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こんな関係は、間違っているのに…
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聡一郎が男娼となったのは、ひとえに家族のためだった。母子家庭で金銭的余裕のないなか、せめて弟の久人にだけは学歴で惨めな想いをさせたくなかったのだ。母親には丁稚奉公をすると偽り、日々男に抱かれていた。
「兄ちゃんっ。嫌だっ、行かないでっ、兄ちゃんっ」
故郷を離れる際、追いかけてくる久人の声が耳を離れない。2度と故郷には帰らないつもりで、。唯一の宝物は、幼い久人が一生懸命折った折り紙の兜だけだった。
来る日も来る日も男に抱かれ、多額の仕送りをした。月日が流れ、20歳となった聡一郎は男娼から足を洗った。久人が無事に留学したためだ。もう、男に抱かれる事はないのだ。贔負の客からは、愛人にならないかと誘われた。悪い人ではなかったが、好きにはなれなかった。穏やかに暮らしたいのだ。だが、故郷に帰る気持ちにもなれなかった。どんな顔をして母親や久人の顔を見ればいいのかわからない。小さな村へ辿り着いた聡一郎は、そこで暮らす事にした。
「聡一郎先生。これでいい?」
5年がたち、聡一郎は自宅で子供達に書道を教えて過ごした。優しくて分かりやすい説明が評判となり、村の人気者だ。
「今日はこれで終わり。皆、気を付けて帰りなさい」
「はーい」
女性のように細い輪郭に、艶やかな黒髪。筆で描いたような形のいい眉と薄く上品な唇。聡一郎の美しさは、近隣の女性達から羨望の眼差しで見られていた。不意に背後に人影を感じ、聡一郎は生徒の1人だと思いなんの疑いもなく振り向く。
「どうかし…」
言いかけた聡一郎は、そのまま固まった。そこには、1人の青年が立っていた。背が高く、なにかを言いたげに開けられた唇。ふと見れば、唇の横には小さなホクロがあった。
「…久人、だね?」
聡一郎が静かに問えば、久人が弾かれたように顔を上げた。そして、困惑したような笑みを浮かべる。
「久しぶり、兄ちゃん」
久人が大きな腕を広げて抱きついてくる。その背中を、聡一郎は複雑な思いで抱き締めた。
「…大きくなったね」
聡一郎の記憶の中では、久人はいまだに10歳の頃のままだった。丸顔で、どんぐりのような瞳。いつも額や頬を擦りむいては泣いていた。それが今や、160cmの聡一郎を遥かに越える身長となり、広い肩幅とがっしりした胴を持っていてすっかり大人の男になっていた。
「日本へはいつ?」
「3ヶ月前だよ。兄ちゃんのおかげで、しっかり勉強できた」
「母さんは元気かい?」
「元気、元気。今は町内会の副会長をしているよ」
「へぇ」
小さなちゃぶ台に向かい合って座り、聡一郎は久人に温かな麦茶を出した。
「兄ちゃんの事、心配してた」
「…そう」
記憶の中の母親は、いつも疲れた顔をしていた。だが、聡一郎と久人に向ける笑顔はとても優しかった。聡一郎が丁稚奉公に行くと言ったら、心配そうに抱き締めてくれた。
「なんで帰ってこないんだ?母さん、待ってるよ」
久人が聡一郎の薄い肩を掴む。太くたくましい指の感触に、改めて久人の成長を感じた。
「そのうち帰るよ」
聡一郎は笑って誤魔化すと、夕食に誘った。その夜。聡一郎はいつもより豪華な食事を作り、酒を酌み交わした。
「あの久人と酒を飲んでいるなんて、なんだか夢みたいだ」
「何回言うんだよ。それ」
離れていた時間が嘘のように、2人は夜遅くまで語り合った。
「今日は泊まっていきなさい。夜も遅い」
とはいうものの、布団は1つしかない。ふと空気が変わるのを聡一郎は肌で感じた。振り向けば、久人の瞳に光が宿っている。それは、聡一郎にとっては馴染みのある輝きだ。
(まさか…)
久人は、明らかに聡一郎を性の対象として見ている。これまで聡一郎を抱いた男達と、同じ目をしているのだ。
聡一郎は、すぐに離れなくては危険だと本能で悟った。
「僕は居間で寝るから。ゆっくり休むんだよ」
急いで部屋を出ようとした聡一郎の手首を久人が掴む。その思った以上の力強さに、聡一郎の鼓動が大きく跳ねた。ほんの一瞬だけ見つめ合った瞳は、聡一郎の身体の奥を疼かせた。
「久人っ。手を、離しなさい」
声が勝手に震える。なぜだかわからないが、逆らう事ができなかった。
「嫌だ」
久人が、グイッと聡一郎を引き寄せる。聡一郎は、倒れ込むように久人の腕の中へと落ちた。
