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第9話 互助関係
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恐る恐る、早川君を見る。
(あ、灰になってる。真っ白な灰に……)
「あ、あの、今のは……その、違うの」
(一体、何が違うというのだ、花音)と自分でツッコミを入れる。
二人とも沈黙してしまって、気不味い時間が流れる。
状況を整理してみる。
早川君は、週末に自分の部屋で『一緒に作業しよう』と提案しただけだ、それなのに、私が斜め上に『付き合っているみたい』と変に意識するような発言をしてしまった。
(どう取り繕えばよいのだろう……)
「あの」
「あの」
二人同時に声を発する。
「あ、早川君から、どうぞ」
「あ、綾瀬さんから、どうぞ」
またもハモってしまったので、私は口を閉ざすことにする。
「あの……さっきの、その……、なんだけど、もちろん小説が書き終えるまでの事であって、きっと綾瀬さんには他に好きな人がいるだろうし、僕だって……好きな人は……いる」
ズキン。分かってはいたけど、ハッキリと言われると胸の中に何かが芽生える。
(やっぱり、早川君には好きな人がいるんだ……)
「だけど、せっかく同じ目標ができたんだし、互助関係という事でどうかな?」
互助関係。
そうだ、最初から早川君はお互いに協力し合って作業を進めようと言っているのだ。
「さっきのは、『もし男の子と付き合ったら、こんなふうに週末を過ごすのかな~』って想像しただけなの、ほら、わたし男の子と付き合ったことなんてないから、小説の参考にしようと思ってたら、口から出ただけ。
それに、わたし、好きな人なんていない。
互助関係と言っても、わたしが甘えてばかりなんだけど、よろしくお願いします」
「あはは、そんなにかしこまらなくても」
なんとなく切り抜けたが、大事故になる所だったと胸を下ろす。
「あ、でも、一つ心配が……」
「なに?」
「早川君の好きな人に、わたしがここに入り浸ってるの知れたら、誤解されないかな?」
「う、それは……」
また何かまずい事を言ってしまったのだろうか? 早川君が言葉に詰まる。
「いいんだ……片思いだから……」
「そっか、だったら、わたしが手伝うよ。その子と仲良くなれるように」
ズキン……。まただ、胸の奥に何かが芽生える。
「ありがとう、でも、今は小説を書きあげることに専念しよう」
「そうだね」
”ピンポ~ン”、呼び出しのベルが鳴る。
「あ、もう届いたかな?」そう言うと早川君はインターフォンに向かって何か話していた。
程なくして、また呼び鈴がなり、今度は玄関で話し声が聞こえてきたと思うと、平べったい箱を持って早川君が戻ってきた。
彼が入ってきた途端に、焦げたチーズの匂いが漂ってくる。
不覚にもお腹がキュルキュルとなってしまった。
(あわわ! 今の、聞こえただろうか?)そんなにお腹が空いていたわけではないが、高校時代に食べた、美味しさの記憶が胃袋を刺激したのだ。
(早川君に聞かれてませんように……)私は恥ずかしさのあまり俯いて座っていた。
その間にも、彼は台所で何やら準備をしている。
ハッと我に返り、立ち上がると私も台所に向かった。
「早川君、手伝うよ」
「あ、大丈夫だよ。飲み物を用意するだけだから、食卓に座ってて」
「うん、ありがとう……」
何もかも男の子にやらせてしまって、後ろめたい気持ちでテーブルについた。
リビング側にはテレビとソファーにローテブル。そしてダイニング側には四人掛けくらいの大きさの食卓がある。
テーブルにつくと、対面式の台所で飲み物を用意する早川君が見える。
なんだか、新婚の夫婦みたいだ……。
またしても変な妄想が頭を過り、今度は言葉に出さないように口を真一文字に結んだ。
「お待たせ」
ジュースを持った早川君がテーブルにつくと、いよいよ『クワトロ』様とご対面だ。
テーブルの上に置かれた平べったい箱。
そこからは、強烈に食欲をそそる匂いが漏れていた。
もし、箱を開けたら……。
想像しただけでも涎が出そうなのに、何の躊躇もなく早川君は箱を開ける。
予想通り、パン生地の焼けた甘い香りと濃厚なチーズの匂いが、まるで玉手箱の煙のように私を襲った。
いよいよクワトロ様のご尊顔を拝める。
と、その時……。
きゅるるるる~~~
またしても私は、不覚にもお腹を鳴らしてしまった。
(あーー、男の子の前でお腹を鳴らしちゃったーー、これは、オナラに次ぐ失態だ!)
