地味子が官能小説を書いたら

むかいぬこ

文字の大きさ
26 / 27

第26話 親友

しおりを挟む
電車の揺れが最高に心地よい。

日曜日の夕方、私はようやく帰路についていた。丸二日、早川君と一緒に居たことになる。
「夕飯も食べていけば?」と誘われたが、我ながら厚かましすぎると思い遠慮して、こうやって京王線で八王子に向かっているのだ。

結局、徹夜で執筆して、その勢いのまま夕方まで書き続けた。
早川君も、その間ずっと作業にあたっていたので、二人の間に怪しい空気は少しも流れることはなかった。

これなら、もしも今日の事がバレたとしても申し開きができる。完全に健全な夜だった。

ウトウトとしている間に電車は八王子に着こうかとしていた。
普段であれば、この移動時間でさえスマホでアルバイトとしているライティングの仕事に充てるのだが、今日はその気力さえも残っていなかった。

「そういえば……、スマホの電源を落としたままだっけ」
昨夜、千佳からのメッセージを遮断するためにスマホの電源を落としていたことに気づいたが、家に帰ってからで良いかと思い、スマホを取り出そうとした手を引っ込めて、私は座席に身体を預けた。

駅から徒歩15分のアパートへの道のりは、疲れ切った身体には鞭以上に応えた。重い足を引きずる思いでたどり着き、階段を上るのだが、上りきったところで私は思わず固まってしまった。


(誰かいる!)


私の部屋の前に人がうずくまっているのが見える。膝を抱えて頭を折り曲げた身体の中に埋めるようにドアの前に座り込んでいる。

「不審者?」と思ったが、直ぐにその人物が自分のよく知る者であることに気づくとともに、私は驚きの声を上げた。


「ち、千佳!?」

私の呼びかけに、その人物はゆっくりと顔を上げ、呆けた目で私を認めると、立ち上がり脱兎のごとく突っ込んで来たかと思うと、私に抱き着いてきた。

「カノン~!! よかった~帰ってきた!」

「千佳、どうしてここへ? いつ来たの?」

「2時間くらい前かな。もう~、カノンが帰ってこなかったら野宿になるかと思ったよ~ メッセージ送っても未読無視だし、電話かけても出ないし~」
「い、いや、それよりも何故ここへ?」
「カノンの事が心配だったんじゃない! あんな時間までオトコと一緒なんて、なんてフシダラな子なの!」

「ご、ごめんなさい。とりあえず入って……」
「おじゃましま~す」

ほぼ丸二日、住人が居なかった部屋は空気が停滞していた。そこだけまるで二日前のようだった。

「それにしても、よく迷えずに来れたわね」
「まあ、一度来てるしね。東京駅では迷ったけど『中央線』という文字を見ながらひたすら人の波をかき分けて来たのよ。
それにしても、相変わらずお祭りでもやってるのかと思うくらい人が多いね。
あ、これお土産の『かすたどん』、礼には及ばないぜ」

千佳は、そう言いながらお土産の箱をテーブルの上に置いた。
蒸氣屋のかすたどんは私の大好きなお菓子だ。

「とりあえず、コーヒーでもいれるね。
ちょうど、お腹すいてたの」

「ふふふ、オヌシやはり、かすたどんには目がないのう 笑」
「だって、お腹空いてたんだもん 笑」

口の中に広がる甘いクリームが、少し落ち込んでいた私の気持ちまで溶けさせてくれる気がした。

「さて、お腹も落ち着いたでしょ。説明してちょうだい!」



私は、金曜日の夜から今日までの事を千佳に話した。



「なるほど……。そんなにセックスって良いものなの?」

「そ、そこ? 一番気になったのは!?」
「だって~、ハヤカワ君は『凄く気持ち良かった』って言って、ミリンさんも朝まで、……その……、してたんでしょ。寝る間を惜しんで……」

そう言いながら千佳の喉がゴクリと鳴った。
彼女は恋愛やセックスに興味津々なのだ。

「でも、それをわたしに話すなんて、どう思う?」
「う、うん……。もしかしてハヤカワ君はカノンの事を誘ったとか?」

「誘った?」

「男はオオカミだって言ったじゃない。
徹夜でしたのに、足りなかったのよ。だから、カノンをその気にさせて『あわよくば』って思ったんじゃない?」

「ん? ん?」
私は頭が混乱した。早川君にはそんな気配は微塵も感じなかったからだ。

「何を呆けてるのよ~
だってハヤカワ君は半月を見て『今の自分だ』って言ったんでしょ?」
「そうだけど、それってわたしを誘ってたって事?」
「そうだよ。まだまだ足りないから満たされてなかったんだよ」

「ちょ、ちょっと待って! でも、それじゃ論理破壊してない?」
「なにが?」

「だって、早川君はミリンの事が大好きで、私に変なことをすると彼女との仲が壊れてしまうから、わたしに手を出さないんじゃなかったの?」

「そうか……、確かに変ね。
だとすると、本当に『今一緒に居るのがカノンじゃなくてミリンさんだったら』って思ったって事か……。
それって酷くない!?」

せっかくかすたどんのクリームのおかげで溶けていた私の気持ちが凍り付く思いがした。
昨夜、寂しげに月を見上げていた早川君の横顔を思い出すと涙が零れそうになる。

「カノン……、大丈夫?」

「う、うん……。仕方ないとは思っていても、やっぱり拒絶されたみたいで辛いね 笑」
笑って見せたが、自分でも分かるくらい弱々しいものだった。

「おそらく天然が入ってるんだろうけど、女の子の扱い方を弁えてない子ね。
暗に『お前と一緒に居ても楽しくない』みたいな事を本人を目の前にして言うなんて」

「早川君を悪く言わないで。彼はわたしにとても優しいの。自分だって忙しいのにわたしの小説に付き合ってくれてるんだもの」

「それとこれとは別よ。
そんな態度を失礼とも思わないなんて、どうかしてるわ。
ねえ、カノン。もう分ったでしょ?」

「う、うん」

「これからも毎週一緒に過ごすわけ?」

来週、早川君と一緒に過ごしたとして、どんな態度で接すればよいのだろうか?
千佳に言われるまでもなく、不安でしかない。

「やっぱり、もう『互助関係』は終わりにしたほうが良いかな……」

「そうだよ!
その前に、そのふざけた奴の顔を拝んでやるわ!」

「え?」

「だから、ワタシも明日、カノンと一緒に学校に行くから。
そこで、ハヤカワ君を見せて。何なら、ワタシが『ガツン』と言ってやるから!」

「明日って、千佳の学校は?」

「明日、始発で帰っても間に合わないし、たまにはサボってもどうって事ないよ。
親友の一大事の方が優先度が高いってもんよ」

(とか言って、本当は興味本位なだけじゃ……
それに『ガツンと言う』って、千佳って男の子の前ではまともに喋れないじゃない。
でも……)

きっと、千佳が居なかったら私は独りで落ちるところまで落ち込んでいただろう。
なんだかんだ言っても、こうやって話せたことで私は救われた気がした。


「ありがとう……。千佳」

「なーに、礼には及ばないぜ 笑」




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

処理中です...