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第21話 カミハラ
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私は今、絶賛、神様の嫌がらせを受けている。
オジサンの世界ではハナキンと言われている金曜日。
私は文藝サークルの親睦会の下見のために、渋谷の繁華街にある居酒屋に居た。
同席しているのは言わずもがな、早川君と美鈴だ。
此処までの私の整理では、早川君は美鈴の事が好きだが告白できないでいる。
私同様、地味で奥手な早川君は『片思い』を決めこんで指をくわえているのだ。
それだけなら問題ない。しかし先週末から私と早川君は『互助関係』を築き、お互いに協力し合って小説を書きあげようという事になっている。
作業場所は早川君が一人暮らししているマンション。
それだけでなく、今週は図書館で何度も『密会』している。
勿論、小説のアドバイスを受けたり、私の仕事(ライティング)を手伝ってもらったり、全面的に早川君が私をバックアップしている感じだ。
そして困ったことに、私は今、早川君が気になって×2仕方ない。
いや、本当はもう自分でも気づいている。
私は、早川君が好きだ。
でも、私は早川君には彼が本当に好きな人と付き合ってもらいたい。
だから自分が好きな人の恋を応援する、つもりでいた。
しかし、目の前でそれを実践するのは、ちょっと違う。
こんなに辛い状況は無い。
これは、神様による嫌がらせ――カミハラ――だと私は思っている。
四人掛けのテーブルに、早川君と向かい合う形で美鈴を座らせ、私はその横に座っている。最初のポジション取りは良好だ。
美鈴は生ビールを、私と早川君はウーロン茶を飲んでいる。
料理は、普段粗食に耐えている私にとっては美味しいものに感じたが、美鈴は少し不満気だった。
早川君は何の感想も述べない。
彼は、そもそも口数が少ない。
アルコールの勢いなのか、美鈴は何時にもまして饒舌だった。
そして、差し障りのない話題が続き、一時間ほど経った時だった。
美鈴が爆弾を投下した。
「ねえ、聞いた?
四年生の三上さんが、三年生の竹下さんに告白したらしいよ~」
「え? そうなの? 竹下さんって確か付き合っていたカレシさんが居たんじゃなかったの?
で、どうなったの?」
竹下さんは、およそ文藝部に似つかわしくない少し派手目の女子学生だ。
地味な人間が多い文藝サークルでは異彩を放つ存在で、男子のサークル員には人気があった。
しかし、別の大学に彼氏がいるとか、懇親会の度に話していた事を覚えている。
「それが、竹下さんが『OK』したんだってー」
「へえ~~、意外。カレシさんとは別れたの?」
女子二人の噂話に興味がないのか、早川君は黙って聞いていた。
ところが……。
「で、早川君って竹下さんと何度かデートしたんだよね?」
「ブーーーーーー!!!!」
私と早川君が同時にウーロン茶を吹く。
「きゃーー!! なによ二人とも!」
美鈴が悲鳴を上げ、私と早川君がゲフォゲフォとむせかえる。
あまりにも衝撃的な暴露話に、私は目が回る思いがした。
(まさか、早川君の好きな人って美鈴じゃなかったの!?)と思わず早川君の表情を伺う。
「ど、どうして?
どういう関係なの、二人は?」
もう、私はパニックに近かった。興味は早川君と竹下さんの関係に全集中していた。
「竹下さんは僕の高校の先輩なんだ」
私は竹下さんの事を思い出した。
実は、私が書いている小説の主人公、紗栄子の女友達の梨花は竹下さんをモデルにしている。
美人でスタイルが良くて、少し派手な感じで社交的。
自分もあんな風に成れたらと少し憧れの存在でもあった。
その竹下さんが、早川君と同郷?
「ミリンは、その情報をどこから聞いたの?」
「竹下さんだよ。
私たちが懇親会の下見に行くって掲示板に書いていたでしょ?
昨日、大学で竹下さんに声をかけられて、三上さんに告白された事や早川君とデートした事まで話してくれたの」
なぜ!? なぜ、そんな事を美鈴に話したのだろうか?
