不倫研究サークル ~大学生編~

むかいぬこ

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第18話 波音に消えかけた返事

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「痛っ~」

展望台を降り、江の島神社の下まで階段を降りようとしたのだが、案の定、小梢が靴擦れを起こし、かがみこんでしまった。

靴を脱ぐと、かかとが赤く腫れあがっている。

「ありゃ~、これは痛そうだね……。そうだ!」

僕は、カバンの中に持ち歩いている絆創膏を取り出した。

「小梢、ちょっと僕の肩に掴まって」

僕はしゃがみ、小梢のかかとに絆創膏を貼った。小梢はバランスを保ちながら、僕の肩に掴まる。

小梢の足は、白く細くて華奢な感じだった。いつまでもこの足に触っていたい……。よこしまな感情が沸き上がるのを必死で抑え込む。

本番は、この後だ。
今日一番の重要なミッション、それを遂行しなければ……。

「これでどうかな?」

小梢は、僕に掴まったまま、脱いでいた靴を履くと、その場でトントンと足踏みして見せた。

「うん、大丈夫そう。ありがとう圭君」

(よし! これで益々僕のポイントは上がったぞ!)

早く下に下りたいと気持ちが逸った。



 
長い階段を降り、江の島神社の参道を出ると、浜焼きのお店が良い匂いをさせている。

辺りはすっかり日が傾き、あと少しで夕陽の時間帯になるだろう。
僕は、そこで正式な交際を申し込むつもりだった。

「ねえ、圭君。サザエを食べない?」

さっきから、サザエだハマグリだイカだと、海鮮焼きの良い匂いがお腹をくすぐっていた。僕も食べたいと思っていたので、二つ返事で「OK」と言う。

「わたし、ビール飲んじゃおうかな? 圭君は?」

意外だった。小梢がお酒を飲むなんて想像できない。

「あ、いや、僕は一缶は飲めないから……」
「じゃあ、二人で半分こしよ。わたしもそんなに飲めないから」


注文したサザエのつぼ焼きとビールを目の前に、僕たちは固まってしまう。

「うは~~、これは美味そうだ」

「ヨダレが出ちゃうよ~」
心なしか小梢の目がハート型になっているような気がする。
潮と炭の美味しそうな匂いに食欲をそそられ、二人でヨダレを零した。


プシューー!

小梢がビールのプルタブを開けると勢いの良い音が鳴った。

「圭君、先にどうぞ」と小梢が差し出したが、実は僕はビールを飲んだことがない。

「あ、いや、小梢が先にどうぞ」と手のひらを小梢の方へ向ける。

「じゃあ、いただくね」
そう言うと、小梢は喉を鳴らしながらビールを流し込んだ。


「くは~~、この一杯がたまらないね~~
はい、圭君」

と、小梢は缶ビールを僕に差し出した。


「(こ、これは、もしや……、関節キスでは?)
で、では、いただきます」

自分でも声が震えているのが分かる。こ、小梢と関節キス……。
僕は缶ビールに口をつけ、小梢同様に喉の奥に炭酸を流し込んだ。が……。

「ぐほっ! 苦い!」と、むせてしまう。

「圭君、大丈夫? もしかしてビールって初めてだった?」
「あはは、じ、じつは初めて」

「ウフフ、圭君って可愛いね」

笑いながら言う小梢に、またしても違和感を感じてしまう。まるで菜美恵が僕に言うような言い方だ。それに、飲みなれている感じもした。

僕が抱いている小梢像とは違った一面だ。


それにしても、少し顔を赤くした小梢も可愛い。思わず見とれてしまう。

「ん? どうかした、圭君」

すっかり夕陽の時間帯になり、街灯は灯をともしていた。
いよいよ、今日のメインイベントだ……。

「これを食べたら、海の方へ行ってみない?」
「そうだね、そろそろ日も沈むかな?」

海風が心地よい時間帯になり、雰囲気は抜群だ。
海岸の方は芝生の広場があり、その先にベンチもある。


僕たちは海岸の方へ移動した。
対岸の街の明かり灯りが波に揺れていて、何とも幻想的だった。

幸いにもベンチには他に人がいない。
僕たちはそこへ座り、波の音を聞いていた。


微かに聞こえる波の音は、カフェで流れるBGMのように僕たちを包み込む。
その波の音を、僕たちは黙って聞いていた。


そろそろ、頃合いだ!

僕は意を結する。


「あの……、小梢……」

「ん?」

潮風に小梢の黒髪がなびく。手で押さえながら小梢が振り向いた。
出会った時の、大きくて黒くて、深い瞳が僕を見つめていた。

この大事な場面で、僕の頭の中には疑問符がぐるぐると回っていた。


……きっと、小梢が現れたのは、偶然じゃない

……どうして小梢は僕の前に現れたのだろう?

……どうして、こんなにも小梢の事が好きになったのだろう?

……もし、フラれたら?


そして、この期に及んで僕は弱気になる。


「なに? 圭君」

じっと、大きな瞳で、小梢は僕を見つめる。


不意にドキドキが治まり落ち着けたのは、さっきまで回っていた疑問符・・・が、なんとなく答えを見つけてしまった気がしたからだ。


  きっと、小梢は何か嘘をついている。


そして今、小梢の瞳には悲しい色が宿っていた。
これまでにも何度か見せた、寂しげな表情。そんな時、小梢の瞳には悲しい色が宿っていた。

でも、今更やめられない。


「僕と、正式に恋人になってくれないかな?
小梢の事が好きになったんだ」



小梢の瞳は悲しい色のまま、今度は潤みを含んでいた。





「ごめんなさい……」


微かに聞こえていた波の音が、急に大きくなった気がしたのは、
小梢の返事が波の音に紛れて、ようやく聞き取れるほど、か細かったからだ。




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