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第二話
男娼を買った男
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(身体が、熱い)
怜希はうっすらと目を開けると、ハァハァと熱い息を吐いた。僅かに腰を動かしただけで、身体中がギシギシと痛む。おまけに、肛門にはまだ将太の太いアレが埋まっているようだ。男に抱かれるのは、想像していた以上に身体が疲れるようだ。周囲に人の気配はない。将太は、いなくなったのだろうか。不意に、ヒヤッとした手拭いが額に当てられる。
「起きたか?」
心配そうな声と同時に、将太が顔を近づけてきた。
(逃げたかと思った)
声に出さずに怜希は呟いた。それならそれで構わなかったのだが、居てくれた事に安堵した。
「粥、食べれるか?」
優しく抱き起こされ、将太の胸に凭れるような形になる。口許に、やや冷めた粥が運ばれた。刻んだ梅が入れられていて、口に入れると爽やかな味がした。
「悪かったな。あんまり、その、お前が色っぽいから、加減できなかった」
照れ臭いのか、将太が目を合わせようとしない。間近で見る黒い瞳は、初めて見かけた時のままだ。まっすぐで、汚れない。
「犯せと言ったのは私だ。気にするな」
怜希は元々人見知りが激しかった。家族や友人以外とは、会話さえ長続きしない。なのに、なぜか将太とはスラスラと話せた。厚い胸板に体重を預けていると、不思議な安堵感を感じた。
「なんで男に犯されたかったんだ?」
将太の疑問に、怜希は苦笑で返した。
「私は、元々歴史小説を書いていたんだ」
怜希は幼い頃から歴史が好きだった。歴史小説家になったのは、自身の探求心を満たすためだった。かつての偉人達の足跡を辿りながら、真相を推察するのが堪らなく楽しかった。だが、好きなだけでは作家業は長続きしない。
「出版社から、大衆受けするものを書くように言われたんだ。できるだけ話題性のあるものを…」
「それで、同性愛を題材にしようと?」
将太の問いに、怜希が頷く。単なる恋愛小説を書いたところで、話題も何もないだろうと考えたためだ。それに、かつての日本では男色は珍しい事ではない。特に江戸時代では、当たり前のように男性同士が恋に落ちていた。歴史的な背景も描かれると思い、ペンを走らせた。
時代は江戸時代から明治の間。
旅館の下男として働く男は、若く美しい主人に密かな恋心を抱いていた。
優しくしてくれる主人に、自分を好いているのだと舞い上がった。
だが、そうではなかった。
主人は、常連客に片思いをしていたのだ。
主人が下男に優しくしていたのは、常連客に嫉妬してほしいがためだった。
利用された下男は、ある夜。
眠る主人を廃屋に連れ込むと、目隠しをし、両手を柱にくくりつけた。
そして、常連客と同じ香水を自らに振りかけ主人を犯したのだ。
常連客に犯されていると錯覚した主人は、絶望の中で快楽を得る。
こうして下男は、主人の操を手に入れたのだ。
「自分では傑作だと思っていた」
だが、編集者は物足りないと原稿を突き返してきた。
「犯される主人の描写に色気がないと言われた」
だが、男同士の性交について怜希には知識がない。男に抱かれた時、そこに快楽はあるのだろうか?無理やり犯され、気持ちよくなれるのだろうか?いろんな男娼に聞いて回ったが、答えは得られなかった。
そこで、男娼を買う事にしたのだ。
「で?気持ち良かったか?」
将太が聞けば、怜希が頷く。
「おそらく、あれが快楽というのだろう」
押し広げられる痛みと、中を満たす圧迫感。将太の熱棒がある場所に当たった瞬間。怜希はかつてないほどの気持ち良さを感じていた。何かにすがりたいのに、両手が縛られていてもどかしい。自分を凌辱する男なのに、救いを求めてしまう。
「お前は、男を抱くのがうまいと聞いた」
それは、怜希なりに誉めたつもりだった。だが、将太の表情が一瞬だけ曇る。怜希は微かに焦った。喜怒哀楽が乏しく、周囲からは何を考えているかわからないと言われる怜希。だが、人一倍相手の反応には敏感だった。
「すまない。なにか変な事を言ったか?」
「…別に」
将太はぬるくなったからと、洗面器を持って台所へ向かった。残された怜希は、初めて感じる切なさに戸惑った。
(なぜ、こんなに落ち着かないのだろう)
将太が離れただけで、なぜか不安なのだ。
あの日。初めて将太を見た時の事を思い出す。男娼に教えられ、ガラス越しに将太を見た。客達に媚を売るわけでもなく、現実を嘆くわけでもなく、ジッと宙を見据えていた。
そのまっすぐな瞳に、惹かれて止まなかった。彼になら犯されてもいいと思ったのだ。