「ん…っ」
久人に口づけされながら布団に押し倒されても、聡一郎は抵抗ができなかった。上から久人が覆い被さってくる。
「兄ちゃん。男娼してたんだろ?男に、抱かれてたんだろ?」
久人の言葉に、聡一郎の思考が止まる。
「兄ちゃんの身体。俺にも抱かせてよ」
熱っぽく囁かれ、肌をまさぐられる。性器を直に握られ、噛みつくような口づけを全身に受けた。
「やめなさい…っ、久人っ」
乱暴に性器を擦られながら、乳首を吸われる。
「本当に嫌?こんなに、熱いのに?」
久人に問われ、聡一郎はすぐには答えられなかった。聡一郎は、無意識に久人を男として見ている。その指に反応してしまったのは事実だ。実の弟なのに…。
「兄ちゃんの事、ずっとずっと好きだった。兄ちゃんさえいれば、それで良かったんだ」
浴衣を剥かれ、久人の前に全裸を晒すはめになった。視姦とはこういう事を言うのかと、聡一郎はどこか冷静に考えていた。欲望を持った瞳が、乳首や性器を犯していくのだ。触れられてもいないのに、聡一郎は久人に抱かれているような錯覚を覚えた。
(いけない。このままでは…)
聡一郎は、なんとか久人を落ち着かせようとした。だが、答えは一つしかない。この身体を好きにさせる事だけなのだ。
「…狭そうだな」
うつ伏せにされたまま両足を広げられ、聡一郎は羞恥から目を伏せた。空気に晒された蕾は小さく、久人の小指さえ拒絶しそうだ。マジマジと見つめられ、息を吹き掛けられ、聡一郎は短い悲鳴を上げながら前を昂らせた。
「濡らせば、入るかな」
独り言のように呟いた久人が、ヌルッと舌を入れてくる。
「久人…っ、あっ、やめなさい…っ」
ペチャペチャという音に、聡一郎は耳まで真っ赤になった。まさか弟にそんな場所を舐められるなんて、考えもしなかったのだ。だが、聡一郎が止めようとすればするほど久人の行為は激しくなった。久人の唾液が、太ももの裏を伝っていく。久人の小指がツッと聡一郎の蕾の中へと入る。そして、中を探るように蠢いた。
「いた…っ」
聡一郎が悲鳴を上げれば、慌てて久人が指を引き抜く。
「ご、ごめん」
こんな所ばかり子供っぽい久人を、聡一郎は突き放す事ができなかった。
「仕方がない子だ…」
もし久人がひどい人間なら、聡一郎だって拒絶できたのに。自分を慕う弟を、聡一郎は受け入れる事に決めた。
「待っていなさい」
聡一郎は自身の指を濡らすと、そのまま固い蕾を自ら柔らかく解していく。久人の喉がゴクッと鳴った。
「んっ。あ…っ」
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかった。弟の見ている前で、尻の間に指を入れているなんて。そんな日が来るなんて、考えた事もなかった。やがて、蕾には指が3本入るまでになった。
「もう、いいよ。そのまま、おいで」
聡一郎は、久人の筋肉がついたたくましい背中を抱き締めるように引き寄せた。そして、貪るように口づけながら1つになった。久人の若い雄は、ほどよい抵抗を受けながらも蕾の奥へと入っていく。たまらない圧迫感と快楽を、聡一郎は実弟から与えられた。その事実は、聡一郎の理性を崩していく。久人の腰の動きが激しさを増す。それは、終わりが近い事を聡一郎に教えていた。
「久人…っ、それだけはダメ…っ」
久人が聡一郎の中へ射精しようとしているのを感じて、聡一郎が慌てて止める。せめて、それだけは兄弟でしてはならないと思ったからだ。だが、怖いぐらい真剣に見つめられ、身体の力が抜けた。
「もう、遅い」
「久人っ」
逃げようとする腰を捕まれ、連続で射精された。聡一郎は、生暖かい感触に現実を受け止められなかった。
「兄ちゃんが、俺のために男娼になった事は知ってる」
久人の指が、聡一郎の裸の胸をまさぐる。胸から、更に下の方へと。
布団の中で、聡一郎は久人に背中を向けて目を閉じた。兄として、弟の行為は止めなきゃならなかったのに。触れられた場所は熱く疼き、そこから力が抜けてしまった。気がつくと、広い背中にしがみつき、自分の中を出入りする熱棒に声をあげていた。もっととねだり、より深く繋がった。兄として、自分は失格だと思った。
「最初は、心のどこかで軽蔑していたんだ。兄ちゃんが男に抱かれている事を」
15歳になった久人は、聡一郎へと会いに向かった。だが、丁稚先と聞かされた場所に聡一郎はいなかった。その帰り道、男娼が客引きしている場面に出くわした。そこで見たのは、綺麗に着飾り男に媚びを売る聡一郎の姿だった。
