5 / 6
嫁が知った姑の秘密
しおりを挟む
姑。
それは、嫁にとっては天敵と言ってもいい相手である。なぜなら、姑は女としても嫁としても先輩だからだ。
結婚する前はあんなに優しかったのに、嫁になった途端に態度が変わる。なんてこともあるのだ。料理や掃除にダメ出しされ、口ごたえさえ許されない。
姑に嫌われたことにより、夫との関係が壊れてしまうことだってあり得るのだ。だから、嫁は夫よりも姑のご機嫌取りをするようになる本能で感じるのだ。この人に逆らってはならないと…。
念願かなって見事玉の輿に乗れた果穂。彼女もまた、嫁姑という未知の関係に悩まされていた。大学時代から付き合っていた公太郎は、ルックスも家柄もいい。結婚が決まってからは、友人達から羨望の眼差しで見られた。だが、優雅な左団扇とはいかなかった。果穂の前に、最大の敵が立ち塞がったのだ。それは、公太郎の母親・淑子だ。
家事や育児を完璧にこなすだけではない。30代で化粧品会社を企業し、瞬く間にセレブの仲間入り。その敏腕ぶりから、テレビや雑誌でも注目されている。欠点が見つからない。まさに、パーフェクトな女性なのだ。果穂は育ちが特にいいわけではない。そのため、マナー教室や茶道などで徹底的に自分磨きを行った。そのせいか、淑子との会話もそこそこ弾むようになった。
結婚して初めての帰省。果穂は、淑子お手製のビーフストロガノフに衝撃を受けた。
「美味しい…っ。今まで食べたなかで一番美味しいですっ」
「あら、果穂さんはお世辞が上手なのね」
ホホホと朗らかに笑う淑子は、とても親しみやすかった。なので、果穂はつい大胆なお願いをしてしまったのだ。
「作り方を教えてくれませんか?」
次の瞬間。穏やかだった空気が一変した。淑子の瞳が厳しくなり、微笑みを浮かべていた唇は真一文字に結ばれた。公太郎や義父は視線を逸らし、果穂の味方はいなくなった。
「果穂さん。聞けばなんでも教えてもらえるなんて思っているの?嫁とは、そんな甘いものではないわよ」
「も、申し訳ありませんっ」
果穂は持っていたスプーンを置き、何度も謝罪を繰り返した。
「このビーフストロガノフは、私が寝ずに考案したもの。簡単に教えるわけにはいかないわ」
果穂は、これが姑かと改めて思い知った気がした。
「そんなキラキラしたネイルなんかして、料理はできるの?もしかして、お惣菜ばかり?」
「い、いえっ。そんなことはありませんっ」
それから果穂は変わった。派手なネイルやメイクは封印し、空いている時間にはマナー教室や料理教室を梯子して学びを得た。
20年後。
果穂の料理の腕は上がりに上がりまくり、オンラインでスクールを開くまでになっていた。和洋中はもちろんのこと、トルコやアフリカ料理などにも詳しくなった。
だが、果穂は満足できなかった。なぜなら、いまだ姑の味を再現できないのだから…。
「なぜ?あれだけ食べて研究したのに…。なぜあの味が再現できないの?」
淑子のビーフストロガノフを食べた人間は、皆その美味しさにメロメロになる。コクがあるのにしつこくなく、肉や野菜の甘さも倍増。パンにもご飯にも合う。そんな美味しいビーフストロガノフを、果穂は作れない。永遠に姑には勝てない。
果穂はその現実に打ちのめされた。
(何度聞いてもレシピを教えてくれない。それほどまでに嫁の私が嫌いなの?)
