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たとえこの関係が過ちでも・・・
「今夜も、私の部屋においで」
夕食後。家族に気づかれないように父が耳元で小さく囁く。その低く艶やかな声に、数馬はわかるように溜め息を吐いた。そして、40歳という年齢の割りには若い顔をしている父親を無表情で見つめた。数馬が拒絶の言葉を吐こうとすれば、まるでそれがわかっているかのように背を向けられる。
「待っているからね」
数馬には、逆らうことができなかった。母親や祖父母と談笑しながらも、この後の行為を想像し複雑な気持ちになった。
(どうしてこんなことに・・・)
風呂を出た数馬は、浴衣を羽織り自室とは反対の方へ向かう。
離れの扉を開けば、同じく浴衣姿の父親が、優しげな微笑みを浮かべて手招きした。近づけば、まるでそれが当たり前のように帯を解かれる。
「下着は付けてないだろうね?」
クスクス笑いながら、男にしては細く奇麗な指が浴衣を左右に開いた。
数馬の父親である杉田柊(しゅう)は、代々続く地主の1人息子だ。本人も50軒以上の不動産を所有していて、働くことなく優雅に暮らしている。1年のほとんどを屋敷内で過ごしているためか、その肌は白い。長い栗色の髪をひとまとめに縛り、着崩した浴衣で過ごす姿は、どこか浮世離れしていて、現実味がない。
「さぁ。ベッドに横になりなさい」
数馬は言われるがままベッドに寝転んだ。これから始まるのは、決して普通の親子ではしない行為だ。柊の顔がゆっくりと数馬の下腹部へと沈む。数馬は、父親からの愛撫に乱れるものの、声は出さなかった。声を出せば、感じていることを認める事になる。それが、数馬にはたまらなく嫌だった。
実の父親に愛撫され喜んでいるなんて、あってはならないのだから・・・。
やがて、柊が数馬の若い性器を体内へと沈めていく。
「あっ、はっ、ああっ」
甘い声を上げる美しい男が、実父だと数馬には思えなかった。
「んっ、はぁっ、あっ、んんっ、あっ」
数馬の上で、激しく腰をくねらせる柊の姿は妖艶で、見る者を淫靡な世界に誘った。息子である数馬さえ、うっかりするとその妖しさに魅了されてしまいそうだった。これまで、柊の身体を様々な男達が求めてきたのも理解できる。それぐらい柊の身体は甘く淫らだった。数馬が無意識に腰を使えば、柊が微笑む。
「上手に、なったね」
「くっ」
キュッと柊の入り口が締まり、数馬が果てる。柊が満足そうに微笑み、数馬に口づけしてきた。そして、再び腰を動かし始める。今夜は、まだ終わらないらしい。数馬は小さく溜め息を吐いた。
数馬が15歳の時から、5年以上こんな関係が続いている。
「もう、こんなことはやめよう。父さん」
朝になり、ベッドに腰かけた数馬が柊の方を見ずに言う。その小麦色の広い背中に、雪のような白い指が這わされた。指は、そのまま数馬の股間へと向かい、頭をもたげ始めた竿を愛撫し始める。
「父さん・・・っ」
「私の中に3回も出したくせに?」
クスクス笑いながら、柊の指先が数馬の勃ち上がりかけている股間をピンッと弾いた。
「お前が相手をしてくれないなら、今夜は誰とセックスをしようかな」
まるで夕食のメニューを決めるような言い方に、数馬は唇を噛み締めた。
数馬が柊の性癖を知ったのは、10歳の頃だった。勉強を教えてもらおうと離れへ向かうと、柊が見ず知らずの男に抱かれていたのだ。幼い数馬には、柊が何をしているのかはわからなかった。だが、見てはいけない事だけはわかった。
髪を乱し激しく喘ぐ柊の姿を数馬が呆然と見ていると、不意に柊と目が合った。我が子に情事を見られたというのに、柊は全く動揺してはいなかった。それどころか、ニッコリと微笑み手招きをしてきたのだ。なんだか、とてもイケナイものを見てしまったような気がして、数馬はその場から逃げ出した。柊の喘ぎ声がずっと聞こえてくるような気がして、その日は眠れなかった。
柊は、それからも様々な男と逢瀬を重ねていた。あるときは、集金に訪れた男と、あるときは近所の若者と。そして、家庭訪問に訪れた数馬の担任とも身体の関係を持っていたのだ。驚いたことに、柊の妻で、数馬の母親である絢子もその事を知っているようだった。知っていながら、変わらない微笑みで家族に接しているのだ。この家は異常だと感じながらも、数馬にはどうすることもできなかった。
『男と寝るのはやめてくれ』
