17 / 66
第17話 醜い魚
しおりを挟む
テーマ水槽と言われる小さな水槽の前で、小梢は立ち止まり、水槽の中の魚を見つめている。
時折見せている悲し気な目で、小梢は水槽の中の魚を見つめていた……。
エゾイソアイナメ、通称『どんこ』と呼ばれる魚だ。ちょっと愛嬌のある顔をしている。
「あれ~、『どんこ』だ。久しぶりに見たよ、田舎の水族館にもいたんだ」
中学一年の時に行った田舎の水族館、そこで一番印象に残っているのは『どんこ』だった。
「醜い顔……」
小梢がちいさく呟く。
その時、僕は田舎の水族館での出来事を思い出した。
……あれは……。
デブだブスだと虐められていた女の子……。名前は……、そうだ、たしか『土門』と言ったっけ。土門……何々子、下の名前は知らなかったけど、遠足で訪れた水族館で『どんこ』『どんこ』とからかわれていた。
土門何々子を略して『どんこ』、醜い顔の魚に例えて水槽の前で苛めっ子の男子にからかわれて泣きそうだった、あの子。
僕は、見かねて『愛嬌のある顔だよ。食べると美味しいんだ』とか、フォローになってないけど庇ったんだ……。
「醜くなんかないよ。愛嬌のある顔だ」
あの日と同じことを僕は言った。
小梢は、大きな目を更に大きくして僕を見つめる。
「圭君らしい言い方だね。醜くても優しい……でも、『どんこ』より熱帯魚を、人は好むよ」
まただ……。小梢が時折見せる悲し気な目に、僕は不安になる。いつか、小梢が僕の元からいなくなるのではないかと。
「観賞用と食用じゃ、役割が違うよ。ちゃんと魚なりに役割があるんだよ」
と、またしても僕は意味不明のフォローをしてしまう。
「そうだね 笑」
小梢は笑ったが、弱々しい笑顔だった。
水族館を出て、僕たちは江の島の方へ向かう。
「うわ~、富士山があんなに大きく見える」
国道と江の島を結ぶ歩道橋を歩きながら、右手に見える大きな富士山を指さした。
「ほんとだ、凄い大きく見える。頭の方にはまだ雪があるね」
歩道橋で立ち止まり、僕たちは大きく見える富士山をバックに写真を撮った。
いつものように小梢が撮って僕に送る。
こうやって撮った写真が僕のスマホに蓄積されていく。
(今日、本物の恋人になって、これからも、もっともっとアルバムを増やしていくんだ)
僕は決意を新たにした。
江の島に渡ると、江の島神社の入り口は観光客でごった返していた。
「す、すごい人出だね……」
有料のエスカレーターで上の神社まで行けるのだが、そこも長蛇の列になっている。
「待っている間に、歩いて行けば上に行けるよ。歩いて行こう」
小梢はそう言ったが、彼女は服装に合わせてパンプスを履いている。上までかなり階段を上らなきゃいけないが大丈夫だろうか?
「大丈夫かな? 歩ける?」ちょっと心配な僕。
「大丈夫だよ。わたしたち若いんだから、歩こう」
そう言うと、小梢は僕の手を握り階段を上り始めた。
こうやって、さりげなく手を握れることが、僕は嬉しかった。
思わず、小梢の手を強く握ってしまう。
小梢も、応えるかのように握っている手に力を込めた……。
江の島神社でお参りを済ませ、僕たちは展望タワーへと登った。
そこの入り口でもやはり長蛇の列で待たされたが、待った甲斐のある素晴らしい景色だった。
湘南の海岸や、富士山、ランドマークタワーまで見渡せる景色は絶景そのものだった。
もし、ここから夜景を見れたら、どんなにロマンチックだろうと思えた。
(も、もし……、小梢とずっと付き合えて、そして結婚を意識するようになったら、ここで夜景を見ながらプロポーズしよう)
などと、まだ見ぬ未来のことまで考えていた。正式な恋人にもなっていないのに。
「圭君、どうかしたの?」
「ん? なにが?」
「なんだか、さっきからニヤニヤしてる 笑」
「あ、あはは、いや、あまりにも景色が良いので、つい嬉しくて」
「(このタイミングで告白しても良かったかな、今ならスラスラと言えそうだ)
こんな高い所から海を見渡せるなんて、田舎にいたときは考えもしなかったんだ」
不意に小梢が腕を絡めてきて、頭を僕の肩に預ける。
「わたし、今日の事、一生忘れないと思う。ありがとう圭君」
礼を言うのは僕の方だ。小梢のようなS級美少女が、こうして僕の隣にいてくれる。
それにしても、一生忘れないなんて大げさな……と、またしても不安がよぎってきた。
これじゃあ、まるで僕とはもう会えないかのような言い方だ。
でも、僕にとってもこんな幸せは、生まれてきて一番のものだ。
「僕こそ、今日の事は忘れないよ……。僕こそ、ありがとう。小梢」
僕も首を傾けて、僕の肩に寄り添っている小梢の頭に頬ずりした。
嗅ぎなれている小梢のシャンプーの匂いが、するはずのない潮の香りと交わったような気がした。
