裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる

文字の大きさ
5 / 574
一番てっぺんに!

一番てっぺんに! 5

しおりを挟む
 その質問をするとサズァンはふっと軽く笑ってムツヤから目を逸らして言った。

「むかーし、ちょっとねー。それよりどうするの? 私を倒して最上階まで行くの?」

 ムツヤは腕を組んで考える、外の世界のモンスターは案外大したこと無いんじゃないか。

 しかし、強さの証明の為には最上階へ行かなくてはならず、行くためにはサズァンを倒さなくちゃいけないけど、倒したくない。

 でも、外の世界には行ってみたい。

 ぐるぐると思考を巡らせた結果ムツヤが生み出した結論はこうだ。

「嘘ついちゃうか、じいちゃんに」

 ムツヤはぼそっとそう言った。

 右の人差し指を頬に添え「あら、それで良いの?」とサズァンは聞き返す。

「一番上まで行っだっでじいちゃんに嘘付いて外の世界に行きます。俺はサズァン様と戦いたくないですし」

「ふふっ、そう」 

 笑顔を作った後にサズァンはムツヤの元へ近付いてくる。

 ふわっと香る今まで嗅いだことの無い良い香り。綺麗な花を目の前に散りばめられたような甘い香りだ。

「私はこの塔から外に出ることは出来ないけど、あなたにコレをあげるわ、私も退屈だから外の世界を見てみたいし」

 サズァンはムツヤの手を両手で握り占めるようにして紫色のガラス玉付いたペンダントを渡した。

 邪神とはいえ初めて異性に触れたことで胸の高鳴りが一周して気絶しそうになる。

 頭に残った印象は温かくて柔らかかったという事だけだ。

「コレを付けていれば、困った時に助けてあげられると思うわ。と言っても直接手出しはあまり出来ないからアドバイスしてあげるだけだけど」

 フフッと笑ってサズァンは続ける。

「後はどうしても寂しくなったらこの塔に戻ってくるのよ? いつでも私がたっぷり慰めてあげる」

 恐ろしい邪神様なのだろうが、案外いい人、いや、いい神なのかもしれないとムツヤは思い、決心して言うことにした。

「サズァン様、俺のハーレムに入って貰えませんか?」

 5秒間ぐらい静寂が流れる。

 最初はポカンとした表情をしていたサズァンは次第に笑いを我慢するような表情になり、また両手で顔を隠して後ろを振り返った。

「待って待って待って、本当この子可愛すぎ、どーしよ、年の差なんてまぁうーんいやでもーうー…… やっぱり小さい頃から見てたから情が移っちゃったのかしらね」

 さっきまでの気品と神々しさはどこへ言ったのか、サズァンは小声を言いながらくねくねと悶ている。

 ふと、独り言をピタリとやめて振り返った。

 そのサズァンには気品と妖艶さが戻っている。

 そして、聞き分けのない小さい子供を諭すように言う。

「いいムツヤ? 私は神で、あなたは人間、しかも私にとってあなたは弟とかそんな感じなの」

 そう言われたムツヤはこの世の終わりが来てしまったとそんな顔をしていた。

 その後はもう、わかりやすいぐらいに落ち込んだ。

 おそらく人生初の恋はすぐに幕を閉じたのであった。

「あーそのえーっと、あなたが嫌いってわけじゃ無いわよ? むしろ好きだし、でも私は邪神だしね、それにアナタには外の世界を見て来て欲しいの」

 ムツヤは聞いているのか聞いていないのか、口を開けたままアホっ面をしてピクリとも動かない。

「わかった、もうわかったから! 外の世界を見て成長なさい。それでハーレムでも作って、色んな女の子を知るの、それでも好きな人間の子が出来なかったらその時はまた戻ってらっしゃい。そうしたらまたもう一回考えてあげる」

 ムツヤはその言葉を聞くとコレまたわかりやすくパァッと笑顔を取り戻した。

 この時サズァンはムツヤが尻尾を振る可愛い子犬の様に見え、抱きしめて頭を撫で回したい衝動に駆られたがぐっと堪える。

「わかりました、サズァン様。俺は外の世界を見て、外の世界で成長すてハーレムを作ります!」

「はいはい、わかったわかった。そのペンダントを付けてればたまーにお話もできるから困ったら頼って頂戴ね」

 ムツヤはハッと思い出して頭を下げる。これは感謝の気持ちを表す行為らしい。

 来た道を戻る途中、一度だけサズァンを振り返ると笑顔でひらひらと手を振り返してくれた。


(イラスト:東原望美先生)




 急いで階段を駆け下りた。

 途中またモンスターと出くわしたが剣を取り出すのも面倒だったので全てぶん殴って片付ける。

「じいちゃん、てっぺんまで登ってぎだからあの結界って奴を壊しでぐれ!」

 ムツヤは家に帰るなり祖父のタカクへと言った。

 タカクはお茶を飲みながら目線だけをムツヤに移して、とうとうこの時が来てしまったかと湯呑を置く。

「そうか、それならば仕方がねー、明日の朝に結界を解いでやっがら」

「いんやダメだじいちゃん、俺は外の世界で成長しでハーレム作んだ! もう今すぐに行く!! 今すぐじゃなぎゃダメだ!」

 ムツヤは鼻息を荒げてそう言うと、やれやれとタカクは重い腰を上げた。

 家から結界の間際まで歩く二人の間に言葉は無い。

 途中また巨大なコウモリが何度も襲撃してきたが、ムツヤが飛び上がって平手打ちで全て叩き落とした。

「ムツヤ、いづがはこの日が来るど俺も思ちょった」

 タカクは家から出て初めて話し出した。その表情は当然だがどこか寂しげだ。

「外の世界を見てこ、ムツヤ」

「じいちゃん……」

 タカクがそう言って結界に手を伸ばすと青白い光に切れ目が現れ、左右に開いた。

 あれほど行きたかった外の世界なのにムツヤは少し足取り重くその裂け目へと歩く。

「じいちゃん、カバンの予備に薬死ぬほど入れでおいだがら死にそんなっだら飲めよ! あどー広げたら竜巻が起こる巻物も入れとったから魔法使うのしんどい時は使えよ、それから」

「俺の心配はすんでねーよ、ムツヤ」

 シワだらけの顔を更にクシャクシャにし、ニッと歯を見せてタカクは笑った。

 ムツヤは黙って頷いて一気に結界の裂け目に走り出す。

 中は一面が真っ白で、急に高い所から落ちたような浮遊感がし、たまらず叫び声を上げる。そのまま気を失い、気付いたら。

「おい人間、こんな時間に何故ここにいる」

 ムツヤは夜の闇に包まれて月明かりに照らされていた。

 気を失っていたはずだがその足はしっかりと大地を踏みしめて立っている。

 そんなムツヤの周りを緑色の肌をした人が囲んでいた。相手は今にも斬り殺さんばかりの殺気を帯びていた。

「あ、え、あーっと、は、はじめましで私はムツヤと言います」

「貴様ふざけているのか」

 あれとムツヤは思う。

 言い方がおかしかったのか、原因は分からないがどうやら相手を怒らせてしまったらしい。

「いいか、質問をしている、何故ここに居る」

 目の前の緑色の人間がそう言った。緑色…… ムツヤは目の前の人間をじっと見る。

 変な形の耳と少し低めの鼻と、下顎から覗く牙。もしかして

「わかった、オーグだろ、オーグ!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...