地味子が官能小説を書いたら

むかいぬこ

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第24話 苦い味

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駅の方へと歩いていくと、あちこちから良い匂いが漂ってくる。
今日は一日部屋の中に籠っていたというのに不思議とお腹は空いていた。
きっと集中したせいだろう。

雑踏にかき消されてはいたが、私のお腹は鳴りっぱなしだった。
あのまま部屋にいたら、きっと早川君に気づかれていただろう。
いや、もしかしたら私自身気づかないうちにお腹が鳴っていたのかもしれない。
そう思うと顔から火が出そうだった。

「何にしようか?」
そう言いながら早川君も私もキョロキョロと周りを見渡しながら歩く。
夕方特有の気忙しさから、私たちも何か急かされている気分に陥っていた。

その時、お店からもうもうと煙が出ているのが見えた。
お肉を焼く香ばしい匂いが空腹を感じていた私のお腹を直撃し、盛大にお腹が鳴った。

ハッとして早川君の様子を確認する。「流石に聞かれたのではないか?」と恥ずかしさのあまり背中が丸くなる。

「な、何だか凄く良い匂いがするね。焼き鳥屋さんか。ここにする?」
「そうね、結構混んでるけど、美味しそう。それに、わたしって焼き鳥って食べた事ないかも」
「そうだね、確かにあまり食べないね。じゃあ、ここにしよう」

二人の意見が合い、私たちはお店に入った。お店に入ると一斉に店員さん達の威勢の良い声が響き、私たちはカウンター席に通された。
カウンターの向こうでは店員さんが煙を立てながら串を並べて焼いている。

「へ~~、こうやって調理場を見ながら食べるのって、食欲をそそられるね。
わたし、どれにしようかな」
「ねえ、綾瀬さん。ビールも飲んじゃおうか?」
「え? でも……」と言いかけて昨日の美鈴を思い出した。

いつも美鈴は口が達者なのだが、いつにも増して饒舌だった。ああやって口数が多くなるのは機嫌がよくなっている証拠だ。
私もお酒を飲んだら気分が良くなるのだろうか?

「そうだね。少しフライングだけどもうすぐ 20 歳だし、良いかもね。
でも、わたしが酔っぱらったら介抱してくれる?」

冗談のつもりで言ってしまったが、またもや「しまった」と後悔する。なんとあざとい言い回しだろう。

「あはは、僕の方が先に倒れるかも。昨日も蜂谷さんに飲まされて大変なことになったし」

「あはは、ミリンは少し酒癖が悪いのかな? 昨日も早川君に絡んでたし」
「あ、でも、僕も何となく分かったよ。気持ちが高揚するというか、楽しかったもの」

「そっか……。楽しかったなら何よりね……」

きっと、その勢いで二人は外泊したのだろう。
ずっとモヤモヤした気持ちに支配されていたが、これで少し落ち着いた気がした。
早川君が意中の人と、それも友達の美鈴との恋が叶うのだから私の望み通りではないか。

私たちは瓶ビールを 1 本と焼き鳥を数本注文した。
やがて注文の品がカウンターに並べられると、またしてもお腹が鳴る。

「あはは、凄く美味しそう。タレの匂いだけでお腹が鳴りそう」
いや、実際には既に鳴っているのだが、私は笑って誤魔化した。

「じゃあ、とりあえず喉も乾いたし、カンパイといこうか」
「そうだね、え……と、何に乾杯する?」
「う~~ん、綾瀬さんのコンテスト入賞の前祝いかな」
「え~~、まだ小説も完成していないのに 笑」

初めて口にするビールはとても苦くて、今の私の気持ちと同じだった。
それでも、甘辛い焼き鳥のタレが、その苦さを和らげてくれる。
きっと、私も好きな人ができれば今感じている苦しい気持ちも和らぐのだろう。

いつの間にか気持ちが大きくなり、私たちはビールを2本飲んで焼き鳥も一人20本も食べてすっかり上機嫌になっていた。

「なんだか、わたし少しフラフラするかも」
「僕も、調子に乗りすぎたかも。昨日失敗したばかりなのに」

『失敗』とは何なのだろう? ぼやっとした頭にツッコミを入れるが、今はとにかく横になりたかった。初めて飲むお酒に、加減が分からずに酔ってしまったと気付くが、時すでに遅しだった。

なんとか早川君のマンションにたどり着いたが、部屋に入るなり私はソファーにもたれかかった。

「綾瀬さん、大丈夫?」

「うん、ごめんなさい。ソファーを独り占めしちゃって」
悪いと思ったが、身体が言う事をきかない。

「お水を飲む?」

「うん……」

早川君の声が凄く遠くから聞こえるような気がして、どんどん離れていくような感覚に陥った。

「ゴメン、僕も動けない……」


「ねえ、早川君……、昨日もミリンとこんなふうになったの?」
ずっと聞きたかった事をやっと口にできたと思ったが、それが声になっていたのか、もう私には分からなかった。


それから、フワッと身体が浮いたかと思うとストンと落ちていき、ハッと我に返った時、部屋の中は真っ暗になっていた。


ソファーにもたれかかっていた横に人の気配を感じる。確認するまでもなく早川君だ。スース―と寝息を立てていた。

身体を起こし、乱れた髪を整えながら時計を確認するが暗くて見えない。
「照明はどこだろう?」と床を這いながら入口までたどり着くとスイッチを探した。

「これかな?」手に触れたボタン状のパネルのようなものをカチッと鳴らすと、パッと照明が灯り部屋の中を一瞬で明るくする。

その明るさに早川君も反応して「う~ん」と少し呻き声を発した。

「あれ? 寝てしまったのか……、またやってしまった」
私と同じように髪は乱れて眼鏡もズレ落ちそうになっている早川君が、ポリポリと頭を掻いた。

「ごめんなさい。わたしも寝ちゃって……、今何時かな?」
改めて時計を確認して私は心臓が止まるのではないかと思うくらい驚いた。

既に夜中の1時を回っている!

「うわっ! こんな時間! 4時間くらい寝た?
ゴメン、昨日も良く寝てなかったから、起きていられなかった」

「わたしも、今日は寝不足だったから……」
と言いながら「どうしよう?」と不安になる。もう電車もない時間だから帰る事は出来ない。

「電車、もうないよね。綾瀬さん、僕のせいだからタクシー代を出すよ」


「ええ、そんなの悪いよ。八王子までいくらかかると思ってるの?」
と、言ったが実際いくらかかるかなんて私には分からない。

一つ言える事は、絶対に私には払えない金額だという事。


「でも……、僕のせいだし……」


早川君のせいではない。調子に乗って酔っぱらってしまった私に落ち度がある。
だが、どうして良いか、アイデアは思い浮かばなかった。


「じゃあ……、泊まってく?」


「え……!?」




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