32 / 574
身分証明
身分証明 2
しおりを挟む(イラスト:有機ひややっこ先生)
「あーはいはい、連絡石で一人来るって聞いてたよん。私は試験官の『ルー』召喚術師よ! よろしく」
ルーと名乗る試験官は背丈がモモよりも頭2つ分小さく、まるで子供のようだった。その大きな胸以外はだが。
少し不健康そうな白い肌と銀髪。それと対照的な紺色の魔術師が着るようなローブを身にまとっていた。
「モモと申します、よろしくお願いします」
ルーは片手を差し出して握手を求めてきた。その小さい手を軽く握るとバサリと大げさにローブをはためかせて話し始める。
「モモちゃんには私が今から出す精霊とあの上で戦ってもらうよ、それで勝ったら終わり。簡単でしょ? でも油断すると怪我じゃ済まないかもね」
ルーは闘技場中央の石畳を指さして言った。ギルドの試験での怪我や死亡事故は全て自己責任と、さきほど念書を書かされたのはその為かとモモは納得する。
「なるほど、わかりやすくて良さそうだ」
モモが闘技場の中心に立つとルーは杖を掲げ光らせる。そんな光景を観客席にポツリと座ったムツヤは見ていた。
ルーが何かを唱えると青白い鎧をまとった精霊が3体モモの周りに現れる。
モモはまず左端の1体に飛びかかった、相手の剣をするりとかわすと懐から切り上げて一撃を食らわせ、押し倒されないよう蹴り飛ばした。
次の攻撃を仕掛けてきたのは右端の精霊だ。剣を振り下ろしきる前にモモは盾でそれを受け止めて鎧の隙間から剣を突き刺してそのまま乱暴に抜く。
束ねた後ろ髪をたなびかせ、くるりと半回転し最後の敵に対峙する。横薙ぎに来た斬撃は後ろに飛び跳ねてかわし、そのまましゃがみ込んで大きく前へ踏み出し精霊を切り捨てる。
「はーい、終了終了。モモちゃん中々やるねー」
試験はあっさりと終わってしまい、ルーは手をパンパンと叩いて喜んでいた、モモは少し恥ずかしそうに笑うと石畳を降りて合格のサインがされた用紙を受け取る。
こうしてモモは晴れて冒険者になった。そしてムツヤはというと。
「おめでとうございますモモさん……」
「そう落ち込まないで下さいムツヤ殿……」
ムツヤは落ち込む時、それはもう分かりやすいぐらいに落ち込む。靴を脱いでギルドのソファの上で三角座りをしてコンパクトムツヤになっていた。
「おい、にいちゃん訳ありだろ?」
ムツヤに声を掛けたのは先程の大男、確かゴラテと呼ばれていた男だ。モモはあからさまにその男に対して警戒心をあらわにする。
「冒険者になる方法は2つあるってのは知ってるかい?」
ムツヤはその言葉を聞いて顔を上げた。するとゴラテはニヤリと笑う。
「そのオークのねぇちゃんみたいに手続きをする方法とあと一つ」
ここでゴラテは勿体ぶって一呼吸を入れる。その数秒がムツヤにはとても長く感じた。
「冒険者として10年以上活動している奴の推薦状があれば身分証なんてもんが無くてもなれるんだ」
冒険者になれる可能性があると聞いてムツヤの顔はパーッと明るくなる。モモの方はまだ懐疑心があるようだったが。
「そ、それじゃあお願いします、俺に推薦状を下さい!」
ムツヤはバッとゴラテに頭を下げる、それを見てゴラテはガッハッハと笑った。
「悪いが、条件がある。3つの内どれでも良い、1つは百万バレシを俺に渡すこと」
そこまで聞いてモモはため息を付いて話を遮る。
百万バレシなどという大金を吹っ掛けてくるなんて、この男はこちらを馬鹿にしに来たのか、それとも弱みにつけ込む詐欺師まがいかだと思った。
「ムツヤ殿、これ以上耳を貸すのは無駄です」
「まぁ待て、推薦状を書いて冒険者になった奴が何か問題を起こしたら俺も責任を取らされるんだぞ? これぐらいの金は当たり前だと思うがな」
顎下に蓄えたヒゲを触りながらゴラテはニヤニヤと笑っている。モモは不快そうにそれを見ていた。
「それだったら別の良心的な冒険者に頼むことにする」
「それも上手くいくかな? ワケありの人間なんてカモにされるのがオチだぞ? それに良心的な冒険者なら目の前にいるだろう」
「それはどこにいるのか教えてもらいたいものだな」
モモはハッと笑ってゴラテに対し一歩も譲らない。するとゴラテはわざとらしく参った参ったと両手を上げてみた。
「それじゃ2年間『ウソクヤ』の葉っぱをカゴいっぱいに俺に届けてくれ、そうしたら推薦状を書いても良い」
少しハードルが下がった、ウソクヤの葉は解熱・鎮痛の効果がある薬草だ。森へ入ればそれなりに生えているので難しいことではない。
「2年も待でません! 俺には夢があるんです!」
ムツヤは少し大きな声でそう言った。その言葉を待ってましたとばかりにゴラテはまた笑う。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
