらいは入れておいても良かったはずだ。
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