高校生になった頃、数馬は泣きながら柊に懇願した。あらゆる男と淫らな時間を過ごす柊が、とにかく嫌だったのだ。すると、柊は数馬の泣き顔を両手で包み深く口づけてきた。そして、信じられない事を言い出した。
『だったら、お前が私を満足させなさい。お前も、男なのだから』
そして、親子でありながら数馬は柊のセフレになった。柊に恋愛感情はなかったが、他の男に抱かれるのかと思うと胸がざわついて仕方なかった。数馬は、自分の感情がわからなくなっていた。
数馬は、どうしてもこの関係を終わらせたかった。柊とは普通の親子関係に戻りたかったのだ。そこで、数馬はある作戦に出た。
「こちら、橘咲樹さん。俺の彼女なんだ」
両親と祖父母が揃っているときに、数馬は恋人を紹介した。咲樹は大学の後輩で、おしとやかで優しい女性だった。その控えめなところが気に入って、数馬から告白した。
黒く長い髪と、知性的な瞳をした咲樹の美しさに家族も喜んでくれた。
「数馬ったら。いつの間にこんな素敵な人を見つけたの?」
絢子がコロコロと笑いながら数馬と咲樹を交互に見る。
数馬は、柊の反応が気になってチラリと視線を向けた。柊はいつもと変わらぬ微笑みを浮かべ、特に何も変わらなかった。
数馬の胸の奥が、小さく痛んだ。
結局。柊にとって自分は息子でも恋人でもなく、単なるセフレだったのだ。そのことが、なぜか数馬を落胆させた。
「数馬。咲樹さんを温室に案内したらどうだい?」
柊の提案に咲樹が瞳を輝かせる。
「え?温室があるんですか?見たいです」
花が好きな柊が庭の端に建てさせた温室は、家庭のものとしてはかなり広い方だった。
珍しい花もたくさんあり、咲樹が楽しそうにあちこち見て回る。花に興味がない数馬には、何が楽しいのかさっぱりわからなかった。
「いいお嬢さんじゃないか」
「うん」
「私との関係を絶ちたいと言ったのは、彼女のためか?」
「そうだよ」
それは、半分本当で半分は嘘だ。こうでもしないと、数馬は柊に溺れそうだったのだ。父親を、愛してしまいそうだった。
「そんなに私とセックスしたくないのかい?」
柊は、ほんの一瞬だけ寂しそうな視線を数馬に向けた。その問いに数馬が答えられないと、柊はスッとその場に膝をついた。そして、数馬のジッパーを下げて指を差し込んでくる。
「父さんっ」
「シーッ。彼女に気づかれるよ」
柊は数馬のモノを外に出すと、舌で先端をチロチロと舐め始めた。もどかしい刺激に数馬が唇を噛み締める。今ここで柊を突き放すことはできるが、そうなると咲樹に何をしていたのか勘づかれてしまうかもしれない。数馬は、自分の股間に顔を埋める柊のたまらない舌技に小さく喘いだ。
「数馬さん?どうかしたの?」
数馬の声に咲樹が振り向く。背が高い植物のおかげで、咲樹から数馬の下半身が見えることはなかった。
「数馬さん?」
駆け寄ろうとする彼女に数馬が慌てていれば、スッと柊が立ち上がった。そして、数馬に力なくもたれかかる。
「すまない。立ちくらみを起こしてね」
「えっ。大丈夫ですか?」
近づこうとする咲樹を、数馬は慌てて制した。
「母屋に行って、このことを母さんに知らせてくれないか?俺が、父さんを運ぶよ」
「わかったわ」
咲樹が走り去ると、柊は再び数馬の股間を唇と舌で愛撫した。数馬は、咲樹がいなくなった安堵感からすぐに射精した。柊の形のいい唇の端から、白い液体がツーッと地面に垂れていく。
「今夜も待っているよ」
柊は数馬に軽くキスをすると、涼し気な顔で温室を出ていった。数馬は、柊の愛撫に感じてしまう自分の身体が、たまらなく嫌だった。
数馬が咲樹と暮らすための家を借りたのは、それからしばらくたってのことだった。離れて暮らせば、柊だって諦めると思ったのだ。そして数馬も、柊へのあってはならない欲望を抑えられる。純粋に親子として接する事ができる。そう思っていた。
いつも優しく自分を支えてくれる咲樹。彼女となら、自分はやり直せると思っていた。普通に結婚して、明るい家庭を築くのだと。だが、現実はそう甘くはなかった。
「家を出た?嘘でしょ?」
咲樹は、数馬の言葉に目を見開いた。
「嘘じゃないよ。これからは、咲樹と2人で生きたいんだ。家とか関係なく」
数馬は、咲樹が喜んでくれると思ったのだ。だが、彼女は急に不機嫌になると、チッと舌打ちをした。
「さ、咲樹?」
「あんたが家を出たら、なんの意味もないじゃないっ。何勝手なことしてんのよっ。使えないわねっ」
「え?」
咲樹は声も口調もガラッと変わり、数馬の知らない女性になっていた。
「あーあ。玉の輿に乗れると思ったのに」