「そんな金、突っ返してやろうと思ったんだ」
一言文句を言わなければ気がすまないと考えた久人は、翌日に再びその店へと向かった。そこで見たのは、裏口で膝を抱え泣いている聡一郎の姿だった。乱れた長い髪を直す事もせず、声を出さずに泣いていた。久人は、声をかける事さえできなかった。
「あの時の兄ちゃんの姿が忘れられなかった。気がついたら、兄ちゃんの事ばかり考えていた」
久人は聡一郎の首筋に顔を埋めると、昂った自身を後ろから押し当てた。
「俺、1人でする時はいつも兄ちゃんの事を想像してた」
久人の唇が、聡一郎の耳や項、首筋へと埋められる。
「最初は、自分が変なんだと思った。兄ちゃんとこんな事をしたいって思うなんて、変態だって悩んだんだ。でも、止められなかった」
「久人」
腰に押し付けられる熱さに、聡一郎は目を閉じた。久人の想いを、拒めるはずなどなかった。グッと腰が引き寄せられ、一気に貫かれる。
「はあっ、あっ、あっ」
「兄ちゃん、俺だけのものになってよ」
激しく揺さぶられながら、聡一郎は快楽に満ちた声を上げ続けた。久人の指の気持ちよさに、聡一郎は我を忘れてしまった。
兄弟の許されない行為は、朝まで止まる事はなかった。
狭い家の中に、2人分の喘ぎ声と交わった場所が生み出す粘着質な音が響いている。布団は敷いてあるものの、その激しい動きにズレてしまいなんの意味もない。
「う…っ、あっ、あっ、久人っ、もう、無理…っ、あっ」
後ろから激しく突かれながら、聡一郎は必死に手を伸ばして逃げようとする。だが、久人はそれを許さなかった。力づくで聡一郎の細い腰を引き寄せて、更に交わりを深くする。聡一郎の唇からは、苦痛とも快楽ともわからない声が響いた。
「ああっ、や…っ」
「ダメだよ。兄ちゃん、俺から逃げようとするなんて…っ」
様々な体位で交わってきたが、久人は獣のようなこの体勢を気に入っているらしい。後ろから激しく攻めながら、前をたっぷりとかわいがる事ができるからだ。やがて聡一郎の内部がキュッと締まり、久人が精を吐き出す。
「ふっ、あっ、あっ」
ビクビク震える聡一郎を抱き締めながら射精するのが、久人はたまらなく好きだった。自分の体液を注ぐ事で、久人は聡一郎を独り占めしているのだ。
「兄ちゃん?兄ちゃん?ごめん、久しぶりだから、飛ばしすぎた」
ぐったりと横たわる聡一郎から、久人は慌てて自身を引き抜いた。だが、聡一郎の意識はないらしく何度も揺さぶったが返事はない。
(こんな風にしたいわけじゃないんだ)
聡一郎に会うといつもこうだ。限界までその身体を貪り、聡一郎を泣かせてしまう。
(本当は、毎日だって会いたいのに…)
久人にとって、聡一郎は幼い頃から慕っていた兄であり、恋焦がれた相手だ。許されない関係だとわかっていたが、自身を抑える事ができない。
意識のない聡一郎の身体をじっくりと眺める。他の人間には、こんな気持ちにはならない。聡一郎だから興奮するのだ。
(どんな風に、抱かれていたんだろう)
男娼だった頃、聡一郎はいろんな男に抱かれていたはずだ。
(そんな過去。俺が忘れさせてやる)
聡一郎を抱く度に、久人の独占欲は増していった。
「ご飯はちゃんと食べているのかい?仕事は大変だろ?」
性行為以外は、聡一郎と久人は普通の兄弟だった。さっきまでの乱れようが嘘のように、その会話はほのぼのとしていた。
「仕事は順調だよ」
銀行に勤める事になったと久人が言ったら、聡一郎は自分の事のように喜んだ。尾頭付きの鯛を焼き、ささやかなお祝いをした。
「母さんには、兄ちゃんが元気だって教えたよ」
ピクッと聡一郎の表情が強ばる。明るかった表情が一気に暗くなった。
「僕達がこんな関係になったなんて知ったら、母さんが悲しむだろうな」
「関係ないよ。俺達の気持ちが大事だろ?」
聡一郎の身体を抱き締めて、久人が口づける。背中に回された腕に、絡め合う舌に嘘も偽りもなかった。
「兄ちゃんの事を、愛してるんだ」
「僕だって、愛してる。でも…」
それ以上は、久人が言わせなかった。畳の上に押し倒し、強引に腰を捩じ込む。結局、夕飯は冷えてしまった。
ある日。久人は聡一郎の家から一人の男が出てくるのを見てしまった。洒落た背広を着こなしていて、フッと笑った顔がどこか気障っぽかった。聡一郎は、丁寧にお辞儀をするとその背中を見送った。
(誰だ?あいつ)
その後、聡一郎に何気なく尋ねるとかつての客だと教えられた。
