裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる

文字の大きさ
4 / 574
一番てっぺんに!

一番てっぺんに! 4

しおりを挟む
「私はね、この扉を…… まぁ言ってしまえばこの塔自体を千年と守っているの。この先に行きたかったら私と戦って勝たなくちゃいけないわ」

 人間ではないといえ、祖父以外で初めて言葉を交わして、胸が変にドキドキする相手と戦いたくない。

 剣を構えたままどうすれば良いか答えも出てこないのでムツヤはじっと立っていた。

「でもね、私はあなたと戦いたくないのよ、ムツヤ。あと邪神様じゃなくてサズァンって呼んで」

 初めて他人に、まぁ、正確には人ではないのだが。

 ともかく知らない相手に名前を呼ばれてムツヤは胸が高鳴る。

 腰をくねっくねさせながら一歩一歩サズァンはムツヤの元へと歩いてきた。

 これが本で読んだ色っぽいという奴なのだろうか、そんな風に冷静に考える自分と、一方で胸の高鳴りで死にそうになる自分がいる。

「私はね、あなたが子供の頃からあなたを見守っていたわ。最初はもうビックリしたわよ?」

 そう言ってサズァンはクスクスと笑った。

「だって、子供がこの塔の中に入ってきちゃうんだもん。しかもそれが危なっかしいけど中々に強くて」

 こちらは相手のことを今日初めて知ったというのに、相手からは自分を子供の頃から知っていたと告げられる感覚は実に妙なものだ。

「ねぇ、覚えてるかしら? あなたが油断してコカトリスに噛まれちゃって、死にそうになってた時に助けてあげたの私なのよ?」

「コカトリス?」

 頭をひねってみるがムツヤにはコカトリスが何者かわからない。

「あぁ、アレよ。鶏に蛇のしっぽが生えたやつ」

 あー、とムツヤは声を出して合点が言ったようだ。

 あの『しっぽに毒を持ってて、目を合わせ続けると段々と体が動かなくなる鶏の化物』だ。

 ムツヤは外の世界の本に載っているモンスターならば正しい名前を知っているが、それ以外は自分の付けた安直な名前で読んでいるので無理もない。

「確かに一回噛まれた時がありますたね」

 今度は敬語を意識しすぎてしまい、語尾を噛んでしまった。

「あの時、目の前に解毒薬置いてあげたの私よ。本当はそういうのダメなんだけど」

 完全に思い出した。ムツヤは鶏の化物に噛まれて冷や汗が止まらなくなり、体が死ぬほど重くなった時があった。

 当時はまだ、何でも入る小さなカバンを持っていなかったので、手持ちに飲むと元気になる青い薬が無い時だ。

 そんな時、目の前にガラスが転がる音がし、どこからともなく青い薬が現れたのだ。

「そうだったのですか、それはもうあの時はご親切にごありがとうごぜぇました」

 剣を収め、勉強して覚えたての敬語をムツヤは使うが、あいかわらず所々で訛りが顔を出してきてしまう。

 その度サズァンは堪えきれなくなってクスクスと笑っていた。

 田舎者をバカする気持ちからではなく、小さい頃から知っている子供が一生懸命に背伸びをしようとしている事が可愛らしくて、面白くもあったからだ。

「それで、この先に行くためには私を倒さなくちゃいけないんだけど、どうするの?」

 そこまで言ってサズァンは困った顔をした。

「私としてはあなたの事は近所の可愛い子供とか弟みたいなものだから出来れば殺したくないんだけど……」

 そう言われてしまうとムツヤも困る。

 武器を手に取って襲いかかって来るのであれば戦う覚悟も決められるのだが、そう言われてしまったら戦いづらい。

 元より出会った時から戦う意志は消えてしまっていたのだが。

「えーっと、うーんと、どうしたのものでずかねー」

 またも言葉に訛りを出しながらムツヤはうんうんと悩んでいた。

 サズァンはそんなムツヤを見て問いかける。

「そもそもなんで急に最上階に行きたいなんて思ったのかしら? いつもテンタクルドラゴンきもいーくさいーって言ってあの階より上に近付きもしなかったのに」

 テンタクルドラゴンという名前は知らなかったが、会話の中から例の触手トカゲの事を言っているのだとムツヤは理解した。

「えーっどですね、なんずったらいいか、ウチのじいちゃんが外の世界は危険だからって、せめてあの塔の最上階に行くぐらいは強くならなくちゃダメだって言っでてそれで」

 それを聞いてサズァンは今日一番の笑い声を上げた。

 クスクスなんてものじゃない、口元を隠していた手をお腹に当ててもうゲラゲラとだ。

「あなたねぇ…… あなたもおじいちゃんも正気で言ってるのかしら? ここまで来られたらもう外の世界のモンスターなんて寝ながらでも倒せちゃうわよ?」

 笑いすぎて目に涙を浮かべたサズァンの言葉にムツヤは衝撃を受ける。

 強いと信じていた外の世界のモンスターを寝ながら倒せるなんてと。

「っていうかあなたのおじいちゃんってタカクよね? まだ元気にしてる?」

 ムツヤには驚きの連続だ、目の前の邪神は自分の祖父のことを知っていたのだ。

「え、えぇ、最近ちょっどー弱ってきちゃいましだけんど、まだまだ元気だって言ってまず。サズァン様はじいちゃんの事を知ってるんですか?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...