「あ、あはは、クワトロの良い匂いに、お腹がなっちゃった、あはは」と笑ってごまかしたのだが……、これはのちに決定的なボケをやらかしてしまったと知る。
「わ~、クワトロって、なんか統一性がないんだね、乗っかってる具がバラバラなんだ~」
「?」
不思議そうな顔をする早川君。
「だって、4種類のピザが1/4ずつ入っているから、バラバラだよ?」
「え?
(なんと! クワトロとはピザの味の名前ではなかったのか!)」
「と、とにかく……食べようか?」
「う、うん……」
早川君は優しい。
私のカン違いいを無かった事のように振る舞ってくれる。
でも、そんな恥ずかしさを他所に、人生二回目の宅配ピザは、これまで食べたどんなものよりも美味しく感じた。
でも、初めて食べた時よりも美味しいとはどういうことなのだろうか?
もしかして、早川君と一緒に食べているから、美味しい?
またしても変な妄想が頭の中に湧いて出てくる。
私たちは互助関係だ。
それに、早川君には好きな人がいるんだ。こんなに協力してくれているのだから、彼の恋路を協力してあげるくらいの気持ちでいなければ。
でも、男の子と一緒にランチって、こんなに楽しいんだ。
この気持ちは、やはり今後の作品に活かせる。
そう、これは小説を書くための経験だ。
「どうかした?」
「ん?」
不意に声をかけられて、思わず早川君を見つめてしまう。
「ううん、なんだか、二人で食べるランチって美味しいなって思って」
「そうだね、僕もいつも一人で食べているから、いつもより美味しく感じるよ」
またしても頭の中を口に出してしまったけど、今度は後悔しなかった。
だって、正直な気持ちだから。
(あ、灰になってる。真っ白な灰に……)
「あ、あの、今のは……その、違うの」
(一体、何が違うというのだ、花音)と自分でツッコミを入れる。
二人とも沈黙してしまって、気不味い時間が流れる。
状況を整理してみる。
早川君は、週末に自分の部屋で『一緒に作業しよう』と提案しただけだ、それなのに、私が斜め上に『付き合っているみたい』と変に意識するような発言をしてしまった。
(どう取り繕えばよいのだろう……)
「あの」
「あの」
二人同時に声を発する。
「あ、早川君から、どうぞ」
「あ、綾瀬さんから、どうぞ」
またもハモってしまったので、私は口を閉ざすことにする。
「あの……さっきの、その……、なんだけど、もちろん小説が書き終えるまでの事であって、きっと綾瀬さんには他に好きな人がいるだろうし、僕だって……好きな人は……いる」
ズキン。分かってはいたけど、ハッキリと言われると胸の中に何かが芽生える。
(やっぱり、早川君には好きな人がいるんだ……)
「だけど、せっかく同じ目標ができたんだし、互助関係という事でどうかな?」
互助関係。
そうだ、最初から早川君はお互いに協力し合って作業を進めようと言っているのだ。
「さっきのは、『もし男の子と付き合ったら、こんなふうに週末を過ごすのかな~』って想像しただけなの、ほら、わたし男の子と付き合ったことなんてないから、小説の参考にしようと思ってたら、口から出ただけ。
それに、わたし、好きな人なんていない。
互助関係と言っても、わたしが甘えてばかりなんだけど、よろしくお願いします」
「あはは、そんなにかしこまらなくても」
なんとなく切り抜けたが、大事故になる所だったと胸を下ろす。
「あ、でも、一つ心配が……」
「なに?」
「早川君の好きな人に、わたしがここに入り浸ってるの知れたら、誤解されないかな?」
「う、それは……」
また何かまずい事を言ってしまったのだろうか? 早川君が言葉に詰まる。
「いいんだ……片思いだから……」
「そっか、だったら、わたしが手伝うよ。その子と仲良くなれるように」
ズキン……。まただ、胸の奥に何かが芽生える。
「ありがとう、でも、今は小説を書きあげることに専念しよう」