「もしかして、知ってた? 早川君。
竹下さんが告白された事を」
何なのだろう、この展開は。私は早川君の次の言葉を息を呑んで待った。
「う、うん……。
竹下さんから聞いている……」
「やっぱりね~
さっき、全然驚いている感じがしなかったし、まさかとは思ったけど。
そういう事情だったのね」
私には何が何だかさっぱり分からない。
竹下さんは、これまで自分が早川君と同じ高校の出身だなんて話していなかった。
多分、美鈴も今まで知らなかったのだろう。おそらく自分から積極的に公表していなかったのではないだろうか。
「でも、どうしてミリンに話したんだろ?」
「う~~ん、ワタシに話してくれた時は、『懇親会の下見の話のネタにして』って言ってたけど、二人の関係が大学入学前からあったとなると……、答えは一つしかないわね」
「なに?」
「竹下さんのカレシって、早川君だって事」
「ブーーーーーー!!!!」
またしても私はウーロン茶を吹く
「キャーー!! なに、また?」
今度は私だけでゲフォゲフォとむせかえる。
「違うよ……、僕なんかが竹下さんの彼氏なわけないよ」
「じゃあ、どうしてワタシにわざわざリークしたの?
早川君と別れて三上さんと付き合うけど、実は早川君に未練があるから、ワタシから話題を振ってもらおうと考えたんじゃないの?」
美鈴は普段からズバズバと物事を言うタイプなのだが、今日はアルコールの勢いもあってか容赦ない。
ここで私の頭の中が千佳ばりの頭脳明晰さで分析を始める。
てっきり恋愛未経験だと思っていた早川君だが、竹下さんという年上美人の彼女が居た。二人がいつから付き合っているのかは分からないが、それは間違いないだろう。
しかし、最近二人は別れた。
それも、早川君の方から別れを切り出した。理由は、他に好きな人――美鈴――ができたからだ!
と、そこまで考えを纏めて、私は竹下さんを思い浮かべ、美鈴と比較してみた。
おかしい……。美鈴は友達だし好きだけど、女の私から見ても竹下さんには遠く及ばない。
もっとも、私が言えた立場ではないが。
「それにしても、竹下さんを振るって勿体なくない?」
「いや、本当にそんなんじゃないんだ。
竹下さんとは同郷のよしみで何度か食事しただけだよ」
これは、早川君が困っている。ここは私が何とかする番だ。
「まあ、良いじゃない、竹下さんと早川君の問題だし。
ミリン、飲みすぎ。
それに、きっと早川君には他に好きな人ができたんだよ」
そう、早川君は美鈴が好き。
だから、早川君を応援してあげなきゃ……。
オジサンの世界ではハナキンと言われている金曜日。
私は文藝サークルの親睦会の下見のために、渋谷の繁華街にある居酒屋に居た。
同席しているのは言わずもがな、早川君と美鈴だ。
此処までの私の整理では、早川君は美鈴の事が好きだが告白できないでいる。
私同様、地味で奥手な早川君は『片思い』を決めこんで指をくわえているのだ。
それだけなら問題ない。しかし先週末から私と早川君は『互助関係』を築き、お互いに協力し合って小説を書きあげようという事になっている。
作業場所は早川君が一人暮らししているマンション。
それだけでなく、今週は図書館で何度も『密会』している。
勿論、小説のアドバイスを受けたり、私の仕事(ライティング)を手伝ってもらったり、全面的に早川君が私をバックアップしている感じだ。
そして困ったことに、私は今、早川君が気になって×2仕方ない。
いや、本当はもう自分でも気づいている。
私は、早川君が好きだ。
でも、私は早川君には彼が本当に好きな人と付き合ってもらいたい。
だから自分が好きな人の恋を応援する、つもりでいた。
しかし、目の前でそれを実践するのは、ちょっと違う。
こんなに辛い状況は無い。
これは、神様による嫌がらせ――カミハラ――だと私は思っている。
四人掛けのテーブルに、早川君と向かい合う形で美鈴を座らせ、私はその横に座っている。最初のポジション取りは良好だ。
美鈴は生ビールを、私と早川君はウーロン茶を飲んでいる。
料理は、普段粗食に耐えている私にとっては美味しいものに感じたが、美鈴は少し不満気だった。
早川君は何の感想も述べない。
彼は、そもそも口数が少ない。
アルコールの勢いなのか、美鈴は何時にもまして饒舌だった。
そして、差し障りのない話題が続き、一時間ほど経った時だった。
美鈴が爆弾を投下した。
「ねえ、聞いた?
四年生の三上さんが、三年生の竹下さんに告白したらしいよ~」
「え? そうなの? 竹下さんって確か付き合っていたカレシさんが居たんじゃなかったの?
で、どうなったの?」
竹下さんは、およそ文藝部に似つかわしくない少し派手目の女子学生だ。
地味な人間が多い文藝サークルでは異彩を放つ存在で、男子のサークル員には人気があった。
しかし、別の大学に彼氏がいるとか、懇親会の度に話していた事を覚えている。
「それが、竹下さんが『OK』したんだってー」
「へえ~~、意外。カレシさんとは別れたの?」
女子二人の噂話に興味がないのか、早川君は黙って聞いていた。
ところが……。
「で、早川君って竹下さんと何度かデートしたんだよね?」
「ブーーーーーー!!!!」
私と早川君が同時にウーロン茶を吹く。
「きゃーー!! なによ二人とも!」
美鈴が悲鳴を上げ、私と早川君がゲフォゲフォとむせかえる。
あまりにも衝撃的な暴露話に、私は目が回る思いがした。
(まさか、早川君の好きな人って美鈴じゃなかったの!?)と思わず早川君の表情を伺う。
「ど、どうして?
どういう関係なの、二人は?」
もう、私はパニックに近かった。興味は早川君と竹下さんの関係に全集中していた。
「竹下さんは僕の高校の先輩なんだ」
私は竹下さんの事を思い出した。
実は、私が書いている小説の主人公、紗栄子の女友達の梨花は竹下さんをモデルにしている。
美人でスタイルが良くて、少し派手な感じで社交的。
自分もあんな風に成れたらと少し憧れの存在でもあった。
その竹下さんが、早川君と同郷?
「ミリンは、その情報をどこから聞いたの?」
「竹下さんだよ。
私たちが懇親会の下見に行くって掲示板に書いていたでしょ?
昨日、大学で竹下さんに声をかけられて、三上さんに告白された事や早川君とデートした事まで話してくれたの」
なぜ!? なぜ、そんな事を美鈴に話したのだろうか?
「もしかして、知ってた? 早川君。
竹下さんが告白された事を」
何なのだろう、この展開は。私は早川君の次の言葉を息を呑んで待った。
「う、うん……。
竹下さんから聞いている……」
「やっぱりね~
さっき、全然驚いている感じがしなかったし、まさかとは思ったけど。
そういう事情だったのね」
私には何が何だかさっぱり分からない。
竹下さんは、これまで自分が早川君と同じ高校の出身だなんて話していなかった。
多分、美鈴も今まで知らなかったのだろう。おそらく自分から積極的に公表していなかったのではないだろうか。
「でも、どうしてミリンに話したんだろ?」
「う~~ん、ワタシに話してくれた時は、『懇親会の下見の話のネタにして』って言ってたけど、二人の関係が大学入学前からあったとなると……、答えは一つしかないわね」
「なに?」
「竹下さんのカレシって、早川君だって事」
「ブーーーーーー!!!!」
またしても私はウーロン茶を吹く
「キャーー!! なに、また?」
今度は私だけでゲフォゲフォとむせかえる。
「違うよ……、僕なんかが竹下さんの彼氏なわけないよ」
「じゃあ、どうしてワタシにわざわざリークしたの?
早川君と別れて三上さんと付き合うけど、実は早川君に未練があるから、ワタシから話題を振ってもらおうと考えたんじゃないの?」
美鈴は普段からズバズバと物事を言うタイプなのだが、今日はアルコールの勢いもあってか容赦ない。
ここで私の頭の中が千佳ばりの頭脳明晰さで分析を始める。
てっきり恋愛未経験だと思っていた早川君だが、竹下さんという年上美人の彼女が居た。二人がいつから付き合っているのかは分からないが、それは間違いないだろう。
しかし、最近二人は別れた。
それも、早川君の方から別れを切り出した。理由は、他に好きな人――美鈴――ができたからだ!
と、そこまで考えを纏めて、私は竹下さんを思い浮かべ、美鈴と比較してみた。
おかしい……。美鈴は友達だし好きだけど、女の私から見ても竹下さんには遠く及ばない。
もっとも、私が言えた立場ではないが。
「それにしても、竹下さんを振るって勿体なくない?」
「いや、本当にそんなんじゃないんだ。
竹下さんとは同郷のよしみで何度か食事しただけだよ」
これは、早川君が困っている。ここは私が何とかする番だ。
「まあ、良いじゃない、竹下さんと早川君の問題だし。
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そう、早川君は美鈴が好き。
だから、早川君を応援してあげなきゃ……。
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