買った男と買われた男

すいかちゃん

文字の大きさ
2 / 5
第二話

男娼を買った男

しおりを挟む
(身体が、熱い)
怜希はうっすらと目を開けると、ハァハァと熱い息を吐いた。僅かに腰を動かしただけで、身体中がギシギシと痛む。おまけに、肛門にはまだ将太の太いアレが埋まっているようだ。男に抱かれるのは、想像していた以上に身体が疲れるようだ。周囲に人の気配はない。将太は、いなくなったのだろうか。不意に、ヒヤッとした手拭いが額に当てられる。
「起きたか?」
心配そうな声と同時に、将太が顔を近づけてきた。
(逃げたかと思った)
声に出さずに怜希は呟いた。それならそれで構わなかったのだが、居てくれた事に安堵した。
「粥、食べれるか?」
優しく抱き起こされ、将太の胸に凭れるような形になる。口許に、やや冷めた粥が運ばれた。刻んだ梅が入れられていて、口に入れると爽やかな味がした。
「悪かったな。あんまり、その、お前が色っぽいから、加減できなかった」
照れ臭いのか、将太が目を合わせようとしない。間近で見る黒い瞳は、初めて見かけた時のままだ。まっすぐで、汚れない。
「犯せと言ったのは私だ。気にするな」
怜希は元々人見知りが激しかった。家族や友人以外とは、会話さえ長続きしない。なのに、なぜか将太とはスラスラと話せた。厚い胸板に体重を預けていると、不思議な安堵感を感じた。
「なんで男に犯されたかったんだ?」
将太の疑問に、怜希は苦笑で返した。
「私は、元々歴史小説を書いていたんだ」
怜希は幼い頃から歴史が好きだった。歴史小説家になったのは、自身の探求心を満たすためだった。かつての偉人達の足跡を辿りながら、真相を推察するのが堪らなく楽しかった。だが、好きなだけでは作家業は長続きしない。
「出版社から、大衆受けするものを書くように言われたんだ。できるだけ話題性のあるものを…」
「それで、同性愛を題材にしようと?」
将太の問いに、怜希が頷く。単なる恋愛小説を書いたところで、話題も何もないだろうと考えたためだ。それに、かつての日本では男色は珍しい事ではない。特に江戸時代では、当たり前のように男性同士が恋に落ちていた。歴史的な背景も描かれると思い、ペンを走らせた。
時代は江戸時代から明治の間。
旅館の下男として働く男は、若く美しい主人に密かな恋心を抱いていた。
優しくしてくれる主人に、自分を好いているのだと舞い上がった。
だが、そうではなかった。
主人は、常連客に片思いをしていたのだ。
主人が下男に優しくしていたのは、常連客に嫉妬してほしいがためだった。
利用された下男は、ある夜。
眠る主人を廃屋に連れ込むと、目隠しをし、両手を柱にくくりつけた。
そして、常連客と同じ香水を自らに振りかけ主人を犯したのだ。
常連客に犯されていると錯覚した主人は、絶望の中で快楽を得る。
こうして下男は、主人の操を手に入れたのだ。
「自分では傑作だと思っていた」
だが、編集者は物足りないと原稿を突き返してきた。
「犯される主人の描写に色気がないと言われた」
だが、男同士の性交について怜希には知識がない。男に抱かれた時、そこに快楽はあるのだろうか?無理やり犯され、気持ちよくなれるのだろうか?いろんな男娼に聞いて回ったが、答えは得られなかった。
そこで、男娼を買う事にしたのだ。
「で?気持ち良かったか?」
将太が聞けば、怜希が頷く。
「おそらく、あれが快楽というのだろう」
押し広げられる痛みと、中を満たす圧迫感。将太の熱棒がある場所に当たった瞬間。怜希はかつてないほどの気持ち良さを感じていた。何かにすがりたいのに、両手が縛られていてもどかしい。自分を凌辱する男なのに、救いを求めてしまう。
「お前は、男を抱くのがうまいと聞いた」
それは、怜希なりに誉めたつもりだった。だが、将太の表情が一瞬だけ曇る。怜希は微かに焦った。喜怒哀楽が乏しく、周囲からは何を考えているかわからないと言われる怜希。だが、人一倍相手の反応には敏感だった。
「すまない。なにか変な事を言ったか?」
「…別に」
将太はぬるくなったからと、洗面器を持って台所へ向かった。残された怜希は、初めて感じる切なさに戸惑った。
(なぜ、こんなに落ち着かないのだろう)
将太が離れただけで、なぜか不安なのだ。
あの日。初めて将太を見た時の事を思い出す。男娼に教えられ、ガラス越しに将太を見た。客達に媚を売るわけでもなく、現実を嘆くわけでもなく、ジッと宙を見据えていた。
そのまっすぐな瞳に、惹かれて止まなかった。彼になら犯されてもいいと思ったのだ。
もし、怜希がこの事を将太に話していたら笑ってこう言うだろう。

「それ、恋って言うんだぜ」

と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

雪色のラブレター

hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。 そばにいられればいい。 想いは口にすることなく消えるはずだった。 高校卒業まであと三か月。 幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。 そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。 そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。 翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

クリスマスまでに彼氏がほしい!

すずかけあおい
BL
「彼氏ほしい」 一登がいつものように幼馴染の郁瑠に愚痴ると、郁瑠から「どっちが先に恋人作れるか勝負するか」と言われて……。 like以上love未満な話です。 〔攻め〕郁瑠 〔受け〕一登

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

処理中です...