「亮司さんと言ってね。変わり者だったよ」
亮司の事を話す時の聡一郎は、どこか嬉しそうだった。久人の胸がギュッと締め付けられる。
数日後。久人が聡一郎の家へと向かうと、いつもと何かが違った。扉を開けようとすれば、中から甘い声が聞こえる。
(まさか…っ)
そっと中を覗けば、信じられない光景が見えた。亮司と聡一郎が抱き合っているのだ。楽しそうに笑い合いながら、時折口づけを交わしていた。
「聡一郎。愛しているよ」
「亮司さん。僕も…」
その姿は、まさに恋人同士のようだ。
「どういう事だよっ」
久人が扉を開ければ、聡一郎が冷めた眼差しで振り向いた。床には数枚の札束が散らばっていた。久人は、怒りに満ちた眼差しを聡一郎に向けた。
「兄ちゃんは、金さえ貰えれば誰にだって足を開くのか?」
否定してほしかった。そうではないと言ってほしかった。久人を愛していると言ってくれたら、それでよかった。なのに、聡一郎は望む答えを言ってはくれなかった。
「兄ちゃんっ」
「…忘れたのかい?僕は男娼だったんだよ。お前も、僕を抱きたいなら今度からは金を持っておいで」
久人はそのまま聡一郎の家を後にした。2度とこの家の扉は開けないと決めて。美しく優しい兄は幻想だったのだ。その現実に、久人は泣き崩れた。
聡一郎の家に行かなくなって、半年という月日がたった。久人は仕事に精を出し、若いのにあっという間に出世した。来週には頭取の孫と見合いをする事になり、母親は涙を流して喜んでくれた。久人も、これでいいと思えた。聡一郎との関係は、一時の気の迷い。そう思う事で、失恋の痛手を忘れる事にした。
お得意様を回っていると、偶然にもあの男を見かけた。亮司と呼ばれ、聡一郎が微笑んでいたあの男。
「あれ?君は…」
亮司も久人を覚えていたらしい。どこか楽しげに目を細める。
「兄ちゃんは、元気ですか?」
怒りを鎮めて、なんとかそれだけは聞いた。亮司はさぁと首を傾げた。
「あれ以来、会ってはいないよ。全く、変な役をやらされたものだ」
クックッと亮司が楽しげに笑う。久人には、何がなんだかわからなかった。
「いきなり恋人の役をやってくれなんて。よくもまぁ、フッた男に頼めたものだよ」
それは、あまりにも衝撃的な言葉だった。聞けば、亮司はかつて聡一郎の客をしていたらしい。その美しさと生真面目さに惚れて、何度も口説いたそうだ。だが、いつも答えはわかっていた。
「まぁ。これも惚れた弱みだね」
「な、なんで兄ちゃんはそんな事を…」
久人が言うと、初めて亮司の眼差しが鋭くなった。いきなり胸ぐらを掴まれる。
「まだわからないのか?聡一郎は、君の為に身を引いたんだ。君の将来の為に…」
実の兄弟が恋に落ちるなんて、あってはならないのだ。そんな事が知られれば、久人は銀行員ではいられない。
「おっと。お喋りがすぎたかな」
亮司はニッと笑って去っていった。
久人は、仕事を放り出して聡一郎の家へと走った。今更、何を確かめたいというのか久人にもわからなかった。ただ、このままでは後悔するような気がして仕方なかったのだ。
久しぶりに訪れた聡一郎の家は、なんだかとても寂しく感じた。玄関が開き、聡一郎が子供達を見送っている。かなり痩せた、疲れた笑顔を浮かべて…。
「兄ちゃんっ」
声をかければ、慌てて聡一郎が扉を閉めようとする。久人は強引に中へ入ると、力一杯その細い身体を抱き締めた。
「何しにきたんだっ。帰りなさいっ」
「兄ちゃんっ」
「お前まで、日陰の道を選ぶなっ」
振り向いた聡一郎は、泣いていた。
久人は聡一郎を抱き締めると、何度も愛していると囁いた。
「急に怖くなったんだ」
久人の胸の中で、ポツリと聡一郎が呟く。
「お前を愛しながら、心のどこかで兄として間違っていると思っていた。お前には、家庭を持って普通に暮らして欲しかった」
「…俺は、兄ちゃんだけいればいい」
「ずっと、肩身の狭い生活をしなくてはいけないんだよ?」
小さな村というのは、噂は何よりも好物だ。亮司のような名家の出でも、ある事ない事言われてる。久人が中傷される姿なんて、聡一郎は見たくなかった。
「俺は、2度と兄ちゃんを離さない。見合いも断る」
「久人っ」
「離れられない。兄ちゃんを、忘れられないんだ」
久人は、泣き出した聡一郎を優しく宥めた。愛していると繰り返し伝え、優しく唇を重ねた。
やがて、聡一郎の手が久人の背中を抱く。
「仕方がない子だな」
泣きながら微笑む聡一郎を、久人は朝まで抱いた。互いに声が枯れるまで愛し合い、2度と離れないのでなないかというぐらい、奥深くで交わった。