60代を迎えた淑子は、その年齢を感じさせないエレガントさだ。果穂がレシピを聞いても、いつものように冷たく突き放すだけ。その口元には、勝者の笑みが浮かんでいた。
(こうなったら、強行手段よっ)
お正月。
果穂は普段は入ってはならないキッチンへ足を踏み入れた。棚には多種多彩なスパイスが並び、冷蔵庫には世界中から取り寄せた食材がギッシリと詰まっている。
そして、鍋の中にはビーフストロガノフ。
「えっ」
鍋に近づいた果穂は、あまりの驚きについ声を出してしまった。そこにあったのは…。
「なに…?これ…?」
そこにあったのは、某有名食品メーカーの『誰でも美味しく作れるビーフストロガノフ』の箱。果穂が箱を手に取り呆然と見つめていると…。
「か、果穂さんっ」
淑子が青ざめた表情で立ち尽くしていた。
「お義母様。あの、これ…」
「とうとう知ってしまったのね」
淑子が諦めたような溜め息をついた。
「…まだ新婚の頃。料理ができない女って思われたくなかったの」
淑子は蝶よ花よと育てられた生粋のお嬢様。料理などしたことがなかった。
「ビーフストロガノフを出したら、手作りだと勘違いされてしまって…」
言うタイミングを失ったまま、ズルズルと時だけが過ぎたのだという。
「本当のことを言おうとする度に、変なプライドが邪魔しちゃって…」
これまでの高飛車な態度が嘘のように、淑子は小さくなっていた。これまでのことを考えると、水に流すのはかなり難しい。だが、果穂にとって淑子はもう恐れる相手ではないのだ。怒る気力も失せ、果穂は淑子の手を握った。その手は想像していたよりずっと細く頼りなかった。
「私達、これからはもっと友達のような関係になりませんか?私もお義母さんも嫁同士なんだから」
「そうね。それがいいかもしれないわね」
2人の間にあった透明で冷たい壁は、いつしかなくなっていた。その代わりといってはなんだが、生涯の友ができた。
その後。淑子と果穂は共筆で嫁姑に関するエッセイを執筆した。時にはケンカしながらの楽しげな毎日を記したその本は、瞬く間に話題となりメディアでも多数取り上げられた。
「嫁姑とは、生涯のライバルでもありますが、友にもなれるんです」
果穂は笑顔でそう答えた。
もちろん、全ての嫁姑がこういった関係になれる訳ではない。だが、こうありたいという一つの理想を果穂が形にしたことは間違いないだろう。
それは、嫁にとっては天敵と言ってもいい相手である。なぜなら、姑は女としても嫁としても先輩だからだ。
結婚する前はあんなに優しかったのに、嫁になった途端に態度が変わる。なんてこともあるのだ。料理や掃除にダメ出しされ、口ごたえさえ許されない。
姑に嫌われたことにより、夫との関係が壊れてしまうことだってあり得るのだ。だから、嫁は夫よりも姑のご機嫌取りをするようになる本能で感じるのだ。この人に逆らってはならないと…。
念願かなって見事玉の輿に乗れた果穂。彼女もまた、嫁姑という未知の関係に悩まされていた。大学時代から付き合っていた公太郎は、ルックスも家柄もいい。結婚が決まってからは、友人達から羨望の眼差しで見られた。だが、優雅な左団扇とはいかなかった。果穂の前に、最大の敵が立ち塞がったのだ。それは、公太郎の母親・淑子だ。
家事や育児を完璧にこなすだけではない。30代で化粧品会社を企業し、瞬く間にセレブの仲間入り。その敏腕ぶりから、テレビや雑誌でも注目されている。欠点が見つからない。まさに、パーフェクトな女性なのだ。果穂は育ちが特にいいわけではない。そのため、マナー教室や茶道などで徹底的に自分磨きを行った。そのせいか、淑子との会話もそこそこ弾むようになった。
結婚して初めての帰省。果穂は、淑子お手製のビーフストロガノフに衝撃を受けた。
「美味しい…っ。今まで食べたなかで一番美味しいですっ」
「あら、果穂さんはお世辞が上手なのね」
ホホホと朗らかに笑う淑子は、とても親しみやすかった。なので、果穂はつい大胆なお願いをしてしまったのだ。
「作り方を教えてくれませんか?」
次の瞬間。穏やかだった空気が一変した。淑子の瞳が厳しくなり、微笑みを浮かべていた唇は真一文字に結ばれた。公太郎や義父は視線を逸らし、果穂の味方はいなくなった。
「果穂さん。聞けばなんでも教えてもらえるなんて思っているの?嫁とは、そんな甘いものではないわよ」
「も、申し訳ありませんっ」
果穂は持っていたスプーンを置き、何度も謝罪を繰り返した。
「このビーフストロガノフは、私が寝ずに考案したもの。簡単に教えるわけにはいかないわ」
果穂は、これが姑かと改めて思い知った気がした。
「そんなキラキラしたネイルなんかして、料理はできるの?もしかして、お惣菜ばかり?」
「い、いえっ。そんなことはありませんっ」
それから果穂は変わった。派手なネイルやメイクは封印し、空いている時間にはマナー教室や料理教室を梯子して学びを得た。
20年後。
果穂の料理の腕は上がりに上がりまくり、オンラインでスクールを開くまでになっていた。和洋中はもちろんのこと、トルコやアフリカ料理などにも詳しくなった。
だが、果穂は満足できなかった。なぜなら、いまだ姑の味を再現できないのだから…。
「なぜ?あれだけ食べて研究したのに…。なぜあの味が再現できないの?」
淑子のビーフストロガノフを食べた人間は、皆その美味しさにメロメロになる。コクがあるのにしつこくなく、肉や野菜の甘さも倍増。パンにもご飯にも合う。そんな美味しいビーフストロガノフを、果穂は作れない。永遠に姑には勝てない。
果穂はその現実に打ちのめされた。
(何度聞いてもレシピを教えてくれない。それほどまでに嫁の私が嫌いなの?)
