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元カレと結婚するあなたへ
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「あ、あの。私、倉橋明日花といいます」
昭和の香りがプンプンするレトロな喫茶店。成川真貴は、すっかり冷めてしまったコーヒーをゆっくり流し込んだ。正直言って、なぜ自分がここに座っているのかがわからない。
「あの~、私になんのご用ですか?こう見えてけっこう忙しいんですけど」
ウェディングプランナーをしている真貴にとって、昼休みはかなり貴重な時間だった。何せ、午後からは3組ものカップルが打ち合わせにくるのだ。その前にリフレッシュしたかったのだが、台無しである。
「敬太さんのスマホに、あなたの名前と連絡先があって…。問い詰めたら、元カノだって…」
(あんのバカッ!)という心の声をなんとか押し込め、真貴は平然とした表情を浮かべた。
「そうですか。でも、3年前に別れてから一度も連絡はきてませんよ」
真貴にとって、敬太との思い出は甘酸っぱいものだった。二十歳になったばかりということもあり、初めて結婚を意識した男性だった。少しでも大人になろうと、必死に背伸びした。背伸びして、空回りして、結局ダメになったが…。
「敬太さん。あなたに未練があるんじゃないかって思うんです」
明日花の言葉に、真貴は思わず咳き込んでしまった。
「ご、ごめんなさいっ。あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。変なこと言わないで」
真貴にとって、敬太との別れは唐突だった。
『俺達、別れよう』
理由を聞いたが、敬太は答えてくれなかった。ケンカらしいケンカもなく、他に好きな相手がいたわけでもない。ただ、真貴とは付き合えないと言われたのだ。
(本当は、別れたくなかったけど…)
だが、泣いて縋るなんて真貴のプライドが許さなかった。だから、なんでもないことのように受け入れた。敬太に重い女だと思われたくなかったから…。
(私とは、何もかも正反対)
明日花は、女の真貴から見ても可愛かった。化粧はしているが、決して派手さはない。大勢の中に入ったら、見つけるのはきっと困難だろう。だけど、見つけてしまったら目が離せない。そんな娘だった。
(こういう娘がタイプだったんだなぁ)
花柄のワンピースがよく似合う明日花。男勝りでスポーティーな真貴とは、かなり違う。
『俺、真貴とは友達のままが良かった』
そう言った敬太は、とても哀しそうだった。そう言わせたのは、他ならぬ真貴だったのだろう。
「なぜ、別れたんですか?」
明日花が意を決したように聞いてきた。彼女はおそらく敬太への想いに揺れている。敬太を信用できないでいるのだ。ここで真貴が何か言えば、2人の関係はあっけなく崩れ去る。心のどこかで意地悪な考えが浮かんだ。
だけど、そう思えば思うほど敬太の笑顔が浮かぶ。屈託なく、少年のような笑顔。真貴が大好きだった笑顔。
「別れたのは、私のワガママ」
真貴はそう言って、残りのコーヒーを一気飲みした。
「敬太よりも仕事が楽しくなったの。だから、デートもかったるくなって」
真貴の言葉に、明日花は面食らったような顔をした。
「それに、私も結婚するし」
「え?」
「ちょうど来た。一馬」
真貴が手を振れば、長身の男性がゆったりと歩いてくる。
そして、当たり前のように真貴の横に座った。
「渡辺一馬さん。私の恋人よ」
「そ、そうだったんですね」
明日花はやっと納得したらしい。照れ臭そうに笑うと、オレンジジュースを美味しそうに飲んだ。そんな明日花に、真貴はグッと身を乗り出す。
「あなた。もっと自信を持ちなさい。そんなんじゃ、いつか敬太を取られるわよ」
真貴の言葉に、明日花は躊躇いがちに頷いた。
明日花が帰った後。一馬がハンカチを差し出す。
「良かったのか?これで」
「…当たり前じゃない」
ズズッと鼻をすする真貴を、一馬が優しく見つめた。明日花を納得させるために、真貴は男友達である一馬に恋人役を頼んだのだ。
「ニセモノの恋人としては、心配なんだけどな」
「うるさいっ。ニセモノの恋人なんだから、黙っててよ」
真貴にとって、敬太は特別な人だった。特別な人だからこそ、幸せになってほしかった。明日花なら大丈夫。彼女なら、きっと敬太を支えてくれる。