それから、久人は聡一郎の家で暮らした。誰に何を言われても気にする事なく、ただひたすらに聡一郎を愛した。
「兄ちゃんっ。嫌だっ、行かないでっ、兄ちゃんっ」
故郷を離れる際、追いかけてくる久人の声が耳を離れない。2度と故郷には帰らないつもりで、。唯一の宝物は、幼い久人が一生懸命折った折り紙の兜だけだった。
来る日も来る日も男に抱かれ、多額の仕送りをした。月日が流れ、20歳となった聡一郎は男娼から足を洗った。久人が無事に留学したためだ。もう、男に抱かれる事はないのだ。贔負の客からは、愛人にならないかと誘われた。悪い人ではなかったが、好きにはなれなかった。穏やかに暮らしたいのだ。だが、故郷に帰る気持ちにもなれなかった。どんな顔をして母親や久人の顔を見ればいいのかわからない。小さな村へ辿り着いた聡一郎は、そこで暮らす事にした。
「聡一郎先生。これでいい?」
5年がたち、聡一郎は自宅で子供達に書道を教えて過ごした。優しくて分かりやすい説明が評判となり、村の人気者だ。
「今日はこれで終わり。皆、気を付けて帰りなさい」
「はーい」
女性のように細い輪郭に、艶やかな黒髪。筆で描いたような形のいい眉と薄く上品な唇。聡一郎の美しさは、近隣の女性達から羨望の眼差しで見られていた。不意に背後に人影を感じ、聡一郎は生徒の1人だと思いなんの疑いもなく振り向く。
「どうかし…」
言いかけた聡一郎は、そのまま固まった。そこには、1人の青年が立っていた。背が高く、なにかを言いたげに開けられた唇。ふと見れば、唇の横には小さなホクロがあった。
「…久人、だね?」
聡一郎が静かに問えば、久人が弾かれたように顔を上げた。そして、困惑したような笑みを浮かべる。
「久しぶり、兄ちゃん」
久人が大きな腕を広げて抱きついてくる。その背中を、聡一郎は複雑な思いで抱き締めた。
「…大きくなったね」
聡一郎の記憶の中では、久人はいまだに10歳の頃のままだった。丸顔で、どんぐりのような瞳。いつも額や頬を擦りむいては泣いていた。それが今や、160cmの聡一郎を遥かに越える身長となり、広い肩幅とがっしりした胴を持っていてすっかり大人の男になっていた。
「日本へはいつ?」
「3ヶ月前だよ。兄ちゃんのおかげで、しっかり勉強できた」
「母さんは元気かい?」
「元気、元気。今は町内会の副会長をしているよ」
「へぇ」
小さなちゃぶ台に向かい合って座り、聡一郎は久人に温かな麦茶を出した。
「兄ちゃんの事、心配してた」
「…そう」
記憶の中の母親は、いつも疲れた顔をしていた。だが、聡一郎と久人に向ける笑顔はとても優しかった。聡一郎が丁稚奉公に行くと言ったら、心配そうに抱き締めてくれた。
「なんで帰ってこないんだ?母さん、待ってるよ」
久人が聡一郎の薄い肩を掴む。太くたくましい指の感触に、改めて久人の成長を感じた。
「そのうち帰るよ」
聡一郎は笑って誤魔化すと、夕食に誘った。その夜。聡一郎はいつもより豪華な食事を作り、酒を酌み交わした。
「あの久人と酒を飲んでいるなんて、なんだか夢みたいだ」
「何回言うんだよ。それ」
離れていた時間が嘘のように、2人は夜遅くまで語り合った。
「今日は泊まっていきなさい。夜も遅い」
とはいうものの、布団は1つしかない。ふと空気が変わるのを聡一郎は肌で感じた。振り向けば、久人の瞳に光が宿っている。それは、聡一郎にとっては馴染みのある輝きだ。
(まさか…)
久人は、明らかに聡一郎を性の対象として見ている。これまで聡一郎を抱いた男達と、同じ目をしているのだ。
聡一郎は、すぐに離れなくては危険だと本能で悟った。
「僕は居間で寝るから。ゆっくり休むんだよ」
急いで部屋を出ようとした聡一郎の手首を久人が掴む。その思った以上の力強さに、聡一郎の鼓動が大きく跳ねた。ほんの一瞬だけ見つめ合った瞳は、聡一郎の身体の奥を疼かせた。
「久人っ。手を、離しなさい」
声が勝手に震える。なぜだかわからないが、逆らう事ができなかった。
「嫌だ」
久人が、グイッと聡一郎を引き寄せる。聡一郎は、倒れ込むように久人の腕の中へと落ちた。
「ん…っ」
久人に口づけされながら布団に押し倒されても、聡一郎は抵抗ができなかった。上から久人が覆い被さってくる。
「兄ちゃん。男娼してたんだろ?男に、抱かれてたんだろ?」
久人の言葉に、聡一郎の思考が止まる。
「兄ちゃんの身体。俺にも抱かせてよ」
熱っぽく囁かれ、肌をまさぐられる。性器を直に握られ、噛みつくような口づけを全身に受けた。
「やめなさい…っ、久人っ」
乱暴に性器を擦られながら、乳首を吸われる。
「本当に嫌?こんなに、熱いのに?」
久人に問われ、聡一郎はすぐには答えられなかった。聡一郎は、無意識に久人を男として見ている。その指に反応してしまったのは事実だ。実の弟なのに…。
「兄ちゃんの事、ずっとずっと好きだった。兄ちゃんさえいれば、それで良かったんだ」
浴衣を剥かれ、久人の前に全裸を晒すはめになった。視姦とはこういう事を言うのかと、聡一郎はどこか冷静に考えていた。欲望を持った瞳が、乳首や性器を犯していくのだ。触れられてもいないのに、聡一郎は久人に抱かれているような錯覚を覚えた。
(いけない。このままでは…)
聡一郎は、なんとか久人を落ち着かせようとした。だが、答えは一つしかない。この身体を好きにさせる事だけなのだ。
「…狭そうだな」
うつ伏せにされたまま両足を広げられ、聡一郎は羞恥から目を伏せた。空気に晒された蕾は小さく、久人の小指さえ拒絶しそうだ。マジマジと見つめられ、息を吹き掛けられ、聡一郎は短い悲鳴を上げながら前を昂らせた。
「濡らせば、入るかな」
独り言のように呟いた久人が、ヌルッと舌を入れてくる。
「久人…っ、あっ、やめなさい…っ」
ペチャペチャという音に、聡一郎は耳まで真っ赤になった。まさか弟にそんな場所を舐められるなんて、考えもしなかったのだ。だが、聡一郎が止めようとすればするほど久人の行為は激しくなった。久人の唾液が、太ももの裏を伝っていく。久人の小指がツッと聡一郎の蕾の中へと入る。そして、中を探るように蠢いた。
「いた…っ」
聡一郎が悲鳴を上げれば、慌てて久人が指を引き抜く。
「ご、ごめん」
こんな所ばかり子供っぽい久人を、聡一郎は突き放す事ができなかった。
「仕方がない子だ…」
もし久人がひどい人間なら、聡一郎だって拒絶できたのに。自分を慕う弟を、聡一郎は受け入れる事に決めた。
「待っていなさい」
聡一郎は自身の指を濡らすと、そのまま固い蕾を自ら柔らかく解していく。久人の喉がゴクッと鳴った。
「んっ。あ…っ」
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかった。弟の見ている前で、尻の間に指を入れているなんて。そんな日が来るなんて、考えた事もなかった。やがて、蕾には指が3本入るまでになった。
「もう、いいよ。そのまま、おいで」
聡一郎は、久人の筋肉がついたたくましい背中を抱き締めるように引き寄せた。そして、貪るように口づけながら1つになった。久人の若い雄は、ほどよい抵抗を受けながらも蕾の奥へと入っていく。たまらない圧迫感と快楽を、聡一郎は実弟から与えられた。その事実は、聡一郎の理性を崩していく。久人の腰の動きが激しさを増す。それは、終わりが近い事を聡一郎に教えていた。
「久人…っ、それだけはダメ…っ」
久人が聡一郎の中へ射精しようとしているのを感じて、聡一郎が慌てて止める。せめて、それだけは兄弟でしてはならないと思ったからだ。だが、怖いぐらい真剣に見つめられ、身体の力が抜けた。
「もう、遅い」
「久人っ」
逃げようとする腰を捕まれ、連続で射精された。聡一郎は、生暖かい感触に現実を受け止められなかった。
「兄ちゃんが、俺のために男娼になった事は知ってる」
久人の指が、聡一郎の裸の胸をまさぐる。胸から、更に下の方へと。
布団の中で、聡一郎は久人に背中を向けて目を閉じた。兄として、弟の行為は止めなきゃならなかったのに。触れられた場所は熱く疼き、そこから力が抜けてしまった。気がつくと、広い背中にしがみつき、自分の中を出入りする熱棒に声をあげていた。もっととねだり、より深く繋がった。兄として、自分は失格だと思った。
「最初は、心のどこかで軽蔑していたんだ。兄ちゃんが男に抱かれている事を」
15歳になった久人は、聡一郎へと会いに向かった。だが、丁稚先と聞かされた場所に聡一郎はいなかった。その帰り道、男娼が客引きしている場面に出くわした。そこで見たのは、綺麗に着飾り男に媚びを売る聡一郎の姿だった。
「そんな金、突っ返してやろうと思ったんだ」
一言文句を言わなければ気がすまないと考えた久人は、翌日に再びその店へと向かった。そこで見たのは、裏口で膝を抱え泣いている聡一郎の姿だった。乱れた長い髪を直す事もせず、声を出さずに泣いていた。久人は、声をかける事さえできなかった。
「あの時の兄ちゃんの姿が忘れられなかった。気がついたら、兄ちゃんの事ばかり考えていた」
久人は聡一郎の首筋に顔を埋めると、昂った自身を後ろから押し当てた。
「俺、1人でする時はいつも兄ちゃんの事を想像してた」
久人の唇が、聡一郎の耳や項、首筋へと埋められる。
「最初は、自分が変なんだと思った。兄ちゃんとこんな事をしたいって思うなんて、変態だって悩んだんだ。でも、止められなかった」
「久人」
腰に押し付けられる熱さに、聡一郎は目を閉じた。久人の想いを、拒めるはずなどなかった。グッと腰が引き寄せられ、一気に貫かれる。
「はあっ、あっ、あっ」
「兄ちゃん、俺だけのものになってよ」
激しく揺さぶられながら、聡一郎は快楽に満ちた声を上げ続けた。久人の指の気持ちよさに、聡一郎は我を忘れてしまった。
兄弟の許されない行為は、朝まで止まる事はなかった。
狭い家の中に、2人分の喘ぎ声と交わった場所が生み出す粘着質な音が響いている。布団は敷いてあるものの、その激しい動きにズレてしまいなんの意味もない。
「う…っ、あっ、あっ、久人っ、もう、無理…っ、あっ」
後ろから激しく突かれながら、聡一郎は必死に手を伸ばして逃げようとする。だが、久人はそれを許さなかった。力づくで聡一郎の細い腰を引き寄せて、更に交わりを深くする。聡一郎の唇からは、苦痛とも快楽ともわからない声が響いた。
「ああっ、や…っ」
「ダメだよ。兄ちゃん、俺から逃げようとするなんて…っ」
様々な体位で交わってきたが、久人は獣のようなこの体勢を気に入っているらしい。後ろから激しく攻めながら、前をたっぷりとかわいがる事ができるからだ。やがて聡一郎の内部がキュッと締まり、久人が精を吐き出す。
「ふっ、あっ、あっ」
ビクビク震える聡一郎を抱き締めながら射精するのが、久人はたまらなく好きだった。自分の体液を注ぐ事で、久人は聡一郎を独り占めしているのだ。
「兄ちゃん?兄ちゃん?ごめん、久しぶりだから、飛ばしすぎた」
ぐったりと横たわる聡一郎から、久人は慌てて自身を引き抜いた。だが、聡一郎の意識はないらしく何度も揺さぶったが返事はない。
(こんな風にしたいわけじゃないんだ)
聡一郎に会うといつもこうだ。限界までその身体を貪り、聡一郎を泣かせてしまう。
(本当は、毎日だって会いたいのに…)
久人にとって、聡一郎は幼い頃から慕っていた兄であり、恋焦がれた相手だ。許されない関係だとわかっていたが、自身を抑える事ができない。
意識のない聡一郎の身体をじっくりと眺める。他の人間には、こんな気持ちにはならない。聡一郎だから興奮するのだ。
(どんな風に、抱かれていたんだろう)
男娼だった頃、聡一郎はいろんな男に抱かれていたはずだ。
(そんな過去。俺が忘れさせてやる)
聡一郎を抱く度に、久人の独占欲は増していった。
「ご飯はちゃんと食べているのかい?仕事は大変だろ?」
性行為以外は、聡一郎と久人は普通の兄弟だった。さっきまでの乱れようが嘘のように、その会話はほのぼのとしていた。
「仕事は順調だよ」
銀行に勤める事になったと久人が言ったら、聡一郎は自分の事のように喜んだ。尾頭付きの鯛を焼き、ささやかなお祝いをした。
「母さんには、兄ちゃんが元気だって教えたよ」
ピクッと聡一郎の表情が強ばる。明るかった表情が一気に暗くなった。
「僕達がこんな関係になったなんて知ったら、母さんが悲しむだろうな」
「関係ないよ。俺達の気持ちが大事だろ?」
聡一郎の身体を抱き締めて、久人が口づける。背中に回された腕に、絡め合う舌に嘘も偽りもなかった。
「兄ちゃんの事を、愛してるんだ」
「僕だって、愛してる。でも…」
それ以上は、久人が言わせなかった。畳の上に押し倒し、強引に腰を捩じ込む。結局、夕飯は冷えてしまった。
ある日。久人は聡一郎の家から一人の男が出てくるのを見てしまった。洒落た背広を着こなしていて、フッと笑った顔がどこか気障っぽかった。聡一郎は、丁寧にお辞儀をするとその背中を見送った。
(誰だ?あいつ)
その後、聡一郎に何気なく尋ねるとかつての客だと教えられた。
「亮司さんと言ってね。変わり者だったよ」
亮司の事を話す時の聡一郎は、どこか嬉しそうだった。久人の胸がギュッと締め付けられる。
数日後。久人が聡一郎の家へと向かうと、いつもと何かが違った。扉を開けようとすれば、中から甘い声が聞こえる。
(まさか…っ)
