裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる

文字の大きさ
3 / 574
一番てっぺんに!

一番てっぺんに! 3

しおりを挟む
 ムツヤは剣を構え、目にも留まらぬ速度でカニを一刀両断する、カニの断面からは業火が吹き出した。

 塔の中程ぐらいまでは、触っても毒のないモンスターであれば篭手を付けた手で殴るか、足で蹴るだけで充分なはずなのだが。

 ムツヤは最近手に入れた『斬ると炎が出てくる剣』が面白くて気に入っており、ずっと使っていた。

 次々と襲いかかってくる『紫でぷるぷるした水』みたいな奴や『デカイ蝶々』『でっかい蛇』をムツヤは殴り飛ばし、蹴り飛ばし、剣で真っ二つにして燃やし、何度も階段を駆け上がる。

 そんな中、ガラスの小瓶に入った青い液体が転がっていたので拾い上げてムツヤは中身を飲み干した。

 詳しいことは知らないが、甘みがあり、味がよく、落ちている薬の中では喉が乾いた時に一番ピッタリなのでムツヤはよく愛飲している。

 これがありとあらゆる病気を治す幻の秘薬で、一本で豪邸が一軒買える代物だということをムツヤが知るのはだいぶ先の話だった。

 階層を数えながら登ると1時間もしない内に例の『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』の下層である59階まで来る。

 アイツは近づくと吐気がするほど臭いし、触手で触られると、肌が物凄く痒くなるので今まで関わらないようにしてきた。

 だが、今日こそはアイツを倒すぞとムツヤは気合を入れて階段を登る。

 接近戦で倒せる自信はあったが、出来れば近付きたくないのでムツヤはその階の入り口に隠れて、カバンから弓と矢を取り出した。

 塔の最上階にまで行けたら外の世界へと行っても良いと言われてからずっとこの為に練習をしてきたのだ。

 ムツヤは昔から直接殴りに行ったほうが早いと弓と矢にはあまり興味が無かったので弓の扱いは初心者だった。

 だが、ここ二週間で『命中するとメッチャ光ってモンスターがパパウワーってなる弓』を練習してきたので、ムツヤにはあの触手トカゲを仕留める自信がある。

 最悪、我慢して剣で斬ればいいしと楽観的だ。

 しかし、何度か臭いで吐いてしまうだろうから出来ればやりたくは無かったが。

 片目を閉じて弓を引き絞ると、ムツヤは左手を離す。

 放たれた矢は触手トカゲの顔に当たり、例の光がパパウワーと現れ、触手トカゲは部屋中にビリビリと響き渡る咆哮を出してのたうち回った。

 その間もムツヤは素早く弓に矢をつがえ直し第2射、3射と矢を浴びせ続ける。

 命中した矢の光が消えると、そこを中心に半径40cmほどのグロテスクなクレーターを触手トカゲの体に作る。

 怒った触手トカゲは緑の毒液を放射状にばら撒いて階段の入り口の後ろに隠れていたムツヤへと降らせた。

 流石に毒液を浴びたくないとムツヤが飛び出すと、待っていたとばかりにトカゲは伸ばした触手を鞭のようにしならせて襲いだす。

 それでも、足の早くなる魔法を使い、部屋を縦横無尽に駆け巡るムツヤを捉えることは出来なかった。

 その間も絶え間なく矢の雨が降る。

 触手トカゲの発する咆哮も段々と弱くなり始め、天を見上げて一度だけ一際大きく咆哮を上げると、それを最後にその巨体は煙とともに消え去ってしまった。

 今までのムツヤの経験上、モンスターの中には死ぬと死体が残るやつと煙になって消えるやつの二種類が居る。

 死体が残るやつは食べると大体は美味いので食料になっていた。

 触手トカゲを初めて倒した達成感などは微塵も感じず、ムツヤはアイツは煙になるタイプだったのかとちょっと関心を持っただけだ。

 まぁ、肉が残ったとしてもあんなに臭いモンスターは食べる気がしないのでどうでもいいのだが。

 ムツヤは『割ると辺りのクサイ匂いが消える青い玉』を触手トカゲの消えた場所に投げる。

 これは割れた場所を中心として、約半径30メートルの空間に漂うどんな有害物質でも除去できる代物なのだが、普段は使い道が見つからないのでトイレのちり紙の横に山積みにされていた。