ああ……、小梢が好きだ。
時折見せている悲し気な目で、小梢は水槽の中の魚を見つめていた……。
エゾイソアイナメ、通称『どんこ』と呼ばれる魚だ。ちょっと愛嬌のある顔をしている。
「あれ~、『どんこ』だ。久しぶりに見たよ、田舎の水族館にもいたんだ」
中学一年の時に行った田舎の水族館、そこで一番印象に残っているのは『どんこ』だった。
「醜い顔……」
小梢がちいさく呟く。
その時、僕は田舎の水族館での出来事を思い出した。
……あれは……。
デブだブスだと虐められていた女の子……。名前は……、そうだ、たしか『土門』と言ったっけ。土門……何々子、下の名前は知らなかったけど、遠足で訪れた水族館で『どんこ』『どんこ』とからかわれていた。
土門何々子を略して『どんこ』、醜い顔の魚に例えて水槽の前で苛めっ子の男子にからかわれて泣きそうだった、あの子。
僕は、見かねて『愛嬌のある顔だよ。食べると美味しいんだ』とか、フォローになってないけど庇ったんだ……。
「醜くなんかないよ。愛嬌のある顔だ」
あの日と同じことを僕は言った。
小梢は、大きな目を更に大きくして僕を見つめる。
「圭君らしい言い方だね。醜くても優しい……でも、『どんこ』より熱帯魚を、人は好むよ」
まただ……。小梢が時折見せる悲し気な目に、僕は不安になる。いつか、小梢が僕の元からいなくなるのではないかと。
「観賞用と食用じゃ、役割が違うよ。ちゃんと魚なりに役割があるんだよ」
と、またしても僕は意味不明のフォローをしてしまう。
「そうだね 笑」
小梢は笑ったが、弱々しい笑顔だった。
水族館を出て、僕たちは江の島の方へ向かう。
「うわ~、富士山があんなに大きく見える」
国道と江の島を結ぶ歩道橋を歩きながら、右手に見える大きな富士山を指さした。
「ほんとだ、凄い大きく見える。頭の方にはまだ雪があるね」
歩道橋で立ち止まり、僕たちは大きく見える富士山をバックに写真を撮った。
いつものように小梢が撮って僕に送る。
こうやって撮った写真が僕のスマホに蓄積されていく。
(今日、本物の恋人になって、これからも、もっともっとアルバムを増やしていくんだ)
僕は決意を新たにした。
江の島に渡ると、江の島神社の入り口は観光客でごった返していた。
「す、すごい人出だね……」
有料のエスカレーターで上の神社まで行けるのだが、そこも長蛇の列になっている。
「待っている間に、歩いて行けば上に行けるよ。歩いて行こう」
小梢はそう言ったが、彼女は服装に合わせてパンプスを履いている。上までかなり階段を上らなきゃいけないが大丈夫だろうか?
「大丈夫かな? 歩ける?」ちょっと心配な僕。
「大丈夫だよ。わたしたち若いんだから、歩こう」
そう言うと、小梢は僕の手を握り階段を上り始めた。
こうやって、さりげなく手を握れることが、僕は嬉しかった。
思わず、小梢の手を強く握ってしまう。
小梢も、応えるかのように握っている手に力を込めた……。
江の島神社でお参りを済ませ、僕たちは展望タワーへと登った。
そこの入り口でもやはり長蛇の列で待たされたが、待った甲斐のある素晴らしい景色だった。
湘南の海岸や、富士山、ランドマークタワーまで見渡せる景色は絶景そのものだった。
もし、ここから夜景を見れたら、どんなにロマンチックだろうと思えた。
(も、もし……、小梢とずっと付き合えて、そして結婚を意識するようになったら、ここで夜景を見ながらプロポーズしよう)
などと、まだ見ぬ未来のことまで考えていた。正式な恋人にもなっていないのに。
「圭君、どうかしたの?」
「ん? なにが?」
「なんだか、さっきからニヤニヤしてる 笑」
「あ、あはは、いや、あまりにも景色が良いので、つい嬉しくて」
「(このタイミングで告白しても良かったかな、今ならスラスラと言えそうだ)
こんな高い所から海を見渡せるなんて、田舎にいたときは考えもしなかったんだ」
不意に小梢が腕を絡めてきて、頭を僕の肩に預ける。
「わたし、今日の事、一生忘れないと思う。ありがとう圭君」
礼を言うのは僕の方だ。小梢のようなS級美少女が、こうして僕の隣にいてくれる。
それにしても、一生忘れないなんて大げさな……と、またしても不安がよぎってきた。
これじゃあ、まるで僕とはもう会えないかのような言い方だ。
でも、僕にとってもこんな幸せは、生まれてきて一番のものだ。
「僕こそ、今日の事は忘れないよ……。僕こそ、ありがとう。小梢」
僕も首を傾けて、僕の肩に寄り添っている小梢の頭に頬ずりした。
嗅ぎなれている小梢のシャンプーの匂いが、するはずのない潮の香りと交わったような気がした。
ああ……、小梢が好きだ。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる