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第42話 高嶺すぎる花

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「宮下社長、入力が終わりました」

愛莉が、パラメーターの入力を終えたみたいで、綾乃に声をかける。


「早かったのね。ちょっと待ってね、チェックするから」
綾乃のチェックが入る。

「ええ、問題なさそうね。このまま登録するから、川本さんはアプリをインストールして」

「川本さん、そのノートパソコンにQRコードがあるんです。そこからインストール先のURLにたどり着けます」

僕も以前、経験しているので愛莉に方法を教える。

「インストールできた? インストールしたら、こっちにきてくれる?」

愛莉は、言われた通り、綾乃のデスクの方へと向かう。

「これがあなたのアカウントと初期パスワード、初回ログインしたらパスワードを変えて」

綾乃は愛莉にメモを渡すと、また自分のパソコンへと向き直った。

「どう? アプリにログインできた?」パソコンに目を向けたまま、綾乃は言った。

「はい、できました」

「もうあなたのデータは登録されているから、生徒からは見えるようになっています。
あなたの事を気に入った生徒がいれば、ブックマークがつくから、何人が注目しているか分かるようになっているわ」


「ここなんだけど……、うわ! 凄い! もう10人くらいブックマークがついている」

僕は、愛莉のスマホを覗き込み、ブックマークの事を教えるつもりだったが、その多さに驚いた。

「理系の女の子の家庭教師は少ないから、需要が凄く高いの。それに、明媚の学生もなかなか人気が高いのよ」

「この分だと、川本さん、忙しくなりそうね。
分からない事は、チャット機能を使って聞いてね。クライアント用、運営用とあるから。
……ところで、お二人さん。私ももう上がるから、一緒に夕食でもどう?」

僕は、頭の中で財布の中身をチェックした。たしか五万円は入っているはずだ。それにクレカも作った。以前、綾乃と訪れたレストランに行ったとしても全額出せるくらいの財力が、今の僕にはある。

愛莉は、少し不安そうな表情を僕に向けていた。ここは、僕が彼女をリードしてあげなければならないと思った。

「せっかくだから、行きましょう。川本さん。」

「でも……」

「大丈夫です。僕に任せてください」

「うん」と言うと、また愛莉は腕を絡めてくる。

綾乃の視線が、僕の腕に絡めている愛莉の手に向けられた……。




~・~・~




予想通り、僕が初めて綾乃に会った時連れてこられたレストランに、僕たち三人はいた。
学生には敷居の高いお店だ。愛莉の反応も予想通りだった。


「心配しないで、好きなものを選んでね。ここは会社の経費で落とせるから」
「あ、でも、この間もご馳走していただいたし……」

「それは、今度、ちゃんと埋め合わせしてくれるんでしょ?」
綾乃はいたずらっぽく首を傾げながら笑った。


「埋め合わせって?」愛莉が訝しげに僕を見る。

「いや、大したことじゃないんです。ここは、宮下さん言葉に甘えましょう」

僕は、誤魔化して見せたが、愛莉はまだ何か言いたそうだった。

「私はワインをいただくけど、あななたちは?」

「ぼ、僕はジュースで」

「わたしは……」

「森岡君は、相変わらずお子様なのね、変なとこだけオトナになったみたいだけど 笑
川本さん、飲めるのだったら、付き合って」

「はい、では、わたしもワインをいただきます。」


料理が運ばれ、僕たちは乾杯をする。綾乃が白、愛莉が赤のワイン、僕はメロンジュースと三つのグラスがカチカチと鳴った。


「ところで、川本さん、あななたちって付き合っていないの?」

先ほども僕に確認していたが、まだ信用していないのか、今度は愛莉に尋ねる。

「ええ、わたしたち、会うのは二回目だし、そんなに親しくないです」

「そ……うなの、腕を組んでいたから、てっきり親しいのかと思ったわ」

「あれは、近くを歩くとき、ああした方が歩きやすいからです。それに、森岡君には好きな人がいるみたいだし、わたしの事を相手になんてしないと思いますよ」

愛莉が含みのある言い方をするが、僕には彼女が誰の事を言っているのか、見当もつかなかった。

「宮下社長の方が、ご存知じゃないんですか?」

「私が?」

「森岡君が好きな人の事を、です」

「よくわからないわ。私の知っている人? まさか、森岡君……、ゲイなの?」

「な、なんで、そうなるんですか!?」

僕は、思わずジュースを吹き出しそうになった。

「だって、私たちの共通の知人と言えば、岸本君くらいしかいないから」

僕たちの会話を聞いていた愛莉がクスクスと笑った。


「森岡君って、たぶん、宮下社長の事が好きですよ」

「冗談が過ぎるわ、川本さん」

綾乃は一笑に付した。


そう、綾乃は僕にとっては高嶺すぎる花だ。




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