「そうだね」
”ピンポ~ン”、呼び出しのベルが鳴る。
「あ、もう届いたかな?」そう言うと早川君はインターフォンに向かって何か話していた。
程なくして、また呼び鈴がなり、今度は玄関で話し声が聞こえてきたと思うと、平べったい箱を持って早川君が戻ってきた。
彼が入ってきた途端に、焦げたチーズの匂いが漂ってくる。
不覚にもお腹がキュルキュルとなってしまった。
(あわわ! 今の、聞こえただろうか?)そんなにお腹が空いていたわけではないが、高校時代に食べた、美味しさの記憶が胃袋を刺激したのだ。
(早川君に聞かれてませんように……)私は恥ずかしさのあまり俯いて座っていた。
その間にも、彼は台所で何やら準備をしている。
ハッと我に返り、立ち上がると私も台所に向かった。
「早川君、手伝うよ」
「あ、大丈夫だよ。飲み物を用意するだけだから、食卓に座ってて」
「うん、ありがとう……」
何もかも男の子にやらせてしまって、後ろめたい気持ちでテーブルについた。
リビング側にはテレビとソファーにローテブル。そしてダイニング側には四人掛けくらいの大きさの食卓がある。
テーブルにつくと、対面式の台所で飲み物を用意する早川君が見える。
なんだか、新婚の夫婦みたいだ……。
またしても変な妄想が頭を過り、今度は言葉に出さないように口を真一文字に結んだ。
「お待たせ」
ジュースを持った早川君がテーブルにつくと、いよいよ『クワトロ』様とご対面だ。
テーブルの上に置かれた平べったい箱。
そこからは、強烈に食欲をそそる匂いが漏れていた。
もし、箱を開けたら……。
想像しただけでも涎が出そうなのに、何の躊躇もなく早川君は箱を開ける。
予想通り、パン生地の焼けた甘い香りと濃厚なチーズの匂いが、まるで玉手箱の煙のように私を襲った。
いよいよクワトロ様のご尊顔を拝める。
と、その時……。
きゅるるるる~~~
またしても私は、不覚にもお腹を鳴らしてしまった。
(あーー、男の子の前でお腹を鳴らしちゃったーー、これは、オナラに次ぐ失態だ!)
「あ、あはは、クワトロの良い匂いに、お腹がなっちゃった、あはは」と笑ってごまかしたのだが……、これはのちに決定的なボケをやらかしてしまったと知る。
「わ~、クワトロって、なんか統一性がないんだね、乗っかってる具がバラバラなんだ~」
「?」
不思議そうな顔をする早川君。
「だって、4種類のピザが1/4ずつ入っているから、バラバラだよ?」
「え?
(なんと! クワトロとはピザの味の名前ではなかったのか!)」
「と、とにかく……食べようか?」
「う、うん……」
早川君は優しい。
私のカン違いいを無かった事のように振る舞ってくれる。
でも、そんな恥ずかしさを他所に、人生二回目の宅配ピザは、これまで食べたどんなものよりも美味しく感じた。
でも、初めて食べた時よりも美味しいとはどういうことなのだろうか?
もしかして、早川君と一緒に食べているから、美味しい?
またしても変な妄想が頭の中に湧いて出てくる。
私たちは互助関係だ。
それに、早川君には好きな人がいるんだ。こんなに協力してくれているのだから、彼の恋路を協力してあげるくらいの気持ちでいなければ。
でも、男の子と一緒にランチって、こんなに楽しいんだ。
この気持ちは、やはり今後の作品に活かせる。
そう、これは小説を書くための経験だ。
「どうかした?」
「ん?」
不意に声をかけられて、思わず早川君を見つめてしまう。
「ううん、なんだか、二人で食べるランチって美味しいなって思って」
「そうだね、僕もいつも一人で食べているから、いつもより美味しく感じるよ」
またしても頭の中を口に出してしまったけど、今度は後悔しなかった。
だって、正直な気持ちだから。
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