大嫌いな奴とBLを演じる事になりました

すいかちゃん

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第四話

会いたくてたまらない

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撮影が終わって1週間がたった。護は、新しいドラマや舞台が決まったりと忙しい日々を送っている。そして、尚人もまたアイドルとして充実した日々を過ごしているようだった。

『朝寝坊してない?僕が起こしてあげよっか?』

CMの中で、尚人がパジャマ姿で微笑んでいる。その微笑みを見る度に、護の胸が苦しくなった。
(ここで、あいつを抱いたんだな)
ベッドに寝転べば、嫌でもその時の光景が甦る。甘く乱れた表情や、すがるような指の感覚。鼻をくすぐる汗の匂い。まるで昨日の事のように覚えている。
(でも、それだけじゃなかった)
尚人とは、ここでいろんな話をした。芸能界で味わった喜びも挫折も、全て…。ずっと隣に居てくれると、どこかで勝手に思っていた。だが、撮影が終わればそれまでだ。テレビ局の廊下ですれ違う事さえない。
アイドルとして、歌って踊る尚人はとっても生き生きしていた。メンバー同士が顔を近づける度に、嫉妬で護はどうにかなってしまいそうだった。
(他の奴とも、あんな事をしているのかな?)
尚人の口振りでは、男とヤる事に抵抗を感じていないらしい。あの行為は、尚人にとって欲求不満を解消するためのものなのだろうか。
映画のラスト。台本になかったセリフとキス。なぜ尚人はあんな事をしたのだろう。なぜ、自分はこんなにも尚人に会いたいのだろう。護は、落ち着かない日々を送った。
「よっ。護」
尚人に会えない日々にイライラしていた護は、ある日、同期の前野と出くわした。お喋り好きで口の軽い前野とは、正直あまり話したくはなかった。
「なんの用だ?」
「なぁ、どうだった?藤村尚人とキスしたんだろ?」
ニヤニヤしながら聞かれ、護は内心ムッとした。あの映画は、孤独だったサラリーマンと妖精の切ない純愛なのだ。それを、そんな風に汚さないで欲しい。護はあえてそっけない態度をとった。
「別に」
「冷たい奴だな。さぞかし藤村もガッカリしただろう」
「は?」
キョトンとする護に、前野が大袈裟に驚く。
「知らなかったのかよ。藤村がこの業界に入ったのは、お前に会うためだったんだぜ」
前野の言葉に、護は真っ白になった。
知り合いのディレクターに頼み込んで、数年前のインタビュー動画を見せてもらった。そこには、デビューしたばかりの尚人が緊張した面持ちで座っている。そして、憧れの人を聞かれた尚人は迷わず護の名前を挙げた。

『吉川護さんの、全てが好きです。脇役なのに手を抜かないところや、役を自分のものにしてるところとか…』

周囲のアイドルやタレントから、趣味が悪いとからかわれても尚人は止めなかった。カメラに向かって、尚人がはにかんだ笑顔を見せる。

『吉川護さんが、とっても大好きなんです。吉川さんに会うために、僕は芸能界に入ったんです』

そのキラキラとした瞳と、ラストシーンの泣きそうな顔が重なる。まさかの考えが護を動かした。知り合いの知り合いの、更に知り合いになんとか頼み込んで護は尚人が住むマンションへと向かった。
(俺、なんでこんなに鈍いんだっ)
尚人は、ずっと自分の事が好きだったのだ。思い返せば、初めて抱いた時に尚人を震えていた。口や態度は大きかったが、護が挿入する直前。不安そうな顔をしていた。つまり、初めてだったのだ。なのに、平気な顔をして。護は、今すぐ尚人に会いたかった。会って、自分の気持ちを告げたかった。
バスとタクシーを使ってやっとついた尚人のマンションは、護よりも遥かに立派だった。教えてもらった部屋番号を押そうとした時。
「護さん?」
戸惑ったような尚人の声がした。
それもそのはず、護は10月だというのに半袖にデニムという軽装なのだ。
「と、とにかく早く入ってください。風邪を引きます」
部屋に向かうエレベーターの中で、2人は無言だった。無言なのに、その空気はどこか心地よくてたまらなかった。
「ここです」
尚人が鍵を開けてドアを開ける。護は、ドアが閉まると同時に尚人を抱き締めた。首筋に顔を埋め、久しぶりの香りを胸一杯に吸い込む。
言葉なんて、いらなかった。
護と尚人は、どちらからともなくキスをした。互いの背中をかき抱き、やがて床に倒れ込んだ。
どんなに会いたかったか、どんなに求めていたのかは、言葉よりも身体で伝えたかったから。時に、身体は言葉では伝えきれない事を伝えてくれる。
護と尚人は、朝まで互いを離さなかった。

「最初に吉川さんを見たのは、5年前の刑事ドラマでした」
「って、殆ど出てないぜ?」
まだ駆け出しだった護の役は、お調子者の交番のお巡りさんだった。ベテラン刑事の話し相手で、さりげなくその会話がヒントになるのだ。だが、出演シーンはほんの数秒。帽子も被っているため、顔さえほぼ映らなかった。だが、尚人は嬉しそうに首を振る。
「そのたった数秒のシーンを、一生懸命演じているのがとても素敵だと思ったんです」
尚人は、どうしても護を側で見たかった。護と同じ空間にいたかったのだ。
「きっとこの人は演じる事がとても好きなんだと思いました。そして、ずっと護さんを見ているうちに、どんどん好きになっていって…」
尚人が顔を真っ赤にして告白する。
幼い頃から、恋愛対象が男性だった事。だから、告白は諦めていたらしい。
「映画で共演が決まって、キスシーンやベッドシーンもあるって知って…。本当は、僕の方が緊張していたんです」
尚人が照れたように笑う。
「おまけに、護さんからは嫌われていたし」
「あ、あれは、その…」
護がしどろもどろに言い訳をすれば、尚人がクスッと笑う。
「かなりショックだったんです」
ああでもしないと、本番を乗り切れなかったのだと尚人が言う。
「怒っていますか?」
「怒ってるよ。おかげで、気がついちまったじゃねーかっ」
護が尚人の肩を上から押さえつける。そして、驚いたような顔にキスをした。
「お前の事が好きだって、気付いちまった」
尚人が嬉しそうに笑う。そして、護の背中をギュッと抱き締めた。開いた両足の間に、護は躊躇わずに腰を進める。何度も抱き合ったのに、まだまだ足りなかった。
「今日は、ズル休みしちゃおっか?」
いたずらっぽい護の笑みに、尚人が頷く。
結局、風邪という事にして休む事にした。
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