咲樹が数馬に近づいたのは、彼が金持ちの息子だったからだ。顔立ちもスタイルもいい。そのうえ金持ちなら、まさに申し分ない彼氏だ。彼女の目的は、数馬の家や資産だったのだ。
「さよなら。あんたに用はないわ」
咲樹は、数馬の制止さえ聞かず去っていった。
咲樹が去った後。数馬は1人新居にいた。ガランとしてなにもない部屋。まさに、今の数馬そのものだった。
どれぐらいそうしていたのか。窓の外が暗くなってきた頃、不意に誰かが入ってきた。振り向くと、そこには柊がいた。照明をつけないまま、数馬は虚ろな眼差しを柊へと向ける。
「父さん」
「帰ろう。数馬」
すべてを知っているかのような言い方に、数馬は気がついたら柊を押し倒しその胸ぐらを掴んでいた。
「全部。全部父さんのせいだっ。なんで、母さんがいるのに男とばかりセックスをするんだっ。なんで、実の息子とこんな関係を続けるんだっ」
泣きながら揺さぶれば、柊の指が数馬の頬を優しく拭う。
こんな時だけ、普通の父親になるなんてずるいと思った。こんな風に優しくされたら、柊を憎めない。こんな風に優しく抱き締められたら、逆らえない。
「私が初めて男を知ったのは、まだ13歳の頃だった」
告白は淡々としていた。床に倒れこんだまま、柊の手が数馬の背中をゆっくり撫でる。
「相手は、父だった」
「じいちゃんが?」
信じられなかった。祖父はとても律儀で、紳士的で、タブーを犯すような人間ではない。だが、それが真実だった。
「夜になると、あの離れで犯された。どれだけ悲鳴をあげても、誰も助けてはくれなかったよ」
母親や使用人達は、父が息子に強いた淫らな関係を知っていた。だが、逆らうと家を出されるという不安からか、誰もが口を閉ざしていた。
「女も知らないうちに、私は男と交わる快楽を知った。同級生や教師、あらゆる男が私を欲し、その度に身体を開いてきた」
柊の瞳には、これまで数馬が見たことのない哀しみが浮かんでいた。
「だが、誰も私を愛してはくれなかったんだ」
実父は、同性愛を隠すためだけに我が子を犯し続けた。そこに、愛などなかった。ただ都合がいい相手だから。それだけだった。その事に気がついた柊は、涙さえ出なかった。
同級生や教師が柊を求めたのは、金持ちの息子だからだ。そうとも知らず、柊は甘い言葉を囁かれては身体を開いた。後に残るのは、虚しさだけだった。
唯一、自分を愛してくれると思った庭師の男も、単に仕事欲しさのためだった。ただ、肉体の相性が良かったため、その男とは度々身体を重ねた。
「絢子も、私の家柄だけで結婚した。私を愛してなどいなかったんだ」
「母さんが、まさか・・・っ」
いつも優しく微笑む母親の一面に、数馬は言葉を失った。
「初夜の日に言われたよ。私と結婚したのは家のためだと。愛など、なかったんだ」
柊は、ゆっくりと数馬の頬を撫でた。輪郭を確かめるように。
「お前が生まれた時は、とても嬉しかった」
柊は、父親としての笑みを浮かべた。
「お前だけが、純粋に私を慕ってくれた」
決して柊はいい父親ではなかった。なのに、数馬はまっすぐな瞳を向けてくれる。そのことが、柊には嬉しかったのだ。
「お前だけが、私自身を見てくれた」
数馬は、初めて柊の弱さと辛さを見た気がした。そして、彼が決して性欲を満たすためだけに自分と性的関係を持っていたわけではないこともわかった。
(俺は、父さんの何を見ていたんだろう)
数馬のなかで、柊への気持ちが形を変えていく。フローリングの床に押し倒しまま、深く柊に口付けた。ピクッと身体を震わせた柊が、すぐに情熱的に舌を絡めてくる。まるで、砂漠でオアシスを見つけた旅人のように、それは貪るような勢いだった。
数馬は、初めて自分から柊の身体を愛撫した。唇と指で感じる柊の身体は、少しでも力を入れれば折れてしまいそうなぐらい繊細だった。
襟を左右に割り、果実のような乳首をキュッと摘まめば、柊の口から甘い吐息がこぼれる。チラッと視線を向ければ、指を噛み締めて頬を赤くする柊がいた。
ドクンッと数馬の心臓と股間が反応した。それは、紛れもない欲情だ。どれだけ柊を遠ざけようとしても、所詮は無理なのだ。なぜなら、数馬の本能が柊
を求めていたから。
「父さんを、抱いてもいい?」
囁くと、柊が嬉しそうに頷く。数馬は、柊の中心へと迷わず顔を伏せた。
「数馬っ、あっ」
毎日のように柊にしてもらっていた行為を、まさか自分がするとは思っていなかった。だが、嫌悪は感じなかった。口の中で震える柊自身を、隅から隅まで愛した。
「あっ、はあっ、あっ、あぁぁぅあっ」
初めて、数馬から柊を貫いた。柊はフローリングに何度も背中を打ち付けながら、やがて数馬を締め付けて果てた。そして、数馬はありったけの想いを柊の中へと注いだ。
室内には、ハァハァという2人の息だけが響いている。
柊は数馬の耳に唇を寄せると、甘く囁いた。
「明日も、私を抱いてくれるか?」
数馬は、その言葉にもう逆らうことはなかった。どこまでも続く快楽の中に、柊と一緒に浸かることを心に決めた。
「父さんが望むだけ・・・」
そして、数馬は柊に誘われるまま唇を寄せた。
「数馬さん。この後、映画でも行きませんか?」
甘ったるい声に顔を上げれば、社長令嬢である相沢ユカリがモジモジしながら立っていた。数馬は、内心辟易しながらも、営業用のスマイルを浮かべる。
「ごめん。今日は早く帰らなきゃいけないんだ」
「え?でも、お母様から今日は・・・」
「それじゃ」
数馬は、ユカリの言葉を遮るように会社を出た。大学を卒業した数馬は、有名企業の相沢グループに就職した。母親同士が親友らしく、いつの間にかユカリとの交際がスタートしていたのだ。だが、数馬はユカリと交際する気などない。
「ただいま」
帰宅した数馬に、母親の絢子が目を丸くする。
「数馬。あなた、どうして・・・」
「悪いけど、彼女と結婚する気はないよ」
数馬は、まだ何か言いたげな絢子を無視して浴室へと向った。
風呂に入り浴衣を羽織った数馬は、足早に離れへと向かった。昔は、離れへと続く渡り廊下を歩く度に気が重かった。だが、今はその逆だ。早く離れへ行きたくて仕方がない。
「お帰り。数馬」
離れでは、お揃いの浴衣を着た柊が出窓に腰かけて微笑んでいる。40代後半とは思えない若い外見と、儚げな笑みがなんともいえず数馬の心を揺さぶった。
「疲れた顔をしているね。なにかあったのかい?」
気遣わしげな表情で近づいてくる柊を、数馬は黙って抱き締めた。すると、すぐに柊の細い指が頬を撫でて、ゆっくりと唇が重ねられる。
親子で、それも男同士ですることじゃない。わかってはいるが、数馬は柊との関係がやめられない。1人の人間として、数馬は柊を愛してしまったのだ。
絡み合う舌は甘く柔らかで、互いの身体をまさぐる指は止まることはなかった。
「今夜は、ずいぶん乱暴だね」
クスクス笑いながら、柊が数馬の背中を抱き締める。だが、すぐにその唇からは甘い吐息がこぼれた。
「早く、父さんが欲しかった」
不思議な事に、抱けば抱くほど数馬は柊の身体に溺れた。浴衣をはだけさせ、両足を抱える。そして、一気に貫いた。
「私も、お前が欲しかった・・・っ」
柊の、掠れた声が聞こえる。数馬は、その声に応えるように更に強く柊を貫いた。
「あっ、はぁっ、もっと、もっと激しく・・・っ」
柊が甘くねだる。
やがて、互いの熱が放たれ、穏やかな時間が訪れた。
「すまない」
行為の後。柊が白く細い指で小麦色の胸をゆっくりと撫でながら呟く。
「なんで、謝るの?」
「お前には、普通の幸せを与えたかったのに」
柊が声を出さずに泣く。数馬は、その髪を優しく撫でた。
「私が、お前を愛してしまったばかりに・・・」
数馬は、その先の言葉をキスで塞いだ。
「そんな風に、言わないでよ」
数馬は、柊だけが悪い訳ではないとわかっていた。柊を愛したのは自分の意思だ。強制されて愛した訳ではない。数馬は、声を出さずに泣き続ける柊を、ただただ抱き締めて慰めた。
「あなたは、いつまであの人とこんなことを続ける気なの」
深夜。キッチンで水を飲んでいれば、が後ろから鋭い視線を投げかけてくる。
やはり知っていたかと、数馬は内心溜め息を吐いた。薄々気がついていた。絢子は、柊と数馬の関係に気づいていることを。
「母さんには関係ない」
家のために結婚した母親に、あれこれと言われたくはなかった。数馬の言葉に、絢子は唇を噛み締めた。
「自分が何をしているのか、わかっているの?」
「わかってるさ。俺は父さんを愛している」
「数馬っ」
「母さんに責める資格があると?」
聞けば、絢子は口を閉ざした。愛を求める柊の手を拒んだのは、絢子自身なのだ。
「父さんは、ただ愛されたかっただけなんだ」
数馬は絢子に背中を向けると、柊が待つ離へと向った。
数馬が離れへ戻ると、ベッドの上で柊が不安げな表情を浮かべていた。
「大丈夫だよ、父さん」
数馬にとって、柊は父親であり弟のようであり、愛しい恋人だった。
「俺は、父さんを離したりしないよ」
囁けば、まるで幼い子供のような笑顔が返ってくる。この関係は、おそらく誰にも理解ができない。それでも構わないと数馬は思った。