 大きい方をした後のエチケットだ。

 もちろん、これも外の世界で1玉売れば1週間は酒場で豪遊が出来る価値がある。

 部屋は快晴の空の下で心地の良い風が吹いたように、爽やかな空気になった。

 さっきまでの匂いを嗅いでいたムツヤは普段より余計に清々しく感じている。

 ムツヤは知らない事が多い。

 触手トカゲの吐き気を催す臭いは、常人であれば一吸いで昏睡状態に。ゆっくり深呼吸すれば次の瞬間にはあの世へ行っている毒ガスだと言うこと。

 触手で触られれば痒みを感じるどころか、その部分から細胞の壊死が始まり体が腐り落ちる事を。

 それでは、何故ムツヤは平気なのかと言うと、おそらくどんな病気も治す幻の秘薬を小さい頃からジュース代わりにガブガブと飲んでいるからだろう。

 長年気持ち悪いと思っていたトカゲが消えて、ムツヤはもっと早く倒しておけば良かったかと思いながらもちょっとした喪失感じた。

 ヤツが居た場所には鱗が数枚落ちていて、変わった匂いも、触って皮膚がどうこうなる事も無かったので、とりあえずカバンにしまって階段を登り始める。

 ここから先は未知の場所なので少しだけ身構えたが、そんなムツヤの心配は杞憂に終わり、どのモンスターも一撃で真っ二つに出来た。というか素手でも倒せるぐらいに弱い。

 それから塔の内部の森を抜け、砂漠を抜けてこれまた1時間もしない内におそらく最上階付近まで来た。

 そこには開けた広間があり、天井からはガラス製の燭台がいくつも垂れ下がっている。

 床にはフカフカの赤い絨毯が広がっている。そして奥の大きな扉の前の豪華な椅子に何者かが座っていた。

「あー、やっと登ってきたのね」

 突然の声にビックリしてムツヤの視線は釘付けになる、人影だ。

 暗闇の中で蝋燭の光を浴び、黄金色に赤みを含ませて照らし出される椅子、そこから誰かが立ち上がるのが見えた。

 剣先をそちらに向けたまま姿をよく見てみる。

 一歩一歩近付いてくる相手は自分とは違う褐色の肌、長い髪は真っ白。

 だが同じ白髪でもじいちゃんとは違う感じだなとムツヤは思った。

 なんというか高級感がある。例えるならたまに拾う上質なローブの様な感じの艷やかな髪だ。

 目の上や唇、爪などは毒々しく紫色で、火に照らされて怪しく揺らめいていた。

 纏っている触り心地の良さそうな上質な服は、たまに塔の中で拾い『それは女が着るものだと』教えてもらった服と似ている。

 それらは外の世界の本で挿絵のヒロイン達が着ている『ドレス』や『ローブ』に似たものだった。

 目の前の人間が来ているのは、無理に例えろと言われればローブが近いだろうか。

 胸を隠しているが、胸元ははだけさせ、胴体は布を纏わずに、腰から床付近までを長い布がぐるりと覆い、横に切れ目が入っている。

 その面積が少ない布が支える胸の筋肉ではない2つの大きな塊と、何故か分からないがドキドキするこの感じ。

 この鼓動は相手の正体がわからないからという理由だけではないと直感でわかった。

 戦いでなる鼓動とは少し違う、この感覚はどちらかと言うとあの小説を呼んでいる時の感覚に近い。

 そうだ、小説の挿絵や描写と照らし合わせても完全に一致だ。

 その相手はムツヤが初めて出会う女という生き物だった。



(イラスト:海季鈴先生)

「あ、お、あ、えっと、は、はじめまして俺じゃなくて、私はムツヤと言いまず!」

 外の世界に出た時の挨拶をずっと練習してきたはずが、さっとその言葉を言えずムツヤは顔が赤くなってしまった。

「はじめまして、ねぇー…… 私は『はじめまして』じゃないつもりだったんだけどもな~」

 そう言って女は近づいてくる。

 最上階付近ということもあり、知能の高いモンスターの可能性は捨てきれないのでムツヤは剣を構えたままだ。

 人のようなモンスターはよく見かけたが、奴らは言葉も話さず襲いかかってくる。

 だが、今回はそうではない。

 今のムツヤには相手の正体が誰かわからないままだ。

「私の名前はサズァン、いわゆる邪神様ってやつよ」

 邪神。外の世界の本の中にも書いてあった。

 ムツヤの中で邪神というのは、人を呪い、時には殺すよりも残酷なことをするらしい何か凄くヤバイ奴ぐらいの認識だ。

「その邪神様が何のようでごじゃ、ございますでしょうか」

 相手をからかっている訳ではない。

 ムツヤはいたって真面目だが、慣れない尊敬語を緊張しながら使った結果このような言い方になってしまったのだ。

 するとサズァンは口元を手で隠してクスクスと笑い始めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...