そっと中を覗けば、信じられない光景が見えた。亮司と聡一郎が抱き合っているのだ。楽しそうに笑い合いながら、時折口づけを交わしていた。
「聡一郎。愛しているよ」
「亮司さん。僕も…」
その姿は、まさに恋人同士のようだ。
「どういう事だよっ」
久人が扉を開ければ、聡一郎が冷めた眼差しで振り向いた。床には数枚の札束が散らばっていた。久人は、怒りに満ちた眼差しを聡一郎に向けた。
「兄ちゃんは、金さえ貰えれば誰にだって足を開くのか?」
否定してほしかった。そうではないと言ってほしかった。久人を愛していると言ってくれたら、それでよかった。なのに、聡一郎は望む答えを言ってはくれなかった。
「兄ちゃんっ」
「…忘れたのかい?僕は男娼だったんだよ。お前も、僕を抱きたいなら今度からは金を持っておいで」
久人はそのまま聡一郎の家を後にした。2度とこの家の扉は開けないと決めて。美しく優しい兄は幻想だったのだ。その現実に、久人は泣き崩れた。
聡一郎の家に行かなくなって、半年という月日がたった。久人は仕事に精を出し、若いのにあっという間に出世した。来週には頭取の孫と見合いをする事になり、母親は涙を流して喜んでくれた。久人も、これでいいと思えた。聡一郎との関係は、一時の気の迷い。そう思う事で、失恋の痛手を忘れる事にした。
お得意様を回っていると、偶然にもあの男を見かけた。亮司と呼ばれ、聡一郎が微笑んでいたあの男。
「あれ?君は…」
亮司も久人を覚えていたらしい。どこか楽しげに目を細める。
「兄ちゃんは、元気ですか?」
怒りを鎮めて、なんとかそれだけは聞いた。亮司はさぁと首を傾げた。
「あれ以来、会ってはいないよ。全く、変な役をやらされたものだ」
クックッと亮司が楽しげに笑う。久人には、何がなんだかわからなかった。
「いきなり恋人の役をやってくれなんて。よくもまぁ、フッた男に頼めたものだよ」
それは、あまりにも衝撃的な言葉だった。聞けば、亮司はかつて聡一郎の客をしていたらしい。その美しさと生真面目さに惚れて、何度も口説いたそうだ。だが、いつも答えはわかっていた。
「まぁ。これも惚れた弱みだね」
「な、なんで兄ちゃんはそんな事を…」
久人が言うと、初めて亮司の眼差しが鋭くなった。いきなり胸ぐらを掴まれる。
「まだわからないのか?聡一郎は、君の為に身を引いたんだ。君の将来の為に…」
実の兄弟が恋に落ちるなんて、あってはならないのだ。そんな事が知られれば、久人は銀行員ではいられない。
「おっと。お喋りがすぎたかな」
亮司はニッと笑って去っていった。
久人は、仕事を放り出して聡一郎の家へと走った。今更、何を確かめたいというのか久人にもわからなかった。ただ、このままでは後悔するような気がして仕方なかったのだ。
久しぶりに訪れた聡一郎の家は、なんだかとても寂しく感じた。玄関が開き、聡一郎が子供達を見送っている。かなり痩せた、疲れた笑顔を浮かべて…。
「兄ちゃんっ」
声をかければ、慌てて聡一郎が扉を閉めようとする。久人は強引に中へ入ると、力一杯その細い身体を抱き締めた。
「何しにきたんだっ。帰りなさいっ」
「兄ちゃんっ」
「お前まで、日陰の道を選ぶなっ」
振り向いた聡一郎は、泣いていた。
久人は聡一郎を抱き締めると、何度も愛していると囁いた。
「急に怖くなったんだ」
久人の胸の中で、ポツリと聡一郎が呟く。
「お前を愛しながら、心のどこかで兄として間違っていると思っていた。お前には、家庭を持って普通に暮らして欲しかった」
「…俺は、兄ちゃんだけいればいい」
「ずっと、肩身の狭い生活をしなくてはいけないんだよ?」
小さな村というのは、噂は何よりも好物だ。亮司のような名家の出でも、ある事ない事言われてる。久人が中傷される姿なんて、聡一郎は見たくなかった。
「俺は、2度と兄ちゃんを離さない。見合いも断る」
「久人っ」
「離れられない。兄ちゃんを、忘れられないんだ」
久人は、泣き出した聡一郎を優しく宥めた。愛していると繰り返し伝え、優しく唇を重ねた。
やがて、聡一郎の手が久人の背中を抱く。
「仕方がない子だな」
泣きながら微笑む聡一郎を、久人は朝まで抱いた。互いに声が枯れるまで愛し合い、2度と離れないのでなないかというぐらい、奥深くで交わった。
それから、久人は聡一郎の家で暮らした。誰に何を言われても気にする事なく、ただひたすらに聡一郎を愛した。
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