自分達の愛は、自分達だけが知っていればいいと。
夕食後。家族に気づかれないように父が耳元で小さく囁く。その低く艶やかな声に、数馬はわかるように溜め息を吐いた。そして、40歳という年齢の割りには若い顔をしている父親を無表情で見つめた。数馬が拒絶の言葉を吐こうとすれば、まるでそれがわかっているかのように背を向けられる。
「待っているからね」
数馬には、逆らうことができなかった。母親や祖父母と談笑しながらも、この後の行為を想像し複雑な気持ちになった。
(どうしてこんなことに・・・)
風呂を出た数馬は、浴衣を羽織り自室とは反対の方へ向かう。
離れの扉を開けば、同じく浴衣姿の父親が、優しげな微笑みを浮かべて手招きした。近づけば、まるでそれが当たり前のように帯を解かれる。
「下着は付けてないだろうね?」
クスクス笑いながら、男にしては細く奇麗な指が浴衣を左右に開いた。
数馬の父親である杉田柊(しゅう)は、代々続く地主の1人息子だ。本人も50軒以上の不動産を所有していて、働くことなく優雅に暮らしている。1年のほとんどを屋敷内で過ごしているためか、その肌は白い。長い栗色の髪をひとまとめに縛り、着崩した浴衣で過ごす姿は、どこか浮世離れしていて、現実味がない。
「さぁ。ベッドに横になりなさい」
数馬は言われるがままベッドに寝転んだ。これから始まるのは、決して普通の親子ではしない行為だ。柊の顔がゆっくりと数馬の下腹部へと沈む。数馬は、父親からの愛撫に乱れるものの、声は出さなかった。声を出せば、感じていることを認める事になる。それが、数馬にはたまらなく嫌だった。
実の父親に愛撫され喜んでいるなんて、あってはならないのだから・・・。
やがて、柊が数馬の若い性器を体内へと沈めていく。
「あっ、はっ、ああっ」
甘い声を上げる美しい男が、実父だと数馬には思えなかった。
「んっ、はぁっ、あっ、んんっ、あっ」
数馬の上で、激しく腰をくねらせる柊の姿は妖艶で、見る者を淫靡な世界に誘った。息子である数馬さえ、うっかりするとその妖しさに魅了されてしまいそうだった。これまで、柊の身体を様々な男達が求めてきたのも理解できる。それぐらい柊の身体は甘く淫らだった。数馬が無意識に腰を使えば、柊が微笑む。
「上手に、なったね」
「くっ」
キュッと柊の入り口が締まり、数馬が果てる。柊が満足そうに微笑み、数馬に口づけしてきた。そして、再び腰を動かし始める。今夜は、まだ終わらないらしい。数馬は小さく溜め息を吐いた。
数馬が15歳の時から、5年以上こんな関係が続いている。
「もう、こんなことはやめよう。父さん」
朝になり、ベッドに腰かけた数馬が柊の方を見ずに言う。その小麦色の広い背中に、雪のような白い指が這わされた。指は、そのまま数馬の股間へと向かい、頭をもたげ始めた竿を愛撫し始める。
「父さん・・・っ」
「私の中に3回も出したくせに?」
クスクス笑いながら、柊の指先が数馬の勃ち上がりかけている股間をピンッと弾いた。
「お前が相手をしてくれないなら、今夜は誰とセックスをしようかな」
まるで夕食のメニューを決めるような言い方に、数馬は唇を噛み締めた。
数馬が柊の性癖を知ったのは、10歳の頃だった。勉強を教えてもらおうと離れへ向かうと、柊が見ず知らずの男に抱かれていたのだ。幼い数馬には、柊が何をしているのかはわからなかった。だが、見てはいけない事だけはわかった。
髪を乱し激しく喘ぐ柊の姿を数馬が呆然と見ていると、不意に柊と目が合った。我が子に情事を見られたというのに、柊は全く動揺してはいなかった。それどころか、ニッコリと微笑み手招きをしてきたのだ。なんだか、とてもイケナイものを見てしまったような気がして、数馬はその場から逃げ出した。柊の喘ぎ声がずっと聞こえてくるような気がして、その日は眠れなかった。
柊は、それからも様々な男と逢瀬を重ねていた。あるときは、集金に訪れた男と、あるときは近所の若者と。そして、家庭訪問に訪れた数馬の担任とも身体の関係を持っていたのだ。驚いたことに、柊の妻で、数馬の母親である絢子もその事を知っているようだった。知っていながら、変わらない微笑みで家族に接しているのだ。この家は異常だと感じながらも、数馬にはどうすることもできなかった。
『男と寝るのはやめてくれ』
高校生になった頃、数馬は泣きながら柊に懇願した。あらゆる男と淫らな時間を過ごす柊が、とにかく嫌だったのだ。すると、柊は数馬の泣き顔を両手で包み深く口づけてきた。そして、信じられない事を言い出した。
『だったら、お前が私を満足させなさい。お前も、男なのだから』
そして、親子でありながら数馬は柊のセフレになった。柊に恋愛感情はなかったが、他の男に抱かれるのかと思うと胸がざわついて仕方なかった。数馬は、自分の感情がわからなくなっていた。
数馬は、どうしてもこの関係を終わらせたかった。柊とは普通の親子関係に戻りたかったのだ。そこで、数馬はある作戦に出た。
「こちら、橘咲樹さん。俺の彼女なんだ」
両親と祖父母が揃っているときに、数馬は恋人を紹介した。咲樹は大学の後輩で、おしとやかで優しい女性だった。その控えめなところが気に入って、数馬から告白した。
黒く長い髪と、知性的な瞳をした咲樹の美しさに家族も喜んでくれた。
「数馬ったら。いつの間にこんな素敵な人を見つけたの?」
絢子がコロコロと笑いながら数馬と咲樹を交互に見る。
数馬は、柊の反応が気になってチラリと視線を向けた。柊はいつもと変わらぬ微笑みを浮かべ、特に何も変わらなかった。
数馬の胸の奥が、小さく痛んだ。
結局。柊にとって自分は息子でも恋人でもなく、単なるセフレだったのだ。そのことが、なぜか数馬を落胆させた。
「数馬。咲樹さんを温室に案内したらどうだい?」
柊の提案に咲樹が瞳を輝かせる。
「え?温室があるんですか?見たいです」
花が好きな柊が庭の端に建てさせた温室は、家庭のものとしてはかなり広い方だった。
珍しい花もたくさんあり、咲樹が楽しそうにあちこち見て回る。花に興味がない数馬には、何が楽しいのかさっぱりわからなかった。
「いいお嬢さんじゃないか」
「うん」
「私との関係を絶ちたいと言ったのは、彼女のためか?」
「そうだよ」
それは、半分本当で半分は嘘だ。こうでもしないと、数馬は柊に溺れそうだったのだ。父親を、愛してしまいそうだった。
「そんなに私とセックスしたくないのかい?」
柊は、ほんの一瞬だけ寂しそうな視線を数馬に向けた。その問いに数馬が答えられないと、柊はスッとその場に膝をついた。そして、数馬のジッパーを下げて指を差し込んでくる。
「父さんっ」
「シーッ。彼女に気づかれるよ」
柊は数馬のモノを外に出すと、舌で先端をチロチロと舐め始めた。もどかしい刺激に数馬が唇を噛み締める。今ここで柊を突き放すことはできるが、そうなると咲樹に何をしていたのか勘づかれてしまうかもしれない。数馬は、自分の股間に顔を埋める柊のたまらない舌技に小さく喘いだ。
「数馬さん?どうかしたの?」
数馬の声に咲樹が振り向く。背が高い植物のおかげで、咲樹から数馬の下半身が見えることはなかった。
「数馬さん?」
駆け寄ろうとする彼女に数馬が慌てていれば、スッと柊が立ち上がった。そして、数馬に力なくもたれかかる。
「すまない。立ちくらみを起こしてね」
「えっ。大丈夫ですか?」
近づこうとする咲樹を、数馬は慌てて制した。
「母屋に行って、このことを母さんに知らせてくれないか?俺が、父さんを運ぶよ」
「わかったわ」
咲樹が走り去ると、柊は再び数馬の股間を唇と舌で愛撫した。数馬は、咲樹がいなくなった安堵感からすぐに射精した。柊の形のいい唇の端から、白い液体がツーッと地面に垂れていく。
「今夜も待っているよ」
柊は数馬に軽くキスをすると、涼し気な顔で温室を出ていった。数馬は、柊の愛撫に感じてしまう自分の身体が、たまらなく嫌だった。
数馬が咲樹と暮らすための家を借りたのは、それからしばらくたってのことだった。離れて暮らせば、柊だって諦めると思ったのだ。そして数馬も、柊へのあってはならない欲望を抑えられる。純粋に親子として接する事ができる。そう思っていた。
いつも優しく自分を支えてくれる咲樹。彼女となら、自分はやり直せると思っていた。普通に結婚して、明るい家庭を築くのだと。だが、現実はそう甘くはなかった。
「家を出た?嘘でしょ?」
咲樹は、数馬の言葉に目を見開いた。
「嘘じゃないよ。これからは、咲樹と2人で生きたいんだ。家とか関係なく」
数馬は、咲樹が喜んでくれると思ったのだ。だが、彼女は急に不機嫌になると、チッと舌打ちをした。
「さ、咲樹?」
「あんたが家を出たら、なんの意味もないじゃないっ。何勝手なことしてんのよっ。使えないわねっ」
「え?」
咲樹は声も口調もガラッと変わり、数馬の知らない女性になっていた。
「あーあ。玉の輿に乗れると思ったのに」
咲樹が数馬に近づいたのは、彼が金持ちの息子だったからだ。顔立ちもスタイルもいい。そのうえ金持ちなら、まさに申し分ない彼氏だ。彼女の目的は、数馬の家や資産だったのだ。
「さよなら。あんたに用はないわ」
咲樹は、数馬の制止さえ聞かず去っていった。
咲樹が去った後。数馬は1人新居にいた。ガランとしてなにもない部屋。まさに、今の数馬そのものだった。
どれぐらいそうしていたのか。窓の外が暗くなってきた頃、不意に誰かが入ってきた。振り向くと、そこには柊がいた。照明をつけないまま、数馬は虚ろな眼差しを柊へと向ける。
「父さん」
「帰ろう。数馬」
すべてを知っているかのような言い方に、数馬は気がついたら柊を押し倒しその胸ぐらを掴んでいた。
「全部。全部父さんのせいだっ。なんで、母さんがいるのに男とばかりセックスをするんだっ。なんで、実の息子とこんな関係を続けるんだっ」
泣きながら揺さぶれば、柊の指が数馬の頬を優しく拭う。
こんな時だけ、普通の父親になるなんてずるいと思った。こんな風に優しくされたら、柊を憎めない。こんな風に優しく抱き締められたら、逆らえない。
「私が初めて男を知ったのは、まだ13歳の頃だった」
告白は淡々としていた。床に倒れこんだまま、柊の手が数馬の背中をゆっくり撫でる。
「相手は、父だった」
「じいちゃんが?」
信じられなかった。祖父はとても律儀で、紳士的で、タブーを犯すような人間ではない。だが、それが真実だった。
「夜になると、あの離れで犯された。どれだけ悲鳴をあげても、誰も助けてはくれなかったよ」
母親や使用人達は、父が息子に強いた淫らな関係を知っていた。だが、逆らうと家を出されるという不安からか、誰もが口を閉ざしていた。
「女も知らないうちに、私は男と交わる快楽を知った。同級生や教師、あらゆる男が私を欲し、その度に身体を開いてきた」
柊の瞳には、これまで数馬が見たことのない哀しみが浮かんでいた。
「だが、誰も私を愛してはくれなかったんだ」
実父は、同性愛を隠すためだけに我が子を犯し続けた。そこに、愛などなかった。ただ都合がいい相手だから。それだけだった。その事に気がついた柊は、涙さえ出なかった。
同級生や教師が柊を求めたのは、金持ちの息子だからだ。そうとも知らず、柊は甘い言葉を囁かれては身体を開いた。後に残るのは、虚しさだけだった。
唯一、自分を愛してくれると思った庭師の男も、単に仕事欲しさのためだった。ただ、肉体の相性が良かったため、その男とは度々身体を重ねた。
「絢子も、私の家柄だけで結婚した。私を愛してなどいなかったんだ」
「母さんが、まさか・・・っ」
いつも優しく微笑む母親の一面に、数馬は言葉を失った。
「初夜の日に言われたよ。私と結婚したのは家のためだと。愛など、なかったんだ」
柊は、ゆっくりと数馬の頬を撫でた。輪郭を確かめるように。
「お前が生まれた時は、とても嬉しかった」
柊は、父親としての笑みを浮かべた。
「お前だけが、純粋に私を慕ってくれた」
決して柊はいい父親ではなかった。なのに、数馬はまっすぐな瞳を向けてくれる。そのことが、柊には嬉しかったのだ。
「お前だけが、私自身を見てくれた」
数馬は、初めて柊の弱さと辛さを見た気がした。そして、彼が決して性欲を満たすためだけに自分と性的関係を持っていたわけではないこともわかった。
(俺は、父さんの何を見ていたんだろう)
数馬のなかで、柊への気持ちが形を変えていく。フローリングの床に押し倒しまま、深く柊に口付けた。ピクッと身体を震わせた柊が、すぐに情熱的に舌を絡めてくる。まるで、砂漠でオアシスを見つけた旅人のように、それは貪るような勢いだった。
数馬は、初めて自分から柊の身体を愛撫した。唇と指で感じる柊の身体は、少しでも力を入れれば折れてしまいそうなぐらい繊細だった。
襟を左右に割り、果実のような乳首をキュッと摘まめば、柊の口から甘い吐息がこぼれる。チラッと視線を向ければ、指を噛み締めて頬を赤くする柊がいた。
ドクンッと数馬の心臓と股間が反応した。それは、紛れもない欲情だ。どれだけ柊を遠ざけようとしても、所詮は無理なのだ。なぜなら、数馬の本能が柊
を求めていたから。
「父さんを、抱いてもいい?」
囁くと、柊が嬉しそうに頷く。数馬は、柊の中心へと迷わず顔を伏せた。
「数馬っ、あっ」
毎日のように柊にしてもらっていた行為を、まさか自分がするとは思っていなかった。だが、嫌悪は感じなかった。口の中で震える柊自身を、隅から隅まで愛した。
「あっ、はあっ、あっ、あぁぁぅあっ」
初めて、数馬から柊を貫いた。柊はフローリングに何度も背中を打ち付けながら、やがて数馬を締め付けて果てた。そして、数馬はありったけの想いを柊の中へと注いだ。