60代を迎えた淑子は、その年齢を感じさせないエレガントさだ。果穂がレシピを聞いても、いつものように冷たく突き放すだけ。その口元には、勝者の笑みが浮かんでいた。
(こうなったら、強行手段よっ)
お正月。
果穂は普段は入ってはならないキッチンへ足を踏み入れた。棚には多種多彩なスパイスが並び、冷蔵庫には世界中から取り寄せた食材がギッシリと詰まっている。
そして、鍋の中にはビーフストロガノフ。
「えっ」
鍋に近づいた果穂は、あまりの驚きについ声を出してしまった。そこにあったのは…。
「なに…?これ…?」
そこにあったのは、某有名食品メーカーの『誰でも美味しく作れるビーフストロガノフ』の箱。果穂が箱を手に取り呆然と見つめていると…。
「か、果穂さんっ」
淑子が青ざめた表情で立ち尽くしていた。
「お義母様。あの、これ…」
「とうとう知ってしまったのね」
淑子が諦めたような溜め息をついた。
「…まだ新婚の頃。料理ができない女って思われたくなかったの」
淑子は蝶よ花よと育てられた生粋のお嬢様。料理などしたことがなかった。
「ビーフストロガノフを出したら、手作りだと勘違いされてしまって…」
言うタイミングを失ったまま、ズルズルと時だけが過ぎたのだという。
「本当のことを言おうとする度に、変なプライドが邪魔しちゃって…」
これまでの高飛車な態度が嘘のように、淑子は小さくなっていた。これまでのことを考えると、水に流すのはかなり難しい。だが、果穂にとって淑子はもう恐れる相手ではないのだ。怒る気力も失せ、果穂は淑子の手を握った。その手は想像していたよりずっと細く頼りなかった。
「私達、これからはもっと友達のような関係になりませんか?私もお義母さんも嫁同士なんだから」
「そうね。それがいいかもしれないわね」
2人の間にあった透明で冷たい壁は、いつしかなくなっていた。その代わりといってはなんだが、生涯の友ができた。
その後。淑子と果穂は共筆で嫁姑に関するエッセイを執筆した。時にはケンカしながらの楽しげな毎日を記したその本は、瞬く間に話題となりメディアでも多数取り上げられた。
「嫁姑とは、生涯のライバルでもありますが、友にもなれるんです」
果穂は笑顔でそう答えた。
もちろん、全ての嫁姑がこういった関係になれる訳ではない。だが、こうありたいという一つの理想を果穂が形にしたことは間違いないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
人間嫌いの狐王に、契約妻として嫁いだら溺愛が止まりません
由香
ファンタジー
人間嫌いで知られる狐族の王・玄耀に、“契約上の妻”として嫁いだ少女・紗夜。
「感情は不要。契約が終われば離縁だ」
そう告げられたはずなのに、共に暮らすうち、冷酷な王は彼女だけに甘さを隠さなくなっていく。
やがて結ばれる“番”の契約、そして王妃宣言――。
契約結婚から始まる、人外王の溺愛が止まらない和風あやかし恋愛譚。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる