日常にちょっとした彩りを添えて

すいかちゃん

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ずっと一緒にいたい人

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咲子にとって、幼馴染みの俊和は特別な存在だった。兄弟とも男友達とも違う。家が隣同士だったから、何をするのも一緒だった。それが当たり前だったのだ。一つ年が上の俊和は、咲子にとってまさにヒーローだった。逆上がりも、クロールを教えてくれたのは俊和だった。
近所の悪ガキからいじめられた時も、俊和が真っ先に駆けつけてくれた。泣き止まない咲子を、小麦畑に連れていってくれたこともあった。

『すごい!黄金の海だぁ』

風が吹く度に波のようにうねる小麦に、幼い咲子は夢中だった。

『サキ。俺のお嫁さんになってくれ』

『うんっ』

子供同士の、他愛ないやりとりだった。
思春期を迎えた頃。咲子は、俊和に会う度にドキドキする自分に気がついた。まるで、ドラムのように大きな鼓動。それが恋心なのだとわかった時、なぜかとても嬉しかった。
(とー君と、ずっと一緒にいたい)
俊和は決してイケメンというわけではない。勉強もスポーツも人並みだ。でも、笑うととってもかわいいのだ。そして、誰よりも咲子を知っていてくれる。
咲子が友達とケンカした時も、テストで悪い点を取って親に叱られた時も、俊和はいつも慰めてくれた。

『俺は、いつも咲子の味方だから』

それが俊和の口癖だった。俊和の前でだけ、咲子は素直になれた。結婚相手は俊和しかいない。ずっとそう思ってきた。
七夕祭りの夜。町のショッピングモールには、大きな笹が飾られた。誰でも自由に短冊を吊るすことができる。
「とー君な何て書いたの?」
「内緒。願い事は、誰にも言わない方がいい」
「何よ。ケチ」
咲子は、短冊に『とー君とずっと一緒にいられますように』と小さく書いた。好きだと言ってくれなくていい。恋人にしてくれなくてもいい。
ただ、笑う時も泣く時も俊和に側にいて欲しかった。俊和も同じ気持ちだと思っていた。
だが、違った。
ある日。咲子に市長の息子との縁談が持ち上がった時。俊和は止めてはくれなかった。
「どうして、止めてくれないの?」
咲子が聞けば、俊和は背中を向けたまま「止める理由はない」と言った。
「市長の息子と結婚すれば、左団扇で暮らせる。良かったじゃないか」
その言葉で、咲子は自分が独りよがりの恋をしていたと知った。俊和にとっての自分は、その程度の存在なのだ。
咲子は、泣きながらあのショッピングモールへ行った。並んで見ていた笹が、今日はなぜか寂しそうだった。
不意に1枚の短冊が見えた。風に揺れた緑の短冊を指で触れ、咲子はギュッと目を閉じた。

(これでいいんだ)
咲子が結婚する朝。俊和は、いつも通り工場へ出掛けた。両親からは式に参列するように言われていたが、そんな気分にはなれなかった。なぜなら、本心は違ったから…。「結婚おめでとう」なんて、本当は言いたくなかった。咲子のことがずっと好きだったから。
小柄で泣き虫で、笑うととてもかわいい咲子。俊和にとって、世界で一番大切な女性だ。これからもずっと一緒にいたい。そう思っていた。
だが、これも咲子のためだった。咲子に縁談の話が持ち上がった日。市長の息子が俊和を訪ねてきた。咲子の未来を考えろと言われたのだ。その言葉は、俊和の心を大きく乱した。
安月給の自分なんかより、市長の息子との方が幸せなのではないか。そう考えるようになったのだ。市長の息子は、人柄もとてもいい。咲子を大切にしてくれるだろう。
(俺のことなんて、すぐに忘れるさ)
幼かった頃の恋心など、きっとすぐに色褪せる。俊和は、なんとか自分の気持ちを押さえつけようとした。そんな時、結婚式場から咲子が消えたという知らせがきた。俊和は何も考えず飛び出すと、ひたすら走った。
「サキ…ッ」
俊和には、咲子の居場所がすぐにわかった。思い出の麦畑。そこに、白無垢姿の咲子がいた。
「サキッ。何してるんだっ」
「私、とー君のお嫁さんになりたい」
白無垢姿の咲子は、とっても綺麗だった。綺麗で、綺麗すぎて、このまま抱き締めたかった。その気持ちを、俊和がグッとこらえる。
「バカなこと言うなっ。俺なんかより、市長の息子と結婚すれば…」
「一緒にいたいのっ」
俊和の言葉を、咲子の声が遮った。
「晴れていても、雨が降っていても、とー君といたい。嬉しい時は一緒に笑いたいっ。哀しい時は、一緒に泣きたいっ」
咲子の瞳から、ボロボロと涙が溢れた。幼い頃のままに…。
俊和は麦畑に足を踏み入れた。
「とー君だって、そう思っているくせに…っ」
ショッピングモールの短冊。そこには、『サキとずっと一緒にいたい』と書いてあった。
「俺なんかより、あいつと結婚した方が…」
「勝手に決めないでよっ」
咲子が小走りに駆けてくる。だが、草履ではかなり走りにくいらしい。俊和の手前で大きくバランスを崩した。
「サキ…ッ」
咄嗟に咲子を抱き締めた俊和は、その腕に力を込めた。離せるはずがないのだ。
「本当に、俺なんかでいいのか?」
「とー君がいい」
咲子が背伸びをして俊和に口づける。
小麦畑の中で、2人は永遠を誓い合った。



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