もし、怜希がこの事を将太に話していたら笑ってこう言うだろう。
「それ、恋って言うんだぜ」
と。
怜希はうっすらと目を開けると、ハァハァと熱い息を吐いた。僅かに腰を動かしただけで、身体中がギシギシと痛む。おまけに、肛門にはまだ将太の太いアレが埋まっているようだ。男に抱かれるのは、想像していた以上に身体が疲れるようだ。周囲に人の気配はない。将太は、いなくなったのだろうか。不意に、ヒヤッとした手拭いが額に当てられる。
「起きたか?」
心配そうな声と同時に、将太が顔を近づけてきた。
(逃げたかと思った)
声に出さずに怜希は呟いた。それならそれで構わなかったのだが、居てくれた事に安堵した。
「粥、食べれるか?」
優しく抱き起こされ、将太の胸に凭れるような形になる。口許に、やや冷めた粥が運ばれた。刻んだ梅が入れられていて、口に入れると爽やかな味がした。
「悪かったな。あんまり、その、お前が色っぽいから、加減できなかった」
照れ臭いのか、将太が目を合わせようとしない。間近で見る黒い瞳は、初めて見かけた時のままだ。まっすぐで、汚れない。
「犯せと言ったのは私だ。気にするな」
怜希は元々人見知りが激しかった。家族や友人以外とは、会話さえ長続きしない。なのに、なぜか将太とはスラスラと話せた。厚い胸板に体重を預けていると、不思議な安堵感を感じた。
「なんで男に犯されたかったんだ?」
将太の疑問に、怜希は苦笑で返した。
「私は、元々歴史小説を書いていたんだ」
怜希は幼い頃から歴史が好きだった。歴史小説家になったのは、自身の探求心を満たすためだった。かつての偉人達の足跡を辿りながら、真相を推察するのが堪らなく楽しかった。だが、好きなだけでは作家業は長続きしない。
「出版社から、大衆受けするものを書くように言われたんだ。できるだけ話題性のあるものを…」
「それで、同性愛を題材にしようと?」
将太の問いに、怜希が頷く。単なる恋愛小説を書いたところで、話題も何もないだろうと考えたためだ。それに、かつての日本では男色は珍しい事ではない。特に江戸時代では、当たり前のように男性同士が恋に落ちていた。歴史的な背景も描かれると思い、ペンを走らせた。
時代は江戸時代から明治の間。
旅館の下男として働く男は、若く美しい主人に密かな恋心を抱いていた。
優しくしてくれる主人に、自分を好いているのだと舞い上がった。
だが、そうではなかった。
主人は、常連客に片思いをしていたのだ。
主人が下男に優しくしていたのは、常連客に嫉妬してほしいがためだった。
利用された下男は、ある夜。
眠る主人を廃屋に連れ込むと、目隠しをし、両手を柱にくくりつけた。
そして、常連客と同じ香水を自らに振りかけ主人を犯したのだ。
常連客に犯されていると錯覚した主人は、絶望の中で快楽を得る。
こうして下男は、主人の操を手に入れたのだ。
「自分では傑作だと思っていた」
だが、編集者は物足りないと原稿を突き返してきた。
「犯される主人の描写に色気がないと言われた」
だが、男同士の性交について怜希には知識がない。男に抱かれた時、そこに快楽はあるのだろうか?無理やり犯され、気持ちよくなれるのだろうか?いろんな男娼に聞いて回ったが、答えは得られなかった。
そこで、男娼を買う事にしたのだ。
「で?気持ち良かったか?」
将太が聞けば、怜希が頷く。
「おそらく、あれが快楽というのだろう」
押し広げられる痛みと、中を満たす圧迫感。将太の熱棒がある場所に当たった瞬間。怜希はかつてないほどの気持ち良さを感じていた。何かにすがりたいのに、両手が縛られていてもどかしい。自分を凌辱する男なのに、救いを求めてしまう。
「お前は、男を抱くのがうまいと聞いた」
それは、怜希なりに誉めたつもりだった。だが、将太の表情が一瞬だけ曇る。怜希は微かに焦った。喜怒哀楽が乏しく、周囲からは何を考えているかわからないと言われる怜希。だが、人一倍相手の反応には敏感だった。
「すまない。なにか変な事を言ったか?」
「…別に」
将太はぬるくなったからと、洗面器を持って台所へ向かった。残された怜希は、初めて感じる切なさに戸惑った。
(なぜ、こんなに落ち着かないのだろう)
将太が離れただけで、なぜか不安なのだ。
あの日。初めて将太を見た時の事を思い出す。男娼に教えられ、ガラス越しに将太を見た。客達に媚を売るわけでもなく、現実を嘆くわけでもなく、ジッと宙を見据えていた。
そのまっすぐな瞳に、惹かれて止まなかった。彼になら犯されてもいいと思ったのだ。
もし、怜希がこの事を将太に話していたら笑ってこう言うだろう。
「それ、恋って言うんだぜ」
と。
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