室内には、ハァハァという2人の息だけが響いている。
柊は数馬の耳に唇を寄せると、甘く囁いた。
「明日も、私を抱いてくれるか?」
数馬は、その言葉にもう逆らうことはなかった。どこまでも続く快楽の中に、柊と一緒に浸かることを心に決めた。
「父さんが望むだけ・・・」
そして、数馬は柊に誘われるまま唇を寄せた。
「数馬さん。この後、映画でも行きませんか?」
甘ったるい声に顔を上げれば、社長令嬢である相沢ユカリがモジモジしながら立っていた。数馬は、内心辟易しながらも、営業用のスマイルを浮かべる。
「ごめん。今日は早く帰らなきゃいけないんだ」
「え?でも、お母様から今日は・・・」
「それじゃ」
数馬は、ユカリの言葉を遮るように会社を出た。大学を卒業した数馬は、有名企業の相沢グループに就職した。母親同士が親友らしく、いつの間にかユカリとの交際がスタートしていたのだ。だが、数馬はユカリと交際する気などない。
「ただいま」
帰宅した数馬に、母親の絢子が目を丸くする。
「数馬。あなた、どうして・・・」
「悪いけど、彼女と結婚する気はないよ」
数馬は、まだ何か言いたげな絢子を無視して浴室へと向った。
風呂に入り浴衣を羽織った数馬は、足早に離れへと向かった。昔は、離れへと続く渡り廊下を歩く度に気が重かった。だが、今はその逆だ。早く離れへ行きたくて仕方がない。
「お帰り。数馬」
離れでは、お揃いの浴衣を着た柊が出窓に腰かけて微笑んでいる。40代後半とは思えない若い外見と、儚げな笑みがなんともいえず数馬の心を揺さぶった。
「疲れた顔をしているね。なにかあったのかい?」
気遣わしげな表情で近づいてくる柊を、数馬は黙って抱き締めた。すると、すぐに柊の細い指が頬を撫でて、ゆっくりと唇が重ねられる。
親子で、それも男同士ですることじゃない。わかってはいるが、数馬は柊との関係がやめられない。1人の人間として、数馬は柊を愛してしまったのだ。
絡み合う舌は甘く柔らかで、互いの身体をまさぐる指は止まることはなかった。
「今夜は、ずいぶん乱暴だね」
クスクス笑いながら、柊が数馬の背中を抱き締める。だが、すぐにその唇からは甘い吐息がこぼれた。
「早く、父さんが欲しかった」
不思議な事に、抱けば抱くほど数馬は柊の身体に溺れた。浴衣をはだけさせ、両足を抱える。そして、一気に貫いた。
「私も、お前が欲しかった・・・っ」
柊の、掠れた声が聞こえる。数馬は、その声に応えるように更に強く柊を貫いた。
「あっ、はぁっ、もっと、もっと激しく・・・っ」
柊が甘くねだる。
やがて、互いの熱が放たれ、穏やかな時間が訪れた。
「すまない」
行為の後。柊が白く細い指で小麦色の胸をゆっくりと撫でながら呟く。
「なんで、謝るの?」
「お前には、普通の幸せを与えたかったのに」
柊が声を出さずに泣く。数馬は、その髪を優しく撫でた。
「私が、お前を愛してしまったばかりに・・・」
数馬は、その先の言葉をキスで塞いだ。
「そんな風に、言わないでよ」
数馬は、柊だけが悪い訳ではないとわかっていた。柊を愛したのは自分の意思だ。強制されて愛した訳ではない。数馬は、声を出さずに泣き続ける柊を、ただただ抱き締めて慰めた。
「あなたは、いつまであの人とこんなことを続ける気なの」
深夜。キッチンで水を飲んでいれば、が後ろから鋭い視線を投げかけてくる。
やはり知っていたかと、数馬は内心溜め息を吐いた。薄々気がついていた。絢子は、柊と数馬の関係に気づいていることを。
「母さんには関係ない」
家のために結婚した母親に、あれこれと言われたくはなかった。数馬の言葉に、絢子は唇を噛み締めた。
「自分が何をしているのか、わかっているの?」
「わかってるさ。俺は父さんを愛している」
「数馬っ」
「母さんに責める資格があると?」
聞けば、絢子は口を閉ざした。愛を求める柊の手を拒んだのは、絢子自身なのだ。
「父さんは、ただ愛されたかっただけなんだ」
数馬は絢子に背中を向けると、柊が待つ離へと向った。
数馬が離れへ戻ると、ベッドの上で柊が不安げな表情を浮かべていた。
「大丈夫だよ、父さん」
数馬にとって、柊は父親であり弟のようであり、愛しい恋人だった。
「俺は、父さんを離したりしないよ」
囁けば、まるで幼い子供のような笑顔が返ってくる。この関係は、おそらく誰にも理解ができない。それでも構わないと数馬は思った。
自分達の愛は、自分達だけが知っていればいいと。
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