「今なら、敬太の言ったことがわかるの」
恋人だから壊れてしまった。友達のままだったら、きっとヒビさえ入らなかった。
「…オレは、お前と友達以上になりたいけどね」
「え?」
驚いて顔を上げた瞬間。一馬の唇が掠めるようなキスをする。
真貴の鼓動は、静かに高まっていった。
新しい恋は、既に始まっているのかもしれない。
昭和の香りがプンプンするレトロな喫茶店。成川真貴は、すっかり冷めてしまったコーヒーをゆっくり流し込んだ。正直言って、なぜ自分がここに座っているのかがわからない。
「あの~、私になんのご用ですか?こう見えてけっこう忙しいんですけど」
ウェディングプランナーをしている真貴にとって、昼休みはかなり貴重な時間だった。何せ、午後からは3組ものカップルが打ち合わせにくるのだ。その前にリフレッシュしたかったのだが、台無しである。
「敬太さんのスマホに、あなたの名前と連絡先があって…。問い詰めたら、元カノだって…」
(あんのバカッ!)という心の声をなんとか押し込め、真貴は平然とした表情を浮かべた。
「そうですか。でも、3年前に別れてから一度も連絡はきてませんよ」
真貴にとって、敬太との思い出は甘酸っぱいものだった。二十歳になったばかりということもあり、初めて結婚を意識した男性だった。少しでも大人になろうと、必死に背伸びした。背伸びして、空回りして、結局ダメになったが…。
「敬太さん。あなたに未練があるんじゃないかって思うんです」
明日花の言葉に、真貴は思わず咳き込んでしまった。
「ご、ごめんなさいっ。あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。変なこと言わないで」
真貴にとって、敬太との別れは唐突だった。
『俺達、別れよう』
理由を聞いたが、敬太は答えてくれなかった。ケンカらしいケンカもなく、他に好きな相手がいたわけでもない。ただ、真貴とは付き合えないと言われたのだ。
(本当は、別れたくなかったけど…)
だが、泣いて縋るなんて真貴のプライドが許さなかった。だから、なんでもないことのように受け入れた。敬太に重い女だと思われたくなかったから…。
(私とは、何もかも正反対)
明日花は、女の真貴から見ても可愛かった。化粧はしているが、決して派手さはない。大勢の中に入ったら、見つけるのはきっと困難だろう。だけど、見つけてしまったら目が離せない。そんな娘だった。
(こういう娘がタイプだったんだなぁ)
花柄のワンピースがよく似合う明日花。男勝りでスポーティーな真貴とは、かなり違う。
『俺、真貴とは友達のままが良かった』
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「なぜ、別れたんですか?」
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だけど、そう思えば思うほど敬太の笑顔が浮かぶ。屈託なく、少年のような笑顔。真貴が大好きだった笑顔。
「別れたのは、私のワガママ」
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「そ、そうだったんですね」
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真貴の言葉に、明日花は躊躇いがちに頷いた。
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「…当たり前じゃない」
ズズッと鼻をすする真貴を、一馬が優しく見つめた。明日花を納得させるために、真貴は男友達である一馬に恋人役を頼んだのだ。
「ニセモノの恋人としては、心配なんだけどな」
「うるさいっ。ニセモノの恋人なんだから、黙っててよ」
真貴にとって、敬太は特別な人だった。特別な人だからこそ、幸せになってほしかった。明日花なら大丈夫。彼女なら、きっと敬太を支えてくれる。
「今なら、敬太の言ったことがわかるの」
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「…オレは、お前と友達以上になりたいけどね」
「え?」
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